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変身計画開始?

 「じゃあ、まずはそのむさ苦しい髪をなんとかしよう」

 トモくんが、やる気満々でそう言った。


「髪?」


「あぁ、髪型を変えるだけで、印象を変えられるからな」


「じゃあ、授業が終わったら今日バイトの前に床屋に行ってくるわ」

 俺は早速出掛ける準備をしようとする。


「待て。床屋に行って、どの髪型を注文して切ってもらうんだ?」


「注文って、普通に短く切ってくれって言うけど…」


 するとトモくんは厳しい目つきになり、


「ダメだ!!!」


「でも俺、髪型のこととかよくわからないし。とりあえず短くなればスッキリするだろ?」


「お前なぁ」


 トモくんは呆れたように話し出す。

「お前はこれからミスターコンテストで優勝するんだろ?誰よりもかっこいい男になるんだろ?

 じゃあ、まずは髪型から、自分に合ったかっこいいものにしていかないと。

 …とりあえず、今日は本屋さんに行って、ヘアカタログを買ってくるんだ。その中から俺がお前に合った髪型を選んでやるよ」


 はぁ。もうすでに面倒くさい。それに、トモくんのために貯めているお金なのに、それを俺のために使うのは気が引ける。

 オシャレにはお金がかかる、と実感した。やっぱり俺には向いてない。


 とりあえず、俺は大学に向かった。 

 1限に授業が入っていなかったことにホッとする。でもまだ頭が少し痛い。


 席に着くと、

田口(たぐち) (すすむ)先輩ですよね?昨日は大丈夫でしたか?すごく酔っていたみたいだったので…」


 女の子が話しかけてきた。ちょっとぽっちゃりしていて、髪は肩につかないくらいで少しカールがかかっている。


「ごめん。俺、昨日は途中から記憶がないんだ。君は誰?昨日飲み会にいたの?」


「突然声かけてすみませんでした。私は2年の百田(ももた) なごみです。なごみって呼んでください。

 昨日先輩は、お店で寝てしまったんです。だから、私と3年生の先輩の2人でアパートまで送りました」


「…まじか。ごめん!!!久しぶりに飲んだ酒だったから、ついつい飲みすぎちゃって」


 はぁー。情けなさすぎて、穴があったら入りたい。

 …ん??アパートまで送った??


「もしかして、部屋の中見た?」


 恐る恐る聞くと、なごみは笑顔で


「私は入りませんでした。入り口から先は先輩が運んでくださったので」


「その先輩って、なんていう名前かわかる?」


「すみません。名前はお聞きしてなくて…。でも、先輩と同じくらいで背が高い人でしたよ。あと、茶髪でサラサラな髪でした」


 …全然わからない。秋山と仲良いやつだったら、もう俺は終わったな。卒業までからかわれるだろう。

 きっとそいつはドールハウスを見たに違いない。一気に気持ちが沈む。


 すると、なごみが

「進先輩。私、先輩のこと応援してます。だから、ミスターコンテスト頑張ってくださいね」


 そう言ってにっこり笑った。

 なんだろう、心がほっこりする。“なごみ”っていう名前がぴったりな女の子だと思った。


 講義が終わると本屋に寄って、“男のヘアカタログ

〜モテ男になるために〜”と書かれた雑誌を買った。そしてそのままバイトに向かった。


 午後11時半過ぎ、部屋に着く。

 電気をつけるが、トモくんの姿は見当たらない。


「ふぁ〜ぁ。おかえり。毎日頑張るなぁ。ヘアカタログは買ってきたか?」


 ドールハウスを見ると、トモくんがベランダに立っていた。桃さんから購入したシルクのパジャマを着ている。


「買ってきたよ」


「じゃあ今そっちに行くから待ってろ」


 そして、ベランダから部屋に戻り、正面の小さなドアから出てくる。

 

 今さらながら、ドールハウスで本当にトモくんが生活をしていることを実感する。まるで本物の家だ。


 俺の近くまでくると、床に置いたヘアカタログを器用に開いていく。

 パラパラとカタログを見ながら、


「進は面長で、切長な目だな。うーん…。これだ!マッシュショートにしよう」


「マッシュショート?」


「あぁ、これだ。この雑誌を持っていって、このマッシュショートにしてくださいって言うんだぞ?

 それから、お店で売られてるスタイリング剤も一緒に買ってくるといい」


 トモくんが指差す先には、丸いシルエットで、少し髪がくしゅくしゅっとした甘い雰囲気の男が載っていた。


「こんな髪、したことない。…似合わない気がする」


 するとトモくんは俺の足をバシっと叩いて、


「俺に任せろって言っただろ?お前の輪郭ならこの髪が似合うよ。安心しろ」


 と明るくいう。トモくんとは正反対で、俺は暗い声で、

「また金がなくなる…」


 そうつぶやくと、

「お前、バイト代がまた入るだろ?今まで俺のために使っていた分を自分に使えよ。

 あ、あと俺のクローゼットにいらない服も何着かあったから、それも売って足しにするといい」


「いらない服?冗談だろ?あれは俺のコレクションだぞ?」


 苛立って言うと、トモくんはまたしても呆れ顔で、

「いや、キラキラした王子様の服とか、カエルの着ぐるみとか、俺着る気ないし」


 これからは自分の意思で服を選んで着るということか。生意気な奴め。


「わかったよ。とりあえず、今日は飯食ってシャワー浴びて寝るわ」


「俺も一緒に食べるわ。俺にも飯分けてくれ」


 折りたたみテーブルを出すと、その上にトモくん用のダイニングテーブルセットを乗せた。

 そして、コンビニで買ってきた弁当を開けると、小皿にごはんを何粒か乗せてトモくんにあげた。

 

 誰かと一緒に家でご飯を食べるのは久しぶりで、少しだけ嬉しかった。

 今度トモくん用の食器セットも買ってこよう、そう思った。

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