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命が宿ったトモくん

「おーい。おーい」

遠くで誰かの声がする。誰だろう。澄んだ綺麗な声だ。


「おーい!おーい!」

 なんか、近づいてきてる気がする。


「おい!!起きろ!!」


「はっ!!!」


 耳元で声がして、驚くと同時に目が覚める。

 目の前には見慣れた天井。俺の部屋だ。


「いてぇ…」

 頭が割れそうに痛い。二日酔いだ。

 あの後の記憶が全くない。でも、どうにかして家に帰ってきたのだろう。

 布団は敷かずに、床に転がっていた。

 はぁ。最悪な気分だ。今はいったい何時なんだろう。 

 

 ぼーっとしたまま天井を眺めていると、


「おい進!起きたのか?」


 耳元ではっきりと声が聞こえた。

「わっっ!!!誰だ?」

 驚いて飛び起きたが、周りには誰もいない。いるのは…、


「俺だよ俺!!」


 トモくんだった。


 え、トモくんがしゃべっている?いやいや、そんなことあるはずがない。トモくんは人形なんだから。

 酒の飲み過ぎで、頭がおかしくなってるのか。

 俺は部屋の角にある小さな台所で顔を洗う。


 ふぅー。さっぱりした。

 改めて後ろを振り返ると、


「落ち着いたか?」

「……まじか、、」

 やっぱりトモくんがしゃべっている。


 あまりにも非現実的過ぎる出来事に驚いて、何も言えなくなっていると、


「それにしても、進はだっせぇなぁ!!そんなよれよれの服着てさ。俺にはいっぱい服を買うくせに、なんで自分のは買わないんだ?」


 …え??

 トモくんって、こんな感じなの?なんか、なんていうか、、

「トモくんって、失礼なやつだな。もっと紳士な感じかと思ってた」


 すると、トモくんが笑い出す。

「紳士かぁ。あはは!!確かに俺は、見た目は大人っぽいイケメンだけど、まだ高校生だぜ?俺の説明書、ちゃんと読んでないだろ。ちなみに特技はピアノとリフティング」


 こんなに大人っぽいのに、高校生なのか。知らなかった。

 …いや、今大事なのはそこじゃない。


「お前、なんでしゃべっているんだ?昨日まではただの人形だっただろ?」


「トモくんが話せるようになりますようにって、進が願ったんじゃないのか?昨日は満月だったから」


 “満月”と聞いて、昨日見た最後の光景を思い出す。窓から見えた、真ん丸なお月様。

 確かに、俺はお月様に願った。でも、トモくんのことなんて願わなかったのに…。


「は!!!!わかった。もしかして、トモくんは魔法を使えるんだろ?そして俺に魔法をかけにきたんだ!!童話の魔法使いのように!」


「俺が?そうなのかな?魔法使えるのかな?」


 トモくんは、人差し指を立ててくるくると回し、

「俺よ、大きくなぁれー!」

 と、叫んだ。


 …しかし、何も変わらず、トモくんは26センチのままだった。


「俺は魔法は使えないみたいだ」

「そうらしいな。はぁー。期待して損したわ。

 じゃあなんでお前は突然話せるようになったんだ?俺はお月様に、俺の外見を変えてくれって頼んだんだ」

 トモくんはバカにしたように笑って、

「外見を?お前、俺みたいにイケメンになりたかったのか?あはは。それは無理かもしれないな」


 トモくんを見てると、秋山と速水さんを思い出して、怒りが沸々と湧き上がってくる。


「俺だって、別に外見のことなんか気にしてないんだ。でも、このままだと勝負に負けるのはわかっているから」


 酒に酔った勢いとはいえ、本当にバカな宣言をしてしまったと思う。タイムマシンがあるなら、昨日に戻ってやり直したい。


「勝負に負けるって、なんの勝負なの?面白そうだな!」


 興味津々なトモくんに、俺は仕方がなく昨日の話をした。

 すると、トモくんは突然まじめな顔になって、


「そいつら、お前のことをかなりバカにしてるみたいだな。失礼なやつらだ。お前をバカにしていいのは俺だけなのに」


 ん?トモくんだって、充分失礼なんじゃないか?

 そう思ったが、俺以上にトモくんはご立腹のようだった。

 そして、

「俺は自分の使命を自覚したよ。進をまぁまぁイケてる男に変身させて、そのコンテストで勝たせることだ!!」


「でもお前、魔法が使えるわけじゃないんだろ?どうやって変身させるんだよ」


 するとトモくんが、

「まぁ、任せておきなよ。俺には魔法はなくても、頭とセンスと愛があるから!」

 そう言って俺にウィンクした。


 何が頭とセンスと愛だよ。魔法でも使わなければ、俺のような地味なでくの棒は、変われるわけないだろ。

 

 そう否定的に考えていると、

「ただし、条件がある」

「条件?なんだよ。部屋を改築してほしいとか?」


 トモくんは首を横に振る。

「いや、俺の好きな人を連れてきてほしいんだ」


 俺はそれがミカちゃんのことだとすぐわかった。

 正直、女の子の人形は増やす気が全くないが、多分トモくんの計画は失敗すると思ったので、


「あぁ、いいよ。2人でも3人でも連れてきてやるよ」


 そう言うと、トモくんは気合が入ったらしく、

「よし!!!目指せミスターK大だ!!!これから厳しく指導するから、覚悟しろよ?」


 そう言って、俺の足の指をポンッと叩いた。


 悪い予感しかしない。これから俺はどうなるのだろうか…。


 学祭までは約5ヶ月。とにかく動き出そう、そう思った。

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