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なごみのお守り

「なぁ、さっきの話だけどさ。もし後輩の速水ってやつがあの嫌なやつと同一人物だったら、あいつを一位から引きずり落とすネタとして使えるかもな」


 部屋に戻ると、トモくんが目を輝かせながら話しかけてきた。


「話聞いてたの?勝手に居間に来てたのか?危ないから歩き回るなよ」


「大丈夫!見つからないように移動してるからさ。それより、あの写真、スマホで写しておいた方がいいんじゃないか?」


「そんな必要ないよ。仮に速水さんが昔ダサい男で整形してたとしても、それは俺には関係ない話だ。それに、そんな卑怯なやり方したら、俺が嫌なやつになっちゃうよ」


 速水さんから言われた嫌味を思い出すとイライラはする。でも本当に整形したのなら、速水さんは俺と同じように「変わりたい」という気持ちを持っていたということだ。

 速水さんも、外見のことで差別されるような経験をしてきたのかもしれないと思うと、(おとし)めようという気持ちには全くなれなかった。


 トモくんは少し不満そうだったが、それ以上は何も言ってこなかった。


 1週間ほど実家でのんびりした後、アパートに戻ってきた。

 それからしばらくはバイトと筋トレ、そしてドールハウスの庭作りなど、充実した毎日を過ごしていた。

 庭は、トモくんからのリクエストだった。

「庭でベンチに座って花壇の花を眺めたい」

 トモくんにガーデニングの趣味があるとは思えなかったけど、ミニチュアの庭を作ることには興味があったので、作ってみることにしたのだ。でも細かい作業が多くて、完成まではまだまだ時間がかかりそうだ。


 そしてあっという間に9月に突入した。

 帰省した人たちも戻ってきて、大学の構内も賑やかになってきた。


 そんなある日、俺はなごみと二人で、構内にある池の近くのベンチに座って話をしていた。


「先輩、お元気そうで安心しました。ご実家は楽しかったでした?」


「うん。久しぶりにちゃんとしたご飯を食べたよ。

 あ、渡すの遅くなったけど、なごみにお土産買ったんだ。賞味期限はまだ大丈夫だから、よかったら食べて」


 なごみにお土産を渡すと、


「あ!これ私大好きなお菓子なんです!!ありがとうございます」


 なごみは満面の笑みで俺を見る。

 …かわいい。そんなに好きならもっと買ってくればよかった、と後悔した。


「あ、お土産のお礼っていうわけではないんですが、私も先輩に渡したいものがあるんです」


「え、ありがとう!何かな?」


 なごみはカバンの中をごそごそと探り、何かを取り出した。

 手渡されたのは、小さなお守りだった。狐の刺繍が入っている。


「必要ないとは思うんですが、もうすぐミスターコンテストがあるので、先輩が緊張せずに笑えるようにお守りを作ってみました。

 狐の刺繍も私がしたんです。先輩に似てて、かわいいから」


 刺繍はとても細かくて、見るだけで丁寧に作られたことがわかる。


「ありがとう。大事にするよ」


 そう言ったとき、誰かに横からお守りを奪われる。

 横を見ると、秋山が立っていた。そしてニヤニヤしながら俺を見て、


「昼間っから仲良しですねぇ〜。かわいい彼女がいて羨ましいよ。進くんは、こういうふくよかな子がタイプだったのかぁ。デブ専ってやつ?

 不健康男と健康ぽっちゃり女でお似合いだな」


 俺はとっさに立ち上がって、秋山の胸ぐらに掴みかかる。

「お守りを返せ。そして今言ったことを撤回しろ」


 秋山はニヤニヤしたまま、


「怒るってことは、その子のことまじで好きなんだな。じゃあこのお守りも、大事にするんだな。ちゃんと拾ってこいよ」


 そう言って、秋山は勢いよく池の中にお守りを投げ入れた。

 ポチャンっと音が鳴った。


 俺はそのまま秋山に殴りかかろうとすると、


「二人とも、やめてください!!!」


 なごみの強い力で、秋山から引き離される。

 なごみは小さな声で

「お守りのことは気にしないでください」

 と言うと、秋山の方を向き、


「先輩は何か勘違いされてるみたいですが、私と田口先輩はお付き合いしていません。私がただ田口先輩に憧れているだけなんです。

 だから、そんなふうに挑発なさっても無駄です。もうやめてくださいね。では、失礼します」


 そう言ってニコッと笑うと、なごみはその場を離れた。


「ちっ。なんかしらけちまったぜ」

 そう言って秋山も離れていき、俺だけがその場に取り残された。

 俺は、しばらくその場に立ち尽くしていた。

 残暑の厳しい日差しが突き刺さる。


 ミスターコンテスト本番までは残り約2週間になっていた。

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