プールサイドでおしゃべり
梅雨も明けて、本格的に夏が始まる頃、大学はテスト週間を迎えた。
週6日入っていたバイトも、週2日に減らしてもらい、レポートを書くなどの勉強の時間にあてる。
俺が必死になってパソコンに向かっている間トモくんは、最近ドールハウスの横に設置したリゾートホテル風プールで優雅に泳いでいる。
「せっかくオシャレな水着があるのに、泳ぐ場所がない」とトモくんに言われて、少し前に百均で調達した材料で作ったのだ。プールの部分はタッパーで出来ている。
トモくんは見事なクロールを披露した後、プールサイドに上がり、真っ白なパラソルの下にある、これまた真っ白なビーチチェアに横たわって、俺に話しかける。
「はぁー。このプール、最高だな!!!高級なリゾートホテルにきた気分だよ。
このジュースが本物ならもっと最高だけどな」
そう言って、ガチャガチャで当てたミニチュアのトロピカルジュースを手に取った。家電や家は本物になっても、食べ物だけはおもちゃのまま、変わらないらしい。
「ちょっと、静かにしてくれよ。こっちはレポートとテスト勉強で忙しいんだから」
そう言いつつ、トモくんがリゾートの気分を味わえるように、リゾートで流れていそうなBGMをパソコンで流してあげた。
「そういえば、webでの一般投票では、今何位なんだ?」
web上に写真とPR動画がアップされると同時に、一般投票といって、webを見た人が自由に投票できるシステムが開始された。
エントリーした6人のうち、俺は3位。ちょうど真ん中の位置にいた。
サークルに所属していなくて人脈もない俺が、3位という結構良い位置にいるのは、ガクのおかげだと思う。
大学にいるときに、友達に俺を紹介してくれたり、優しくてまじめな良いやつだと広めてくれたりしているらしい。
ガクは顔が広く、多くの人から好かれているので、そのガクが推している人、ということで俺の好感度も上がっているのだろう。ありがたい話だ。
「ああ、今は3位だよ」
「いい位置だな!!そして1位は誰だ?あいつか?」
「ああ。速水さんだよ」
やはり速水さんは人気がある。
はっきりとした目鼻立ちで、人形のように整った顔に、モデルのような体型。さらに、実家がお金持ちだという噂もあり、何もかもが完璧なカリスマのような存在なのだ。
「そうか。でも大丈夫だ!速水さんはお前に勝てない」
トモくんが自信満々にそう言うので、何か根拠があるのかと思って、
「なんで?」
と理由を尋ねた。
「進は持っているもので、あいつが持っていないものがあるんだ」
「逆に俺が持っていなくて、速水さんが持っているものの方が圧倒的に多そうだけど」
俺がぶっきらぼうに返すと、
「おい!最後まで聞けよ!お前にあって速水さんにないものが何かわかるか?」
俺はしばらく考えるが、やはり何も思い浮かばなかった。すると、しびれを切らしたトモくんが話しだす。
「人を思いやる心だ」
「心?なんだよ、中身の話か。どうせ中身なんて外からは見えないんだよ」
トモくんはふざけてクサい話を始めたのかと思ったが、その後も真剣に話を続けた。
「進、よく聞けよ。人の魅力にはもちろん外見も含まれるし、大切だ。でもそれだけじゃないんだよ。
やっぱり人を思いやる気持ちを持ってない自分勝手なやつは、どんなに表面を取り繕っていても、すぐにばれるんだ。
お前は中身も外側も最高だ。だから自信持てよ」
そう言うと、照れくさそうな顔をする。
それがなんだか可笑しくて、
「トモくんは最近俺のこと褒めまくりだな。そんなに俺のことが好きなのか〜」
とからかった。
するとトモくんは怒り出して、
「なんだよ!お前がネガティブなやつだから元気付けてるだけだからな!」
と言い残し、またプールに飛び込んだ。
その様子をしばらく眺めながら考える。
テストが終わって夏休みに入ったら、トモくんと一緒にプールで泳ぎたい。一緒にリゾートへ行ってのんびりしたい。本物のトロピカルジュースも飲ませてあげたい。
しばらくそんなことを考えていたが、我に返ってパソコンに向かった。
一方そのころ、速水家では…、
「おい、あのダサい男が3位に入ってるぞ」
「はい、マイケル様。でも俺との差は結構大きいですし、気にする必要はないと思います」
「いや、油断するな。あいつは去年のミスターK大を味方につけてるらしいからな。それにお前もまだまだ完璧じゃないだろ。夏休みの間に改良しないとな。
その間、俺はあいつを貶める方法を探っておくからな。
ついでにお前の犬(秋山)にも言っておけばいい。いくらかはいい働きをしてくれるはずだからな」
「わかりました」
玲はそう返事をすると、意味ありげな笑いを浮かべた。