マイケルと再会
気づけば6月に突入し、ミスターコンテストまでは残り約3ヶ月になっていた。
カサカサ肌は改善されてきた。
ガクに言われたとおり、皮膚科に行ったり、食生活を改善したり…。
次に俺がすべきことは…、
「リフティングの練習だ」
鮮やかなコバルトブルーの水着を着たトモくんが、ベランダから話しかける。
「なんでリフティング?」
「ミスターコンテストでは特技の披露もあるんだろ?リフティングなら会場で出来るし、かっこいいよ」
そうなのだ。K大のミスターコンテストでは、私服審査、ウォーキングからのポージング、特技の披露、シークレットお題の4つに挑まなければならない。
「でも、それはトモくんの特技だろ?俺の特技リフティングじゃないし」
「お前に特技ってあるのか?」
うーん、と少し考える。
「タイの歴代の王様の名前を全部言える。しかも、」
「しかも?」
「早口で」
そう言うと、トモくんは深いため息をつく。
「お前なぁ…。確かにそれはすごい特技かもしれないけど、かっこいいか?」
「かっこよくないかな…?」
「かっこよくはない…。他にはないのか?」
そう言われて、自分には得意なことが少ないと気付く。
「ドールハウスを組み立てるのは得意だけど…、コンテストでは見せられないしな」
「まぁ、とりあえずリフティングを練習してみてもいいんじゃないか?本番までに間に合わなかったら、王様の名前言えよ」
「わかった」
速水さんは何を披露するのだろうか。きっとかっこいい特技を披露するに違いない。
「はぁー。最初から差があるなぁ」
「あの嫌味なやつとか?でも、最近はお前もいい感じじゃん。女の子に声とかかけられてるし」
実はそうなのだ。髪型や服を変えてしばらくすると、女の子に連絡先を聞かれるようになった。なごみから聞いた話では、女の子の間で俺が“不健康イケメン”として、少し話題になっているらしい。
学校とバイトの毎日で、日焼けと縁がない真っ白な肌と、粗末な食事によるヒョロヒョロな身体のせいだろう。
不健康そうな男がかっこいいとは思えないが、周りからちやほやされるのは、悪い気がしない。
「でも、あんまり調子に乗るなよ。お前には改善しなきゃいけないところが、まだまだたくさんあるんだからな」
「はいはい…」
適当に返事をして家を出た。
1限の教室に入ると、誰もいなかった。大学のホームページを確認して、休講になったことに気付く。
でも2限もこの教室だから、ここでこのまま待とう。
読書をして、時間が過ぎるのを待っていると、
「おぅ、イモ男くん。また会ったな」
聞き覚えのある小さな声が、足元から聞こえた。
下を見ると、やはり、
「マイケル…」
水着姿のマイケルが仁王立ちで俺を見上げていた。たった一人で。
「…もしかして、速水さんとはぐれたのか?」
そう聞くと、
「いや、そうじゃない。俺は時々こうして玲と別行動をとるんだよ。そして、玲のために情報を収集してる。
玲は俺のこと信用してるからな。誰かさんは全く信用されてないみたいだけど」
マイケルがそう言うと、俺のリュックが開いて、中から何かが飛び出した。
「おい!勝手なこと言うなよ。進は俺のことが大切だから、ゴージャスなドールハウスの中に匿おうとするだけだ。
お前はどこかで誰かに踏みつけられてもいいと思われてるから放置されているんだろ」
…水着姿のトモくんだった。家で待ってろと言うのに、毎回知らない間にリュックの中に忍び込んでいるのだ。
「…トモくん、早く戻れよ。挑発なんかにのるな」
そう言って、戻そうとする。誰もいない教室だけど、いつ誰かが入ってきてもおかしくない状況だ。人形2体と一緒にいるところを見られたら、なんと思われるか…。
でもトモくんは戻ろうとしない。するとマイケルが話し出す。
「それは負け惜しみというものだな。お前は大事に監禁されてるだけで、何の役にも立ってないってことだろ?
イモ男くんも可哀想なやつだな。トモじゃなくて、俺と一緒にいたら、もっとカッコいいやつになれるのに。」
その途端、トモくんがマイケルに掴みかかった。
しかし、体格の差があるため、逆にマイケルに押し倒される。
「二人ともやめろ!!」
そういった時、
ガラガラ
ドアが開いた。恐る恐るドアの方を見ると、
「何の騒ぎだ」
そこには、速水さんが立っていた。