仮パーティ
フラン&ネルのパート
※92話と同じものになっていたので、差し替えました。
男はリアムという。
競売都市リスベンの外で会った時一緒にいた仲間は一人が死に、二人は王都に居を構えた。あの時の雇い主から解放されたことをきっかけに槍術士のモランドルと魔法使いのイースの二人は結婚したためリアム一人残ったという。
「じゃあ、これからよろしくお願いします」
「ああ、こっちこそ。まずは魔法都市を目指すんだよな」
「はい。今日出発する予定だったんですけど大丈夫ですか」
「問題ないさ」
リアムはそういって肩に背負った小さなバッグを叩いた。巾着のように上の部分がきゅっとしまった円筒形のナップサックのようなものだ。それほど容量がある様に見えないのでマジックバッグなのかもしれない。
それじゃあ、行きましょうとフランとネルはリアムを伴って王都を出立した。
二人がリアムと仮パーティを組むことを決めたのは、ネルが図書館にこもる間フランの時間が浮くというのがあるが、一番比重を置いたのはその間剣術を教えてもらうためである。
フランも仲間としてイチロウとともに戦いと考えている。
ただ、どうしても自分の実力が不足していると思ってしょうがないのだ。
ネルの説得もあったが、フランもまたこれはチャンスだと思ったのだ。リアムはその剣技をもって一時はイチロウを追い詰めたのだ。結果としてイチロウに敗れはしたが、B級の冒険者としての経験や技術というのは本物だと思った。
稼ぎたいというリアムに対して、二人はそれほどお金を必要としていない。そのため、パーティを組む条件として剣術を教えてもらう代わりに仕事を受けた際の依頼料は全額リアムに渡すことにしている。
王都を出てから魔法都市ドニーへと向かう街道を歩くのも二度目である。
ここらには危険な魔物も出ないため、三人は話をしながら進んでいく。
「俺の剣技も基本的には我流なんだよな。だから、偉そうに教えられることはほとんどないんだ。だから、指導するって言っても魔物との戦闘で気付いたことは指摘したり、空いた時間に稽古をつけることくらいかな」
「それで十分です」
「ああ、それと。フラン君の持ってる剣は魔法剣だよな」
「はい。魔刃を飛ばせます」
「うん。それ禁止しよう。とりあえずこっちを使って」
リアムがナップサックから取り出したのは三千鋼と呼ばれる特殊鋼を使用した丈夫なだけのただの剣である。フランが普段使用してる魔法剣と刃渡りも重さもほとんど変わらないため使い勝手はそこまで変わらない。
「いいんですか。これ結構な値段しますよね」
「ああ、問題ない。丈夫さだけが取り柄の剣でね、乱暴に扱ったところでまず刃こぼれ一つしない。修行したり新たな技を試すのにちょうどいいんだ。魔法剣はすごく便利だ。だけど、そればかり使っていると、本当の意味で魔力の扱いが覚えられない」
「それって…」
「その程度のことなら魔法剣を使わなくてもできる。ちょっとやってみよう」
立ち止まり青い刀身の剣を抜くとほとんど溜める動作もなく振りぬいた。そこから飛び出たのは赤い斬撃。何かにぶつかることなく飛続け、数十メートル先で消失する。
スキルを使うときのオーラすら纏わずにリアムはそれを実現して見せた。
「すごい」
素直な感想を漏らす。
スマニーのダンジョンで共に戦った騎士ですら溜めは必要だった。それに発動時には明らかなスキル発動オーラが出ていたのだ。もちろんそれは強敵を倒すためであったのだが。
「魔力を正しく扱えるようになれば、この程度は造作もない。というよりも魔刃を飛ばすのは魔力操作の基本中の基本だな。それを覚えて初めてスキルを習得できるようになるんだ。だから、そんな剣を使っているといつまで経っても成長できない」
フランの表情が曇る。
三人でこれだと思って購入した剣である。これまで幾度となく魔刃のおかげで命を救われてきたと思うだけに、それが成長を妨げていると言われてはショックは大きかった。
「ああ、悪い。言い方がきつかったな。話を聞く限り二人とも急激にレベルやステータスが上がったんだろう。だから、筋力や速度は上がっているけど、それを生かすだけの技術はついてきてない。魔力に関してもそうだ。せっかく魔力量も増えているんだ。それを生かせる技術をモノにできれば成長できるよ」
「本当ですか」
「俺だって一流の剣士ってわけじゃないけど、それだけは保証できる」
「よかったね、フラン」
「うん。まだわからないけど、少し希望が見えてきた」
「よし、じゃあまずは魔法剣を使ってやってきたことをその剣でできるようになってみようか」
「はい」
しばらく歩いていると、手ごろな魔物が現れた。
王都周辺の草原地帯によく現れるワイルドボアという大型のイノシシである。下級の魔物で突進の勢いはすごいがまっすぐにしか進まないためよく動きを見ていれば避けるのはそれほど難しくはない。
フランもネルも身体能力は、以前とは比較にならないのだ。
合計四頭が駆けてくるのでフランは二人の前に立ち魔法剣を使うときと同じイメージで剣に魔力を込めて抜き放った。
その瞬間、魔刃が飛び出した。魔法剣を使った時の感覚で言えば剣身と同じくらいの大きさのはずだが、出たのはナイフ程度の大きさ。小さな魔刃がワイルドボアの額を切り裂いた。殺すには至らないちょっとかすり傷を与えた程度。フランは先手の失敗を気にせずそのまま飛び出した。
ダメージを与えたワイルドボアに止めを刺し、右手から迫るワイルドボアの足を切り落とす。動きを止めたところで別の一体を側面から心臓を一突きする。
フランの横を通り過ぎてネルの方へと向かっていた一頭に向かって、最初よりも魔力を込めて魔刃を放つ。
斬撃は空を飛び、ワイルドボアを背後から切り裂いた。
そして余裕をもって足を落としたワイルドボアに止めを刺す。
「何を教えろっていうんだよ」
半眼になったリアムが言った。
これから教えようとしたことをこうもあっさりやられたら彼も立つ瀬がない。
「フラン、すごい」
「うん。わたしも驚いた。っていうか、できた」
フランもまさかできるとは思わなかったのだ。ただ、魔力を感じることに関して、フランは轟流の瞑想をいまも毎日練習していてかなりものにしている。そもそも、魔法剣を用いているとはいえ、大地の魔力を吸い上げそれを魔法剣に上乗せすることまでできているのだ。
むしろ、魔法剣がなくてもできるはずだったのだ。
使っているから気がついていなかっただけのことである。
「いろいろ偉そうにいって悪かったな」
「ちょっ、そんな言い方しないでください。教えてほしいのは本当なんですから」
「いや、でもなー。それだけ魔力の扱いを覚えているならすぐにスキルも手に入るだろ」
「スキルってそういうものなんですか?」
「ん? ああ、知らないのか」
「はい。だから、おしえてください」
フランがそういうと、リアムは教えられることがあるとわかって嬉しそうに顔をほころばせた。