高濃度魔石
イチロウ&シエス
「足手まといってこと?」
「ああ、いやそうじゃない。ただ……」
勇者だから命を狙われているっていうのはいろんな意味で言えるわけがない。俺は勇者なんて宣言は頭のおかしなヤツそのものだし、そもそも信じてもらえる可能性が低いと思う。困ったなぁと思って頭を掻いていると、シエスが助け舟を出してくれた。
「魔石ならあるですよ」
「「え?」」
予想外の言葉に俺とエスタの声が被った。 ここに来るまでに狩ったのはすべて小物ばかりだった。いくら幼いシエスでもそんな魔石とワイバーンクラスの魔石を間違えるとは思えない。
「どういうこと?」
「えっと、ヴぁんぱいあなんとかっていう魔物ですよ」
「あー」
完全に失念していた。
倒した後は気絶したので魔石を見ていなかったのだ。
「どういうこと。あるの?」
「ある、たぶんワイバーンよりすごいと思う。シエス出してくれ」
「はいです」
シエスが袋から出したのは深紅の魔石だった。当たり前だが、人型だったヴァンパイアロードから零れ落ちた魔石はシエスの手に乗るくらいの大きさしかなかった。だが、今までの魔石と明らかに違う圧倒的な気配を放っている。
「なによ…それ」
エスタが畏怖を感じ取ったように一歩後ずさる。だが、その気持ちはよくわかる。ヴァンパイアロードを目の前にしたときと同じというといい過ぎだろうがそのくらい気配が濃い。魔物は強ければ強いほど内包している魔力が多い。
そのため、強力な魔物から取れる魔石ほど魔力の含有量が大きいのだが、ワイバーンやギガントサウルスは魔石もまた大きい。しかし、目の前の魔石はそれ以上の魔力が含まれていながらサイズが小さいため濃度が高いのだろう。
いままで目にしていた魔石は色の濃さに差はあれど透明感があった。しかし、ヴァンパイアロードの魔石は彼が使用していた鮮血の剣と同じような艶のない原初の赤。
「あれか」
「はいです。これならワイバーンよりも強力だと思うです」
「そういう問題じゃないわ。早くしまいなさい。そんなもの!! 一体どうやってそんなものを手に入れたの」
「どうやってって……殺そうとしてきたから殺した?」
「そういう問題じゃないわ。シエスちゃんがヴァンパイアって言ってたけど、本当なの? いや、でも、ヴァンパイアほどの上級の魔物ならわからなくもないけど、でもそれにしても何て魔力……」
「あー、そういえばヴァンパイアロードとか言ってたっけ」
「はぁあ!?」
一際大きい声でエスタが叫んだ。
エルフらしい整った顔立ちは崩れ去り、驚愕に目は大きく開かれ顎が外れんばかりに開いている。いまはもうシエスの袋にしまわれた魔石だけど、それを見た時以上に距離を取った。
「あり得ない。あり得ないわ。ロード? ロードって言ったらヴァンパイアの王でしょ。只の上級とは違うわよ。魔王軍でも指揮官クラス、いや下手したら魔王の側近レベルじゃない。そんなものを倒したっていうの。でも、さっきの魔石を見れば、いやいやいや、ありえない。ありえないでしょ。何をどうやったらただの人間にそんなことができるの? そもそも、あなたレベル18だって言わなかった?」
「ん? ああ、ギガントサウルス倒した後に26に上がったんだぜ」
「は? 26? いやいや、何言って…。 いまギガントサウルス倒したって言った? 逃げたんじゃなくて? 倒したの? うん、え? は? いや、 えええええ」
頭を抱え込むとそのまま地面にうずくまったエスタ。
なんでそんな風な反応を示したのかわからず、シエスが彼女の横にちょこんと座って頭をよしよしする。どうやら俺たちがやったのは結構すごいことだったらしい。
「あー、うん。なんかごめん。 まあ、そんなわけだから、魔石ならあるよ」
「はは、そんな格上のあなた達に対して”足手まとい”だなんて私は言っていたのね」
「レベルだけ聞けばその通りなんじゃないか」
「笑えないわ」
「で、どうする。魔石は譲るよ」
「馬鹿でしょ。そんな貴重なものを簡単に」
「どうせ売るくらいしか使い道はないしね」
「……そういうものなのかしら。でも、気持ちはありがたく受け取っておくわ。でも、流石にさっきの魔石を買い取れるだけの資金はないのよ。ワイバーン程度なら工面できるけど、私たちの郷はあまり外貨を持っていなくてね」
「んー、そういうことなら、ワイバーンくらいでもいいんだけど…でも、よくよく考えたら、パーティで手に入れたアイテムなんだよな。また勝手に決めたら二人に怒られるかな」
「お姉ちゃんたちなら大丈夫だと思うですよ」
「そういうことなら、やっぱり話を戻しましょう。一緒にククリ山脈に行く方が問題がないと思うわ」
「だからそれは無理なんだって」
「どうして?」
困った。
非常に困った。
結局、話が元に戻ってしまった。