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故郷への道中

フラン&ネルのパートになります

 フランとネルの二人は雨上がりのぬかるんだ地面を歩いていた。

 その足取りは軽いとは言いにくい。数か月一緒にパーティを組んでいたイチロウとシエスの二人と進むべき道を違えたのだ。喧嘩別れというほど衝突を生んだものではなかったし、一時的な別離だと思っているけどもそれでも心にぽっかりと穴が開いたような寂しさがあった。


「ニースに戻るのも久しぶりだよね」

「帰ろうと思ったところでスマニーに来ることになったしね。収穫はもう終わったのかな」

「うーん。ここから10日とちょっとだよね。ぎりぎりかな」


 二人の生まれ故郷であるニースは小麦をメインに様々な野菜に果樹を育てている。小麦の収穫は全く別の時期になるけども、芋類であればちょうど収穫の時期になる。どんな食べ物であれ、旬のものというのは格別なおいしさがあるのだ。


「間に合えば久しぶりのお芋掘りだね」

「クコ芋は地中深く根を伸ばすから引き抜くの大変だったけどさ、身体能力もあがったし楽になるのかな」

「それは言えてるかも。お母さんたちびっくりするよね」

「ネルなんか宮廷魔導士に誘われたりしたけどさ、それよりクコ芋をすんなり引き抜いた方が絶対おどろくだろうね」

「ふふ。いまから楽しみっ。フランはどうする? やっぱり最初は焼き芋かな」

「うーん。焼きもいいけど、私は蒸かしかな~」

「ああ、蒸かすのもいいよね」


 芋は焼いてもおいしいし、蒸かしてもおいしい、そのまま揚げてもすごくおいしい。茹でた芋とベーコンを混ぜて塩コショウで味を調えるのもいい。それだけでもおいしいけども、いろんな食材と合わせることもできる万能な食べ物だと二人は思っている。

 

「二人にも食べてもらいたかったよね」

「そうね。シエスはもちろん、イチロウのことは村の人たちも大歓迎だろうしね」

「村を救ってもらってから一緒の冒険が始まったんだよね」

「クヌカの森からだよ」

「グリフォンに襲われて、どうしようもなかった時にイチロウが来てくれたんだよね。最初びっくりしたよね。素手で魔物を殴り飛ばすんだもん」


 その時のことを思い出し、フランはぷっと噴出した。


「そうそう、その上いきなり上着を脱ぎだすし」

「ははは、あったねー。しかも、フランが歩けないからって背負おうとしてくれたのはいいんだけど、フランすごい嫌そうな顔してたよね」

「だって、裸なんだよ。引くって普通」

「ふふ、確かにね。服がビショビショだからって気を使ってるのか、使ってないのか。ちょっとずれてたよね」

「でも、今思えば、それも別の世界から来たからだったってことなのかな」

「背中に見たことない魔導回路の入れ墨みたいなのもあったし」

「あれが召喚されたときの」

「たぶんね。あんな魔道回路見たことなかったから」

「イチロウは気にしてないって言ってたけど、ひどい話だよね」

「ご両親にも二度と会えないってことだよね。私はお父さんとお母さんに会えないとか考えるだけでも耐えられないもの。友達とか大切な人はいっぱいいるのに、いきなりすべてを奪っておいて命を懸けて戦えなんてひど過ぎるよ」

「アイツはバカみたいに強いけど、魔物もいない平和な世界だっていってたよね。戦いとは無縁の世界に生きていたって」

「うん……」


 故郷へと向かう足取りは本来なら軽くなるはずなのに真逆になっていた。

 二人にとって家族と同じくらいに大切な存在になった彼の胸中を思えば、どうすることも出来ない感情が渦巻くのを感じていた。怒りや憤り、やるせなくて、つらくて、悲しくて心が痛くなった。


「ねえ、フランはどうするの?」


 二人きりになってからも聞けずにいたことをネルは恐る恐る口にした。本心としては一緒に戦ってほしいという思いはある。でも、これは遊びじゃないのだ。

 冒険者として低ランクの依頼を受けるのとは違って、明確に命を崖っぷちに立たせる行為なのだという自覚があった。だから、フランが無理ならしょうがないと思っている。


「わかんないよ……。アイツのことは助けたいと思う。違う世界に連れてこられて最低な状況だったとしてもさ、王都から離れて自由に冒険者をやれたらそれでよかったんだろうと思う。酷い話だけど、それでもあいつは飄々と生きていられたと思うしね。でも、いまのアイツはそんなこと言ってられないんだもんね。魔王に命を狙われるとか、何の冗談? って話だよ。元の世界に返してあげることはできなくても、平穏な日常くらい取り戻してあげたいって思うよ」

「フラン」

「……私も強くなりたい」


 言葉とは裏腹にその声は、風にかき消されてそうなほどに弱弱しかった。それを聞いたネルはどういえばいいのだろうかと思案する。一緒に冒険者を始めた二人だけど魔法という明確な力を持つネルと違い、何もないからという理由で剣を取ったフラン。

 それでも、恐ろしい魔物と戦える力を身につけることができたのは驚異的だと思う。でも、イチロウが言っていたように本人がそのことを自覚できなければ、前には進めないのだ。

 だから、ネルはいろいろと考えた結果、イチロウがよく口にした言葉を選んだ。


「できるよ。フランなら大丈夫」

「……何よそれ」


 一瞬の間をおいてフランがぷっと噴出した。

 友人のよく口にする根拠のない言葉。でも、それが今のフランにはすごく響いてきた。確証なんてあるはずもないのだ。相手は魔王。それと戦える自信があるものが、冒険者のなかに一体どれだけいるというのだろうか。いや、きっと、一人もいないんじゃないだろうか。

 そんな風に思えた。

 必要なのは魔王と戦う力があるかどうかではないのだ。

 友人として、仲間として、一緒に戦いたいか否か。

 そう問われたら、フランは迷うことなく答える。

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