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別離

「考えたんです。昨日のこと」


 ネルが俺の手を取ると下を向いたまま話し始めた。


「イチロウなら、そんなこと言うだろうなって思ってました。ギガントサウルスの時だってそうだったから。置いてきぼりなんて酷いって思ったけど、それは私たちを巻き込まないようにするためだっていうのはわかってました。だから、今度のことだってわかっていたんです。でも、イチロウからその言葉を聞くのは嫌だなって、話を聞かないようにしてました。

 子供みたいですよね。

 でも、本当に嫌だったんです。その言葉を聞いてしまえば現実になるような気がして。

 イチロウの考えもわかるんです。私たちも出会った頃に比べるとすごく強くなったと思います。でも、イチロウと比べるとまだまだで、一緒にいれば守られるだけだというもわかってます。四人で10階層まで到達しましたけど、いつも私たちの戦いを見守って、適度なところで補助してくれていて、足手まといなんだと思います」

「そんなことはない」


 ネルが首を振って俺の言葉を否定する。


「聞いてください。私は強くはないです。昨日の魔物よりも恐ろしい魔物が襲ってきたらと考えると怖くて怖くて仕方がないんです。だけど、イチロウの言う通り、このまま一緒にいるのは無理だっていうことは私だってわかります。

 イチロウなら大丈夫だってわかってます。

 きっと魔王にだって負けないと思います。

 でも、離れたら後悔します。だからって離れたくないって我がままを通すつもりはないです。私はもう子供じゃないんですから。だから、私も強くなります。足手まといにならないくらい……ううん、横に立って戦えるくらい強くなります」


 俺の顔を上目遣いに碧眼が捉える。

 強い芯のある瞳。


「だから、一度離れましょう」


 唇を噛みしめて、絞り出すようにネルが言った。

 フランも予想外の言葉に小声で「ネル?」とつぶやいた。


「私は予定通り魔法都市ドニーで魔法の勉強をします。そして、きっと役に立つ魔法を習得して見せます。上級の魔法を使うためにレベルも上げないといけないかもしれません。でも、必ずできるようになって見せます。そしたらもう一度パーティを組んでくれませんか」

「いいのか。いや、こんな言い方は卑怯だな」


 魔王に命を狙われている俺と一緒にいたいと、一緒にいるために努力をするという彼女の言葉は無条件でうれしい。ネルは天才的な魔法使いだ。きっと、彼女は言葉通りの未来を実現すると思う。だいたい今だって単純な攻撃力なら俺を超えていると思う。


「ありがとう。俺も強くなるよ。強くなってみんなの前に戻ってくる。だから、またパーティを組んでほしい」

「解散するわけじゃないですもの」

「そうだな。フランもシエスもそれでいいのか」

「シエスはお兄ちゃんと一緒に行くです」

「私は……」


 言葉を濁すフランと違って、シエスはまっすぐに俺の目を見ていった。危険だとは思う。ダンジョンではないけども、向かう場所はそれ以上に危険なところなのだ。


「フランはどうする?」

「私は……」


 俯いたフランはネルを見て、シエスを見て俺を見た。

 解散には反対していたけども、いざ魔王と戦おうと思うとしり込みするのだろう。それは当然だと思う。それに何より彼女は自信がないのだ。最初からフランにはそういう傾向があった。ネルには魔法の才があり、あとから入ったシエスは敏捷性という他者の追随を許さない力を持っている。そんな二人と比べて卑下している。俺が何かを言っても無駄なんだと思う。自分でその力に気が付かないことには前に進めないのだと思う。


「フランは別の人たちとパーティを組んだらいいと思う」

「それって……」

「お兄ちゃん、酷いです」

「いいのよ。私もわかってる。実際私は足手まといだもん。ネルやシエスとは違う。どこにでもいる普通の剣士。ネルが魔法使いになるって言ったから一緒に村を出てきたけど、才能もない私が魔王と戦うなんてできるはずもないじゃない。むしろ三人と一緒に今までやってこれたことが奇跡みたいなものだと思うの。この辺が潮時なのよ」


 明るく笑って見せるけど、その目は笑ってなかった。

 俺には泣いているように見える。ああ、くそったれ、言葉が足りない。


「待ってくれ。俺が言いたいのはそういうことじゃないんだ」

「無理しなくていいよ」

「違うから聞けって」


 フランの肩をつかんで正面から見据える。


「俺はフランともこのまま一緒にパーティを組みたいんだ」

「同情なんてしなくていいってば」

「ああ、もう、なんでそんなに自己評価が低いんだよ。フランはすごいよ。俺は見てないけどワイバーンやギガントサウルスも斬ったんだろ。騎士も言ってたじゃないか。自信持てって。大切な仲間を危険にさらすんだ。付いてこれないなんて微塵も思ってないよ」

「だったらなんで、ほかのパーティを進めるのよ」

「俺たちといたら、自分のことを卑下するだろ。ほかのパーティに入れば、どれだけすごいか客観的にわかるかもって思っただけだよ」

「私もフランについてきてほしい。でも、私が図書館に通っている間、フランにその気があるならイチロウの言うように一時的に違うパーティに入ってもいいと思う」

「……少し考えさせて」

「それでいい。俺の気持ちは変わらないから」

「ぅん」


 自信なさげにフランはうなずいた。

 正直、厳しいのかもしれないなと思う。自信というのは一朝一夕で身につくものではないし、フランの才は本人には自覚しずらい。ネルとパーティを組んでいた時から、彼女を守るために360度どこから魔物が来ても、的確に魔物との距離を取って戦うことができていたフランの視野は広い。

 それは魔力を察知する能力に長けているということなのだ。

 だからこそ、轟流の瞑想を早い段階で形にしつつある。

 大地の魔力を吸い上げ、自身のものとして魔法剣に宿らせて魔刃を繰り出すという攻撃を実現した。それはもはや一種のスキルに等しい力だと思う。ただ、相手が強すぎて、攻撃が通じている感覚が乏しいのかもしれない。ただ、それだけなのだ。フランはおそらく同じレベル帯の冒険者と比べて頭一つ分は突出している。

 自信さえ伴えば化ける可能性があると思っている。



 俺たちは雨のせいもあり、昨日の戦闘の疲れもあったため出発を先延ばしにして、雨上がりとともにある歩き出した。

 シエスは俺とともに。

 フランとネルは一緒に。

 必ず再会することを誓って。


今年最後の投稿になります。

来年も続けていきますのでよろしくお願いします。

また、次回からイチロウ&シエスのと話フラン&ネルの話を交互に更新していく予定にしています。

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