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身勝手な女


「何でもできるわ」

「そういう話じゃなくて、エスタの弓にはどんな力がある。いくつかの属性をもった矢を持っているのは知っている。けど、ここから脱出するにはお互いの戦力をきちんと理解したほうがいい」

「そういう話なら逆に聞かせてほしいわね。あなたもネルもシエスも随分と規格外な気がするんだけど」


 一方的に戦力を教えろというわけにはいかないのだろうが、それは当然のことともいえる。スキルなんかに関しては秘匿性が高いのだろう。それにしても、フランを規格外から外すというのは癪に障る。


「フランもすごいけどな」

「そういうのはいいから。私が普通だってのはわかってるから」


 手をひらひらと振ってフランがすぅっと顔を曇らせる。

 相変わらず自己評価が低いなと思うけど、かけるべき言葉は見つからない。決してフランはネルやシエスに劣っているわけではないのだ。

 その辺が付き合いの短いエスタにはわからないのだろう。シエスは「フランお姉ちゃんもすごいですよ」といい、ネルも同じように声をかける。でも、それは強者からの慰めにしか聞こえないのかもしれない。


「私だってここから生きて出たいもの。そうね、私は火炎の矢、氷結の矢、雷撃の矢の三種類を持ってる。でも、本数はそれぞれ3本ずつしかないわ。それから、ミスリルの矢が5本に通常の鉄の矢が10本。でも基本的には、持っている魔弓が生み出す魔力の矢を使っているわ。あとは知っての通り索敵や罠の発見ができるくらいかしら。ちなみにレベルは47」

「じゃあ、次は私ですね。私は魔法使いです。基本的な初級と中級の魔法が使えるのと、いくつか応用した魔法が使えるくらいですね。レベルは28です」

「は?」


 エスタが大きく目を見開いた。

 驚くのも無理はないだろう。ネルの魔法は贔屓目なしにすごいと思う。初級と中級程度しか使えないとは思わなかったのだろう。


「次は私ね」

「いやいやいや、おかしいでしょ。レベル28?え、30にも満たないのにスマニーに来たの?ありえないんですけど?それに応用した魔法ってなによ。落下するときの魔法だって聞いたことも見たこともない効果を発揮してたじゃない。魔法なんてスクロールにあるものを使うだけでしょ。魔道回路をオリジナルで作れるってこと。それって魔法都市の学者の領分でしょうが」

「そんなに変でしょうか?」

「変よ。あり得ないわよ」

「まあ、まとめるとネルがすごいってことだな」

「そんな、私なんて……」

「いやいや、そういう次元じゃないわよ」

「じゃあ、次は私ね。まあ、私は特別なことは何もないわ。剣の能力で魔刃を飛ばせることくらいかな。レベルは30」

「あんたも低いのね。まあ、それは驚くことでもないか」


 フランの眉がピクリと動く。

 うん、何も言わずにそっとしておこう。エスタもこれから協力して脱出しようというのに、わざわざそんないい方しなくてもいいのにと思う。まあ、出会いがしらが高飛車だったし、そういう性格なのだろう。


「シエスはシエスです。レベルは25です。魔法のナイフがあります」

「は?レベル25。それであのスピードなの?まあ、兎人族はスピード特化だって聞くけど、噂以上ね」

「じゃあ、最後は俺だな。俺が一番レベルは低くて18。基本的に武器は使えないから素手の戦闘になる。ってこれは説明するまでもないか」

「えっと、どこから突っ込めばいいの?あんたがレベル18なわけないでしょ。っていうかそもそも、スマニーのダンジョンに潜るのに、レベル30に達してるのが一人しかいないとかどういうこと。10階層まで降りたってことはレベル50前後はあるはずなんだけど」

「まあ、イチロウは規格外だからね。レベルは低いけど、ステータス的にはレベル60くらいはありますよ」

「いやいや、それこそどういうことよ。それに魔法も使えるんでしょ。もうわけわからないわね」

「それで、ワイバーンやギガントサウルスってのはどの程度のレベルがあれば倒せるんだ?」

「無理ね」

「無理?」

「飛翔能力のあるワイバーンもそうだけど、巨獣系の魔物に関してはレベルというよりも、あの巨体と戦える方法がなければ意味がないから。スキルでも魔法でも魔道具でも何かしらないと難しいわ。でも強いて言えば、もともとワイバーンの出現する12階層の到達レベルは60以上って言われていた。ギガントサウルスに関して言えば、レベル80以上ってところかしらね。あなた達のレベルなら、逃げ切ることも難しいかもしれないわ」


 エスタはそういうとすくっと立ち上がった。

 そして何を思ったのか、結界の外へと出ていこうとする。


「おい、どうした?」

「どうしたじゃないわ。あなた達のレベルを聞いてわかった。レベル以上の実力があることは認めるけど、あんな化け物が相手じゃ通じないわ」

「俺たちが足手まといだとでも」


 俺たちのパーティに勝手についてきて、なんだその言い草は。


「歯に衣着せなければそうね。シエスはともかく、フランとネル、あなたはちょっとわからないけど、端的に言って足が遅い。格上のオークナイトと戦える程度じゃあの化け物から逃げることもままならないわ。高い樹木もあるし一人の方がまし」


 何を言っているんだこの女は?

 自分勝手にもほどがある。エスタの索敵の能力は高い。いち早く敵を発見することができるなら、逃げることも容易いだろう。もちろん、彼女が仲間になることは反対だった。というか、認めていない。でも、今はそんなことを言っている場合じゃないだろ。


「だけど、協力したほうが逃げきれる可能性は高くなるだろう」

「二人をおとりにしていいなら」

「お前!!」

「悪いけど、私は死ぬわけにはいかないわ」


 言葉が通じない。

 

「そうやって、もといたパーティも切り捨てたのか?」


 エスタが苦虫を噛みつぶしたような顔をする。触れられたくない話題なのだろう。

 ずっと疑問だった。無数の魔物から逃げてきたエスタ。後方支援型の彼女が単独でダンジョンに挑んだとは思えない。仲間が殺されたのかもしれないと思って、聞けずにいたけどもこいつは仲間を犠牲にして自分だけ逃げてきたんじゃないのかそんな風に思えてきた。

 三人が心配そうに俺たちのやり取りを見ている。


「おとりにしないだけ、有難いと思いなさい」

「……好きにしろ」

「ちょっと、エスタさん」


 ネルが呼び止めようとするが、エスタは背中を見せて歩き出す。止める理由など俺にはない。


「いいの止めなくて」

「必要ない。もともと仲間じゃないだろ」

「けど……」


 彼女の消えた森に背中を向けて地面にどかりと腰を落とした。接敵してどうせ勝てないのなら、接敵を避けるのが得策だ。そうなると集団よりも単独の方が隠れやすいのは事実だろう。だが、ここ数日のことを思えば、エスタの身勝手な行動に腹が立つ。

 その感情を無理やり飲み込んで、四人でどう動くかを考える。


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