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5階層

 身体がまた軽くなった気がする。

 昨日のジャイアントゴーレム討伐でレベルが上がったのだろう。

 なんで一晩眠るだけでレベルが上がるのかはわからないが、異世界なのでそういうものだと納得している。


「ふぁああ、おはよ。やっぱりレベル上がってるね、筋力が上がってる感じがする~」

「おはようございます。そうですね、私もなんだか魔力が増えたような気がします」

「おはようです。シエスはまた袋が大きくなったです」

 

 それぞれが目覚めると同時にレベルアップを実感しているようだ。

 いつもなら眠っている間に結界の外で魔物が待ち構えていることも多いのだけど、今日は静かなものだった。なので、軽く朝食をすませて俺たちは下層へと向かった。

 階段を降りたさきは洞窟型のダンジョンだったのだが、広さが桁違いだった。何となく嫌な予感がする。もしかしたら、昨日のジャイアントゴーレムのような巨大な魔物が多いのだろうか。


「あれ」

「どうしたの」

「後ろ見てみて」


 フランが違和感に気づき、後ろを見ると俺たちが降りてきた階段がどこにもなかった。それどころか壁も来ていて、完全になかったことになっている。


「シエス、出口はわかるか」

「あっちです」


 自信満々に答えるシエスの顔に、昨日の不安げな表情はない。


「俺たちは隠しダンジョンからは戻ってこれたってことか」

「はあ、よかった。予想外に5階層に来ちゃったけど、何とかなりそうね」

「一度戻りますか」

「そうだね」


 正直、俺は元気なんだけど元々二~三階層を回るつもりだったのでみんなに合わせておこう。シエスの感じる方向に向かって進んでいくと、魔物が姿を現した。

 毒々しい色合いをした5メートルほどの花が三体。根っこの部分も地表に出ていて、それがうねうねと動いて足の代わりにこちらに近づいてきた。


 フランが魔刃を飛ばして先行する。

 足の様に蠢いていた根が大きく膨らみ魔刃を受け止める。根は斬撃を受けてぱっくりと切り裂かれるが、本体の花には傷一つ付いていない。魔花は開いてた花弁を閉じてつぼみのような状態になると、ポンポンポンと種子を飛ばしてきた。


 種子は天井にぶつかって弾け黄色い粉が舞い落ちる。

 あれは絶対に吸い込んじゃダメな奴だ。


「ウインド」


 俺が何かをするよりも早くネルが魔法を唱える。彼女の生み出した魔法の風が黄色い粉を洞窟の彼方に運んでいく。

 もともとはウインドカッターやテンペストのように風の刃を飛ばすだけの魔法だったのに、いつの間にか単純な風を生み出すこともできるようになっていたらしい。基準となる魔法は10種類くらいだったはずなのに、すでに20種以上の魔法を使いこなせるまでに改造しているそうだ。


 彼女の援護を受け、フランとシエスが魔物に接近する。

 根が鞭のように襲い来るがそれをフランが引き受け切り刻む。その隙に持ち前のスピードを生かしたシエスが魔物の懐に潜り込み、身体をくるんと回転させて茎を切り裂いた。

 花の魔物は巨大でも、中心となる茎は人間の胴体と変わらない。

 シエスの細腕でも速度の乗った回転なら問題なく切り裂けるようだ。

 毒っぽい花粉の攻撃をネルが受け流し、フランが根の鞭を引き受ける。そしてシエスが止めを刺すという流れが完成し、残りの二体も圧倒する。


 下層に進んでいるはずなのに、昨日のゴーレムで苦戦していたのが嘘のようだ。


「なんか拍子抜けだね」

「油断大敵だよ、フラン」

「わかってるって」

「シエスもまだまだやれるです」


 ゴーレムとは相性が悪すぎて全然活躍できなかったので、シエスはやる気なのかも。というか昨日のゴーレムが強すぎる気がするのだが。

 そんな事を考えていると、また別の魔物が現れた。

 今度のは巨大な蜘蛛だ。

 いつかの森で出会ったアーミースパイダーよりもさらに大きい。こちらの姿を見つけると、まだ距離があるのに蜘蛛糸を飛ばしてきた。


「フラン!」

「任せて」


 俺はネルを背後に庇い、フランが剣を一閃させる。蜘蛛糸の持つ粘性を考慮してだろう魔刃を飛ばして蜘蛛糸を切り裂く。シエスはいつのまにか蜘蛛の足元でナイフを振るっていた。スピードは下手すると俺を越えているかもしれない。


 だが、巨大な蜘蛛の足は高い金属音を響かせてナイフを弾く。シエスは足を斬れないとわかると、攻撃対象を蜘蛛の本体へと移す。

 彼女は壁を走り天井まで駆け上がると、天井を蹴り落下の勢いに回転を加えてナイフで蜘蛛の本体を斬りつける。


 ギン――。


 またしてもシエスのナイフは弾かれる。

 彼女のナイフはフランのと違って、普通のナイフだ。筋力はレベルからしたらかなり低く、落下の勢いを乗せたところで体重も軽い。硬い魔物に対してどうしても後れを取る。だけど、全身が岩のようなゴーレムと違って生物タイプならやりようはある。


「シエス、硬くないところ――節や関節部分を狙え」


 彼女がちょろちょろと動き回る間に、フランが魔法剣で蜘蛛の足を斬り飛ばし、ネルもウインドカッターで同じく加勢する。動きの遅くなったところで、シエスが口に向かってナイフを突き入れようとするが、蜘蛛が糸を飛ばして大きく距離を取った。蜘蛛糸を使って、ターザンのように三次元的に洞窟内を移動する。フランもネルも遠距離からの攻撃を狙っているが、足を使った動きと違って読みにくいのか手を出せずにいる。

 その動きについてこれるのは唯一シエスだけだ。

 彼女はその素早さで、蜘蛛の動きを見てからでも十二分に間に合うだ。

 天井に張り付いた蜘蛛をシエスは、直接攻撃するのではなく足を天井から引きはがすことに注力した。落下する途中に粘着性の蜘蛛糸を飛ばしてくるが、シエスは素早く移動して回避する。天井に張り付いた蜘蛛糸を利用して、再び天井に戻ろうとするがフランの魔刃が蜘蛛糸を切断する。

 そして落下してきたところに風の刃が駆け抜ける。

 真っ二つになった蜘蛛がダンジョンに吸収されて魔石だけが残る。


 うん。俺の出番は全くない。

 まあ、いいんだけど。やっぱり三層と四層に比べて敵が弱くないか。ジャイアントゴーレムは別格としても、デカいだけで普通に攻撃は通用するしそれほどの脅威を感じない。


「なあ、このままこの階層の探索しないか」

「シエスはやるです」

「たしかにゴーレムのいる階層より安全かもね」

「私は戻った方がいいと思います。確かにゴーレムより脅威は感じないですけど、マジックポーションのストックもなくなったし何かあったら対応できるかわかりません」

「あー、そうだね。上に戻るにもゴーレム地帯は抜けなきゃいけないんだし、戻ろうか」


 またしても自分本位だったなと反省しつつ、上層に向かって進んだ。

 5階層の魔物は一・二階層とは種類は違うけども、状態異常系の効果を持った攻撃が特徴のようだけど、フランもネルも遠距離から攻撃ができるから恐れることはない。

 問題はシエスくらいだろうけど、彼女は持ち前の素早さを生かして相手が攻撃を仕掛ける前に攻撃をすることで対応している。


 中級の魔物といっても幅があるが、基本的に三人に任せて問題ないようだった。そんな風に魔物と戦いながら俺たちは地上へと帰還した。

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