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ボス戦Ⅱ

 感じるプレッシャーはオークロードやエレファントタートル以上。

 俺の体よりも大きな拳が振り下ろされる。

 一撃でも喰らえば、形も残さず爆散してしまいそうなそれをワンステップで躱して足元から崩しにかかる。喉元へ攻撃を届かせるにはそれしかない。

 しかし、太すぎる足は渾身の蹴りを受けても微動だにしない。

 今の俺なら1トンや2トンくらいなら蹴飛ばせる自信はあるのに、それでも足りないらしい。それだけの重量を持ちながら決して速度が遅いわけでもない。

 

 フランだと心もとない。

 ましてやネルではよけきれない。

 このまま引き付けるしかないだろう。


 ジャイアントゴーレムの拳や蹴りを掻い潜り、ダメもとでの打撃を叩きこむ。時々手刀で切り裂いてみるが、すぐに傷口は再生するので意味はない。斬れなくはないが斬り飛ばすところまで届かない。フランの魔刃ではおそらく無理だ。


 攻撃を回避しつつ、ジャイアントゴーレムを壁際へと誘い込み壁を蹴ってヤツの背中へと飛び移る。虫を払う様に伸びてくる手を逆に利用して肩の上に立つと首の後ろから核に向かって轟流奥義肆ノ型『椛』を叩きこむ。

 だが、狙いが外れたのか核の破壊は失敗に終わり、技を繰り出した後の姿勢を逆にジャイアントゴーレムにつかまれてしまった。そのまま地面に向かって叩きつけられそうになったところで、ジャイアントゴーレムの目にフランの魔刃が突き刺さる。

 ジャイアントゴーレムの力が一瞬緩んで俺の体は空に投げ出された。

 地面を転がり、落下の衝撃を相殺する。


「助かった」

「ったく、無茶しすぎなのよ」


 フランの攻撃は巨大な目の表面を横に一閃したが、傷は浅くほとんどダメージはないはずだった。

 にもかかわらずゴーレムの手は緩んだのだ。

 全身が金属質な何かで構成されていても”目”のような場所には何らかの意味があるのかもしれない。生物と似たような弱点を持っているのであればやれることはある。


 俺は再びジャイアントゴーレムの足元に潜り込むと、拳ほどもある足の小指に一撃を打ち込んだ。一瞬、ヤツの動きが止まる。

 悲鳴を上げるわけでも、痛みに身をよじるわけでもない。

 ただ、ほんのわずかな時間、動きを止めたのだ。

 ブリックゴーレムの腕や足を破壊した時とは全く違う反応だ。すぐに再生はするのだろうが、人と同じような弱点を持ってるのは間違いないらしい。


「フラン」


 大きな声で、いま手にした情報を共有する。

 背後で控えていたフランが嬉しそうに戦いに参戦する。接近するのは危険とみているのだろう、少し離れた位置から斬撃を飛ばす。腕や脚の部分破壊は狙わない。少しばかり先端を刻むのだ。

 おそらくだが、破壊が大きすぎると痛覚の情報をシャットアウトするのだろう。逆に小さなダメージだと痛みを無視できなくなるのかもしれない。

 フランが足の小指を刻んで作った一瞬の隙に、俺は轟流奥義弐ノ型『椿』を叩きこむ。膝裏に入った一撃で膝カックンの様にゴーレムが片膝をついた。


「もう一発」


 立ち上がろうとするジャイアントゴーレムの逆足の小指をフランが切り裂いた。俺はヤツの膝を足場にさらに飛び上がり、空中で体勢を整え首の下、核に向かって手刀を突き刺した。指の第二関節までめり込んだところでジャイアントゴーレムの拳が真横から延びてくる。

 フランが執拗に魔刃を飛ばし攻撃を繰り返すが、もはや痛みに慣れたのか動きは止まらない。


 ジャイアントゴーレムの剛腕が俺の全身に叩きつけられる。まともに食らえば壁に叩きつけられるそれを風に揺れる柳の様に受け流す。


 轟流奥義壱ノ型『柳』


 まるで軟体動物になったように全身がぐにゃりと変形し、衝撃のすべては体表を流れていく。壁にぶつかる寸前にふわりと拳から抜け出た俺は地面に着地し、一度距離を取った。


「大丈夫なの」

「問題ない」


 そういいつつ、口内にたまった血を吐き出した。さすがに無傷とかそこまで万能ではない。どれくらい時間が経っただろうか。ネルの魔力回復まであと何分だ。

 動きさえ止めれれば、エレファントタートルの甲羅を破壊したように限界突破とのコンボが使えるが、核以外にその攻撃を繰り出したところで意味がない。このまま時間稼ぎする以外にできることはないのか。


「フランはまだ動けるか」

「私も問題ないわよ。魔力もまだ半分は残ってる」

「シエスもイケルです」


 素早さを生かしたシエスは時折息を整えながらもジャイアントゴーレムの周りをちょろちょろと動き回る。フランはダメもとでの魔刃を飛ばし、俺はジャイアントゴーレムがネルをターゲットにしないように攻撃と防御を織り交ぜ動きを支配する。


 悔しい。


 冒険者ギルドで聞いた噂話によれば、ソウは山一つ消し飛ばしたというのに、俺はその何十分の一程度の大きさの魔物を前に手をこまねいている。一見すれば俺が相手を翻弄しているように見えるかもしれないが、お互いに決定打はないのだ。多少ステータスが高くても、俺は人の限界を超えられないのだろうか。王都の連中を見返してやりたいと想いながらも、こんなものなのだろうか。


 『武神の加護』はどうなったんだろう。ダルウィンのダンジョン以来、神の声は聞こえてこない。祈りが足りないからか。まあ、あれ以来祈ってもいないんだが。


「武神への祈り方って知ってるか?」

「いまはそれどころじゃないでしょうが!!」


 もちろん、俺はジャイアントゴーレムの攻撃を掻い潜りながら会話をしている。ただ、まあ、攻撃を捌くだけならぶっちゃけ余裕である。


「それがわかれば倒せるかもしれないんだけど」

「あんた馬鹿でしょ。武神の加護なんてのは伝説の勇者様しか持ってないわよ」

「そうなの?」

「そうよ」


 マジか。

 もしかして、それで俺は勇者だったのか? ということは、王都の連中の儀式は勇者を召喚するわけじゃなくて、異世界から召喚した誰かに武神の加護をつけようとしたということか。でも、武神の加護をつけるだけなら、この世界の人間を対象にしてもよかったんじゃないのか。

 考え事に陥りそうになっていたところに、ネルの声がかかる。

 

「イチロウ! フラン!」


 魔力が回復したのだろう。彼女の方を見ると、魔術回路が構成されていくのがわかる。


「動きを止めるぞ」

「言われなくても」


 足の小指への攻撃は効きにくくなっていたけど、その手の弱点はほかにもある。フランが魔刃を飛ばして眼球を傷つける。俺は今までの攻撃とは比較にならない強烈な一撃を叩きこむべく、限界突破したうえで奥義弐ノ型『椿』を繰り出す。

 フランの眼球攻撃でほんのわずかに動きを止めたところに、俺の拳がジャイアントゴーレムの右脛を貫いた。

 まるで爆撃のような激しい音を響かせてジャイアントゴーレムの足が爆散しガクリと膝をつく。その瞬間、ネルの魔法が飛来する。


「水蒸気爆発」


 俺はすぐさま踵を返してシエスとネルのもとに駆けよると、二人を背後に庇い爆発の衝撃から守ってやる。フランはジャイアントゴーレムの背後に移動しているのでおそらく大丈夫だ。


 大気を震わせ、大地を鳴動させる巨大な爆発がジャイアントゴーレムの顎下で炸裂し、爆風と小さな破片をまき散らす。それらすべてを叩き落すと、俺はジャイアントゴーレムに肉薄する。

 予想通りむき出しになりながらも傷一つ付いていない核に向かって拳を叩きつける。

 体を構成する金属とは異なり、核は思ったよりも脆い。


 再起動しようとしていたジャイアントゴーレムはバッテリーの切れたロボットの様に活動を停止してそのまま動かなくなる。土煙の晴れた向こうからフランが無事な姿を見せてくる。


「あんたね、私の扱いが雑過ぎない?」

「フランなら大丈夫だって信じてた」


 一度目の爆発でジャイアントゴーレムを爆散できないのはわかっていた。だから、ジャイアントゴーレムの後ろに避難するのは正解だと思ったから、彼女には手を伸ばさなかったのだ。なのに、なぜかフランはご立腹らしい。


「信じてたって言えば通ると思うな!!」

「まあ、まあ。フラン落ち着いて」

「ネルは守ってもらえたんだからいいでしょうよ」

「フランお姉ちゃん、怒りすぎよくないです」

「シエス、あんたもね~」


 よくわからんが、今日のフランは怒りっぽい気がする。

 とにかく強敵を倒せたことで下層へと通じる階段への道を遮っていた不可視の壁は解除されたらしい。魔石が出るのをしばらく待っていたのだが、ジャイアントゴーレムはいつまで経ってもダンジョンに吸収されなかった。


「もしかして、これも素材なのかな」

「ですかね。でも、どうやって持って帰ります」


 硬い素材だったし、ダンジョンに吸収されないことがドロップ品としての証拠みたいなものなのだが、シエスの袋に入れるためには、破片をすべてシエスが持てるサイズまで砕く必要があるのだ。

 これは重労働だと思いながら、俺たちはその作業を開始したのだった。

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