ボス戦
「そんな能力あるならさっさと使いなさいよ!! だいたい隠し部屋がわかるような能力あるなら罠も発見できるでしょうが。そしたらこんな目に遭わなくて済んだのに」
めっさ怒られた。
せっかく隠し部屋見つけたのにこっぴどく怒られた。
「無茶言わないでくれ。正直うまくいくかわからなかったっていうのもあるし、動きながらは使えないんだよ」
「使えないわね」
「酷っ! せっかく隠し通路見つけたのに」
「そうですよ。イチロウのおかげで道が開けたんだからいいじゃない」
「ネルは甘いなぁ」
ため息をつくフランをネルが宥める。
「お兄ちゃんをいじめるダメです」
うんうん、シエスは安定して俺を味方してくれるのでほっとする。
「だー、二人とも甘すぎだって。だからこいつがつけあがるのよ」
「つけあがってるつもりはないんだけど」
「上がってるわよ」
何かがフランの琴線に引っかかったらしいが、よくわからないのでこれ以上言い返すのをやめて先に進むことにする。通路を通ってその先の小部屋に出た。その部屋からはさらに二つ別の場所に通路が伸びていて、この階層がまだまだ広がっていることを教えてくれる。あいにくとシエス的にはまだ上への道は感じらないらしいが。
「あんたのさっきのスキルでこの先は調べられないの?」
なぜだか、まだご立腹のようなので試しに轟流零ノ型『驫木』を使ってみる。目を閉じて意識を集中させると、足の裏から延びた根っこがこの先の姿を浮かび上がらせる。
「右の通路は一つ部屋があるけど行き止まり、左の通路に行けばその先に分岐があって、右に行くと宝箱がある部屋が見える。左は続いているけど、それ以上は視えない」
「はあ、何なのよ、もう」
「なんだよ。言われたとおりにしたのに」
「お兄ちゃんはやっぱりすごいです」
「本当に万能ですよね。近接戦も魔法も斥候スキルまであるなんて」
ため息をつくフランに、べた褒めの二人。この温度差は何なのだろう。気にしてもしょうがないので、宝箱を目指して通路を歩く。途中、ブリックゴーレムが襲ってきたけども、もはや恐れることもない。
核の場所が分かったので、ネル抜きで戦いを仕掛けてみた。シエスが素早さでブリックゴーレムを翻弄し、その隙に俺が足を砕く。倒れたところでフランが核のあたりを貫こうとするが、それはブリックゴーレムの腕に阻まれる。
軽く飛びのくと、魔刃の刃で腕を切り払う。そして出来た隙間を俺の抜き手で核を貫く。一対一ではゴーレムの再生速度が上回るが、慣れてくると何とか倒すことができるようだ。
動きを止めたブリックゴーレムの欠片は放っておけば、ダンジョンに吸収されるので粉砕していくつかの欠片はシエスの袋に収納する。
もしかしたら普通の魔物もダンジョンに吸収する前に素早くはぎ取れば素材を回収することもできるのかもしれない。
ダンジョンに潜り始めて二度目の宝箱。
前回と同様にロープをつけて遠くから開く。一応俺の轟流零ノ型『驫木』で視たけれど、トラップまで見破れるとは思っていない。
「おお、いかにもお宝って感じだな」
「そお? 大したことないじゃない」
「フラン、ちょっと価値観が崩壊してるわよ」
中から出てきたのは何の変哲もない銀のインゴットだった。
ここがもともと銀鉱山ということで、一番ポピュラーなお宝らしい。インゴットは三つあるけど、所詮は銀なのでそれほどの価値はないと思う。
それでも初めてのお宝なのでちょっとテンションが上がる。
「落とし穴に落ちないと見つからないってことはこの先も期待できるだろ」
「あんたってホント前向きだよね」
「悪いことじゃないだろ」
隠し部屋が見つかって、この階層が広がった後もシエスの不安はぬぐえ切れていないようで上層への道は感覚的には閉ざされたままのようだ。それでも道が開けたというのは大きいと思う。
俺たちはその後もブリックゴーレムと戦いながら、通路と部屋を虱潰しに探索してとうとう最後の部屋を発見した。
なぜ、最後の部屋だと思ったのかは、いままでと比較にならないくらいの大部屋で、いままでと比較にならない大きさのゴーレムが仁王立ちしており、股下から下層へと続く階段らしきものが覗いていた。
ゴーレムから俺たちの姿は見えていただろうが、部屋に入らなければ動き出さないのか、何かを待っているように静かに佇んでいる。もっとも動き出したところで、その大きさ故に通路には入れないだろうが。
「あれをやるの?」
「それしかないだろう」
「魔法でここから仕掛けますか」
距離があるし、比較物がないせいで正確なサイズはわからないけど、見たところ10メートルくらいはある。身体を構成する素材もレンガや岩よりもっと硬質の何かという感じがする。鉄とも違う。核の位置が今までのゴーレムと同じなら、とてもじゃないが攻撃は届かない。
ネルの魔法が頼りなのは間違いない。
「失敗してもあのゴーレムがここまで来るのは無理だろ。仕掛けてみよう。念のため、俺も防御結界を張る」
俺とネルが魔道回路の構成に取り掛かり、フランとシエスはその場で身構える。目の前で攻撃の準備をしているというのにゴーレムには動く気配がまるでない。
ゲームならともかくこの現実の世界で、部屋に入らないと攻撃してこないなどバカげていると思うのだが。チャンスと思うことにする。
魔道回路の構成が終わりネルの方を見ると、彼女も準備を終えていた。俺が扱うよりも何倍も複雑な構成でありながら、ほとんど同じ速度で練り上げる彼女の才覚に舌を巻く。それも使うたびに構成を修正して魔力ロスを減らしているのだ。
お互いにうなずき合って、ほとんど同時に魔法を発動する。
「水 蒸 気爆発」「守護者の庭園」
爆弾が室内に侵入した瞬間、ゴーレムの目が怪しく光った。
動き出そうとするが、それよりも早く着弾する。首の下で巨大な爆発が起き、爆風が俺たちの髪の毛を撫でる。飛んでくる破片は、素手て叩き落す。
今までの魔法よりも威力を高めたそれは、10メートルを超す巨体をのけぞらせて大地に沈める。地震に似た振動が伝わり、ゴーレムを倒したことがわかる。
「すごい、あのゴーレムが一撃なんて」
いわゆるフラグというものをフランが立てたからか、ゴーレムは倒れただけで殺せたわけではなかった。むくりと起き上がったゴーレムの首の下は大きくえぐれ、核の光が見えたが破壊されていなかった。粉砕された破片が集まり、すぐに元の状態へと再生を完了させた。
「今のは限界か?」
「これ以上は無理です」
左右に首を動かすネル。
あと一歩だった。核はむき出しになっていたのだ。爆撃をして、直後に攻撃を叩きこめば殺れなくはない。ゴーレムの再生だって瞬く間というほど早いわけではないのだ。十分チャンスはあると思う。
ただし、この魔法は消耗が激し過ぎるのだ。
使うたびに少しずつ改良を加えているようだけど、無駄に垂れ流している魔力が多くて連発ができない。
「GROOOOOOOOOOOOOOOOOOO」
ゴーレムが吠えた。
ドスドスドスと、大地を揺れ動かしながら通路から攻撃してきた俺たちへと走ってくる。巨体は無理でも腕の一本なら入ってきそうだと、すぐに距離を取った俺たちを驚愕が包み込む。
壁や天井を破壊しながら通路に無理やりに侵入してきたのだ。
魔法やいかなる力であっても破壊不可能だったそれらを氷細工の様にやすやすと粉砕する。
「逃げるぞ」
「言われなくて逃げるわよ!」
いかに破壊が可能だとしても、破壊しながらでは俺たちの逃走速度に叶うはずもなく徐々にだが距離は広がっていく。しかし、ゴーレムは休むことなく道を作っていく。
「ループしている通路をつかって、あいつの背後に回れないか?」
「どうするのよ」
「後ろに下層に続く階段があっただろ」
「そういうことね」
「ちょっと待ってください」
走りながらネルが地図を広げる。道は分岐を繰り返しているけども、場所によっては何度も分岐を曲がった挙句、同じ場所に戻ってくる場所もあったのだ。人間と同じサイズならまだ戦えると思うが、わざわざ化け物を相手にする必要はない。
「次を右です」
現在地と目的地を把握したネルの先導に従って通路を進む。
いつの間にか復活していたブリックゴーレムは、俺が先行して力づくで押しのける。瞬殺するのは無理でも行動不能にする程度なら、限界突破を使えばできなくはない。フランがまたしても「非常識」と宣うけども構っている暇はない。
ジャイアントゴーレムをうまい具合にループ通路に誘い込み、俺たちはヤツのいた大広間に戻ってきた。部屋の向こう側に下層への階段が見える。
「なんかへんです」
シエスが首を傾げる。
その意味は数舜後に理解する。
理解させられる。
大部屋から階段のある部屋に進もうとした瞬間、見えない壁に俺たちの体は弾かれた。
「結界?」
「そんな」
普通の結界ならシエスだけを弾くはず。だとしたら、競売都市リスベンの近くで冒険者の魔法使いが使ったような類のものか。
ふざけやがって、ボスを倒さないと先に進めないっていうのか。
ゲームじゃあるまいし。
悪態をつく俺たちの背後から壁を壊しながらやってきたジャイアントゴーレムが大部屋の入り口に戻ってきた。
「まあ、そうなるわよね」
「やるぞ」
逃げても無駄だと覚悟を決める。
「シエス、ネルにマジックポーションを」
「本気なの?」
「ほかに手があるなら聞くけど」
「ああ、もう。わかったわよ」
「シエスもやるです」
魔法剣とナイフをそれぞれ構え、その前に俺が立ちはだかる。シエスが取り出したマジックポーションをネルが口にするのを目にして、俺はジャイアントゴーレムに向かって駆け出した。