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限界突破

 ダンジョン攻略5日目。

 一階層のダンジョンではお宝は見つからなかったので、二階層に降りることにした。ここは一階層と違って洞窟型のダンジョンだった。もちろん、地図は購入済みである。そして、この時初めてわかったのだが、宝箱がある日突然出現するように、トラップの配置も時々変わるらしい。


「だったら、地図を買うだけ無駄じゃない?」


 とはフランの言葉だが、ギルドのお姉さんも意地の悪いことに地図を売ってからその話をしてきたのだ。まあ、次の階層の場所はわかるから無駄にはならないと思うことにしよう。


「ですよね。やっぱりスカウトの技術を身につけたほうがいいんでしょうか」

「身につける方法ってあるのか?」

「うーん。魔法書みたいにスカウトの技術書のようなものがあればいいんですけどね」

「お父さんが言ってたですよ。優秀なスカウトさんには、罠が光って見えるそうです」

「それじゃあまるで魔法じゃない」

「スキルの一種なんですかね」


 落とし穴の場所は土の盛り方がおかしいとか、そういう話ではないのか。だとしたら、後天的に身につけられる技術ではないのかもしれない。そもそも、スカウトといわれる斥候の技術というのは、索敵や罠の発見に役立つものでダンジョン以外ではそこまで必要ではない。そのため、フランもネルもその手の知識がないそうだ。


「そういえばさ、スキルってどうやって身につけるんだ」

「それをアンタが言うの? 『限界突破』できるんでしょ」

「あー、まあ、あれはちょっと違うかもしれん」

「それは『轟流』だから」

「そんなところ。だから、修行すれば普通に使えるようになる技術なんだよ」

「どういうこと?」


 まあ、仲間内だし隠すほどのものでもないか。一応は門外不出とされているが、そこまで頑なに外に閉ざされているものでもない。轟流の免許皆伝を持っているソウにもこっそり教えている。あいにくと体得には至ってないが。


「俺も詳しいことは知らないんだけどな。人って限界まで力を発揮できるように作られてないらしい。本来の能力の2割か3割が限界で、それを超えると筋肉が千切れたりしてしまうんだと。それで無意識に力を抑えているらしい」

「じゃあ、イチロウの限界突破はその2割や3割と超える力を出しているっていうことですか」

「そういうこと。無意識に抑え込んでいる力を、意識的に出すってことかな」

「それ矛盾してない? 無意識的なものをどうやって超えるのよ」

「根性で」

「馬鹿なの。いや、馬鹿なのか。むしろ聞いた私もバカみたい。真剣に聞いて損したわ」

「どうやるです」

「そうだな、簡単に言うと、手を握って限界まで力を込めてみてくれ、そうすると筋肉が痛くなるだろ。そこが一般的な限界なんだけど、それを意思の力で超えてしまえばいい。まあ、その瞬間に腕の筋肉が千切れるから死ぬほど痛いけどな」

「こわっ、アンタそれをやったの」

「ああ、そん時は2ヶ月くらい入院した。だけど、安心しろ回復魔法は覚えたから!」

「どうせなら頭の方も治してもらえばよかったのに」

「なんだよ。聞きたいっていうから教えたのに。じゃあ、普通のスキルはどうやって身につけるんだ」

「だから知らないわよ。大体そういうのって大っぴらに口にするものじゃないと思うし、大半が生まれつきの才能みたいなものよ」

「そうなのか」

「そうですね。ギルドで借りるステータス水晶なんかではスキルについては確認できませんし、本人も気付かないままということの方が多いようです」

「ん? どういうこと? ステータス水晶って種類があるのか」


 いや、ある。

 よくよく思い出してみれば、王城で使った時は『武神の加護』と出ていたのだ。それがギルドの水晶では見えなかった。


「ギルドでは冒険者登録のために使っているので、レベルやステータスが見れるようになっているんです。あまりにレベルの低い人が冒険者になろうとしても断られるそうですから。ただ、ギルドにあるのは簡易的なものなのでスキルとかは出ないそうです」


 誰でも彼でも冒険者になれると死人が増える。そのための足切りとしてのステータス水晶ということか。


「じゃあ、スキルが見られるようなステータス水晶はどこにあるんだ」

「お城にはあるそうです。スキルに限らずほかにも情報が出るようなステータス水晶だと聞いていますよ」

「あんたも軍人だったなら見たことあるんじゃないの」


 あるけど、そこには限界突破なんてスキルはなかった。

 やっぱり、あれはスキルとは別物なんだろうか? でも、フラン曰くスキル使用時特有の赤いオーラが出ていたらしいし。

 不思議だ。


「はうぅうううううううううううううう」


 突然悲鳴を上げてシエスが地面に転がった。腕を抑えて目が血走ってる。と、その目が反転し白目になった。


「シエス!!」

「シエスちゃん」


 攻撃を受けたのか?

 一体いつ。

 見た目にはどこか傷ついている個所はない。


「ネル。治癒魔法」


 言うまでもなく彼女はすぐに魔法を構成して実行した。ほのかな光に包まれて、シエスの苦痛の表情が徐々に和らいでいく。

 シエスは彼女に任せて、周囲を警戒する。だが、何者の姿も視界には入らない。


「フラン、見えないタイプの敵っているのか」

「ううん。聞いたことないわ」


 魔法剣を手に俺と同じようにあたりに目を光らせるフラン。

 漫画やゲームならゴースト系の魔物というものも存在するが、この世界にいないのだろうか。見えないだけならばと、轟流奥義伍ノ型『桐』で、感覚を鋭敏化させてみるが、聴覚、嗅覚、触覚、いずれも反応はない。


 そうこうしているうちに落ち着いた呼吸を取り戻しシエスがうっすらと目を開けた。


「何があった。すまん、敵の接近に気付かなかった」

「違うです」

「違う?」

「シエスが自分でやったです」

「どういうこと」

「お兄ちゃんが言ったこと、頑張ったです。そしたら本当に死ぬほど痛かったです」

「もしかして、限界突破したってこと」

「はいです」

「ちょっと何言ってるのシエス。あれはこいつが適当に言ってただけで…ってあれ、マジなの」

「マジはマジなんだが、俺も驚いてる。普通、こんなに簡単に成功しないから」


 親父とじいちゃんから聞いて、実行しようとしたけど上手くいくのに二か月かかったんだが。シエスの才能は俺以上ってことか。それだけで推し量れるものじゃないけど。


「シエス。轟流の修行してみるか?」

「お兄ちゃんのかくとうじゅつを習うですか」

「いや、正確には格闘術じゃなくていい。轟流は打撃重視だから、シエスの戦闘スタイルとは合致しない。シエスのスピード重視の戦い方そのままに、基礎を覚えるのも悪くないかもしれん」

「はいはいはーい。そこまで。あんた何考えてるの。シエスをどうしたいの?この子を戦闘マシーンにでもするつもり?」

「そうですよ。こんな気絶するほどの激痛を伴う修行を子供にさせたらかわいそうですよ」

「いや、轟流はそういうんじゃないんだけど」

「シエスはやりたいですよ」

「ダメなものはダメなの。本当はシエスちゃんにナイフ持たせるのだって反対なんだから」


 確かに10歳の子供にナイフ持たせて魔物と戦わせてるっていうのは非常識な気がする。


「じゃあ、基礎的なものならどうだ。俺が魔法使えるのって轟流の教えがあるからなんだ。直接の関係はないかもしれないけど、シエスの魔力操作にも活かせると思う」

「そういうことなら……」

「まあね」


 なぜ、二人の許可が必要かは不明だが納得してくれた。シエスも俺と同じ轟流を学べるというので嬉しそうにしている。轟流の基礎となる瞑想は気の巡りを感じるものだが、この世界においてそれは魔力を意味する。役に立つだろうと思う。


 さて、どんなふうに教えていこうかと考えながらダンジョン攻略をしていたのだが、それは実現しなかった。

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