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ダンジョン攻略スタート

 諦めて宿に入り、翌日地図もスカウトもなしにダンジョンに突入した。

 せめて地図くらいと思ったのだけど、一階層の地図で10万ダリルである。平民なら一か月3万ダリルもあれば生活できそうなわけで、この世界の価値観はおかしい気がするが手が出ないものはしょうがない。仕方なしに、スカウト募集の貼り紙だけ掲示して俺たちはダンジョンに潜った。


 といっても、地図を買うために入り口から遠く無い場所での狩りである。地図の購入とダンジョンを潜るための食料とかを手にするための資金集めだ。ここは中級クラスの魔物がでるので、安全マージンを取ったうえでも稼ぎにはなるのだ。

 

 スマニーのダンジョン一階層はいきなりフィールドダンジョンとなっていた。ダルウィンとは違って森ダンジョンではなく、荒野のダンジョンである。

 まばらに樹木が生えて、乾燥気味の低木がところどころに顔を出す。岩石地帯も多く、荒涼とした雰囲気があった。入り口からなだらかな傾斜になっていて見通しはいい。

 俺たちの前に出発した冒険者の後ろ姿も見えたので、2階層への入り口のあるおおよその方角はわかった。


 とはいえ、見える範囲に魔物の姿は見えなかったので冒険者の進んでいったのとは反対の方向を目指した。正解のルート上は、普通に考えて魔物は討伐されているだろうからだ。


 入り口から左手前方に進んだところで、シビレウルフが4頭が現れた。文字通りマヒ系の毒を持っているオオカミの魔物で、立ち上がれば大人の男を優に超えるくらいのサイズ感がある。


「ここは私に任せてください」


 遠距離から攻撃のできるネルが先陣を切った。中級の魔法書に状態異常を治癒する魔法が載っていたので万が一の際には何とかなる。もちろん、ネルがマヒしなければという前提はつくけど。

 念のために俺も結界魔法の構築を行い、シエスはナイフを構える。フランも遠距離攻撃が可能なので、ネルの魔法が間に合わない場合に備えて、魔法剣を構えて油断なくシビレウルフに目を向ける。


 ガウガウガウと、威嚇するような声を上げながら駆け寄ってくるシビレウルフに対して、ネルの魔法が完成する。 


「ストーンバレット」


 こぶし大の石をショットガンのように拡散させるネルオリジナルの魔法。それは正面から突っ込んできていたしびれウルフを猛威を振るった。というか、一方的に打ちのめした。


「やるわね」

「ネルお姉ちゃん、すごいです」

「さすがだな」

「えへへ」

 

 照れくさそうに頬を赤らめるけども、シビレウルフは言うまでもなく中級の魔物だ。それを一発の魔法で4頭同時に倒してしまうネルの魔法がすごいのだ。

 しばらく時間を置いたところで、シビレウルフの肉体が地面に溶け込み、魔石だけが残った。この階層の魔物は中級としては下位にあたる魔物だが、それでも魔石一つ当たりの売却金額は2万ダリルはくだらないだろう。


 このダンジョンが初心者向けでないとはいえ、多くの冒険者の狩場になっている理由はうなずける。楽勝モードで魔物を一掃したのだが、本来の中級冒険者、D級に上がりたてやC級クラスではこんなに簡単にはいかないそうだ。

 ネルもせっかく開発した魔法を試してみたかったのだろうけど、それにしてもすごい。


 まだまだ余裕はありそうなので、いったん戻って地図を買うという手もあるけども、このまま狩りを続行することにした。


「ところで、結局ニースに戻らなかったけど、二人は問題なかった」

「大丈夫です。手紙を送ったので無事であることは伝わると思いますから」

「そうそう、私たちも子供じゃないんだし、冒険者になったらこういう生活になるのは両親もわかってたことだしね。いっつも、また帰ってきたの? そんなに大変なら村に戻っておいで―ってそればっかりだもん」

「そういえばイチロウの方はどうなんです」


 おっと、藪蛇だったか。

 親父もおふくろも心配してるだろうな。

 けど、戻るのは無理だ。

 王都の魔導士はそういう風に言っていた。

 勝手につれてきて魔王を倒せというのに、戻すこともできないなんてあんまりだと思ったけど、いまはもう諦めている。


「俺は親とかいないから問題ないよ」

「そうなの」


 三人ともそんなに悲しそうな顔をしないでほしい。


「シエスも独りぼっちなので、お兄ちゃんの家族になるです」

「ありがとうな。シエス」


 こんな小さい子に気を使われるとは情けない。このメンバーの中では少なくとも、俺は年長者なのだからもっとしっかりすべきなんだろうな。


「あ、あのね、シエスちゃん。家族になるっていうのどういうこと」

「もちろん、お兄ちゃんのお嫁さんになるです」

「な!! 何言ってるんですか。シエスちゃんはまだ子供じゃないですか」

「はは、ネルも何をムキになってるんだよ。シエスは子供なんだからさ」

「そ、それは、そうだけど…」

「ははは。ネルもシエスくらい素直になればいいのに」

「ち、違うわよ。ただ、シエスちゃんがどういう意味で……ごにょごにょ」


 真っ赤になってフランに向かってぽかぽかするネルは可愛いと思う。シエスもかわいいけど妹って感じだしな。もっと大人になったら全然ありだと思うけど。

 でもウサミミというか魔物と人っていうはありなんだろうか。

 って、子供のたわごとを本気にしてもしょうがないか。


「話変わるけどさ、このダンジョンでどこまでお金稼ぐつもりなの」

「わからん」

「ちょっと、あんたね」

「いや、俺たちのこの先に関しては、3つパターンがあると思うんだ。一つはシエスが魔力のコントロールを覚えて自力で結界を抜ける方法を習得すること。二つ目がここのダンジョンで、それを可能とする魔道具を見つけること。そして、三つ目がお金を貯めて、リスベンで魔道具を購入するパターン」

「つまり、リスベンで魔道具を購入するにしても値段がわからないってこと」

「そういうこと。だって、この前みたいにオークションだったら、金額なんてあってないようなものだろ。できるだけ大金がある方がいいのは間違いないけど」

「でもさ、このダンジョンで見つけるにしても、リスベンで購入するにしても、そんな魔道具があるとは限らないんだよね」

「そうとも言える。だから、ここお金を稼ぎつつシエスが魔力の操作を学ぶのが一番早いかも知れないと思う。そうこうしているうちにダンジョンで何か見つかるかもしれないしさ。二人も言ってただろ、ここのダンジョンは宝箱の出現率が高いって」


 そう、それもまたここに俺たちが来た理由の一つだ。ここのダンジョンは難易度が高い反面、稼げるのだ。攻撃力に関しては充実してきているけども、、防具がしょぼすぎる。せめて中級冒険者らしいものを手に入れたいと思う。


「そうそう都合のいい宝箱が出るとは限らないと思うけど」

「まあな。というわけで、シエス、調子はどうだ?」

「全然ダメなのです」


 耳を垂れさせてシエスが泣きそうな顔をする。

 歩きながらも体内の魔力を感じつつ、それをコントロールする練習をずっとさせているのだ。実際、魔法の才能がないものはここで躓くらしい。


「シエスもあんまり根詰めないようにね。簡単じゃないのは私が一番よくわかってるから」

「うぅ。フランお姉ちゃん。ありがとです。シエスもわかってるです」


 ネルが魔法の才能を見出されて練習を始めたころ、フランも一緒にやっていたそうだ。ほんの一か月ほどで、コツをつかんだネルに対して、フランは3か月経っても半年経っても結局魔法を使うことができなかったらしい。


 歩きながら適当にぐるぐるとダンジョンを回り、この日は4回ほど魔物を倒したところでダンジョンを引き上げた。稼ぎとしては26万ダリルとまずまずだろう。とりあえず、明日は地図を購入して、トラップに気を付けながら一階層を隈なく探索するつもりだ。

 ダルウィンの例もあるので、上層階だからと宝箱がないとは限らないと期待して。

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