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リスボンに戻る

 呪われた魔道具を封じる箱があるらしい。

 『吸魔の指輪』は呪われているわけではないけども、その力の及ぶ範囲は大きい。指輪でありながら、手に持っているだけ、カバンに入れているだけも効力を発揮して、試しにロープに括りつけて10メートルほどの距離を置いてみても魔力は吸い取られた。


 とりあえずの対策として、全員で交代しながら運搬するということで対応しているが、そんなことをいつまでも続けるわけにはいかない。そもそも、魔力を失うというのは魔法使いでなくても戦力の低下につながるのだから。


 そういうわけで、ニースに向かっていた俺たちは踵を返して競売都市リスベンに戻ってきた。件の呪われた魔道具を封じる箱というのも、珍しい品々の集まるこの場所にはあるだろうと推測が立ったからだ。

78番のことを思えば、本当は避けた方がいいのだろうが、早急に解決したいという思いを優先したのだ。


「いらっしゃい」


 魔道具屋に入ると、元気な声で出迎えられた。まだ、少年といってもいい年齢の男の子が店番をしているらしい。フランとネル、シエスがディスプレイされている商品を一つずつ確認していく。

 そう、シエスも無事に街に入ることができたのだ。それだけでも、この街に戻ってきた価値はあったと思う。


 ちなみにこのお店で4軒目になる。

 リスベンではすべての商品をオークションで扱っているわけではなく、各地から持ち込まれた商品を個人でも商人でも関係なく購入できるようになっている。ただし、魔道具や貴金属は相場の変動が激しく、売り手としては競りにかけた方がいいことも多々ある。

 そして、競りをかけても売れ残ったものや、比較的値段の決まるものに関しては店頭に並べられる傾向にあるようだ。また、商人が珍しい品を競り落としては自分の店に並べるということもあるようで、俺たちが足を運んでいるのはその手のお店である。


「ありましたよ」


 ネルに呼ばれて見てみれば、ティッシュ箱くらいの大きさの箱がそこにはあった。素材は不明だけど、ずっしりと重い。表面は何かの革で装飾が施されていて、不思議なことに箱であるはずなのに切れ目がどこにもなかった。


「これ、どうやって開けるんだ?」

「魔道具ですから、魔力を流すんですよ、きっと」


 店員に了解をとってから魔力を流す。すると、先ほどまではなかった切れ目ができて蓋が開いた。中は当然のことながら空っぽで何もない。

 試しに『吸魔の指輪』を入れて閉じてみると、確かに魔力の流出が抑えられた。


「問題なさそうですね」

「で、こちらはおいくらですか?」

「ちょっと、待ってくれ。店長、お客さんだよ」


 先ほどの少年が、店長と連呼しながら店の奥に引っ込んだ。そして、髪の毛をぼさぼさに伸ばしたやぼったい中年オヤジが顔を出す。


「こっちのお客さんが、その箱を買いたいそうだけど」

「ああ、これか。そうだな。120万ダリルってところか」

「120万!!」


 高い。

 毎回思うが、魔道具とはいえ、高すぎるっての。


「値下げする気はねえよ。どうせ、この手の魔道具は回転が速いからなそのうち売れる。欲しけりゃ、きっちり120万耳をそろえて用意しな」


 およそ客商売とは思えないぞんざいな扱いで言いきられてしまった。足元を見られている気がしなくもないけど、それだけの価値があるのだろう。


「どうします」

「稼ぐしかないだろ」

「ごめんなさいです」

「だから、シエスは気にしなくていいよ。どうしようか? ダンジョンに戻る。お金稼ぐならそれが手っ取り早いと思うけど」

「けど、迷宮都市ダルウィンは無理だろ」

「ちょっと遠いですけど別のダンジョンに行きますか?」

「それって迷宮鉱山スマニー? さすがにそれは無茶でしょ」

「そうなのか?」

「スマニーは中級クラスの魔物しか出ないのよ。お金を稼ぐって意味で言うと、中級の魔石が手に入るから手っ取り早いけどさ」

「確かに、それは危険だな」

「珍しい。得意の”大丈夫だろ”はどうしたの?」

「……俺も反省してるんだよ」

「イチロウじゃないけど、大丈夫ですよ。深く潜らず1階層のできる限り安全なエリアで狩りを続けるとかすれば」

「また、落とし穴があったらどうするのよ」

「そ、それは、そうだけど」

「お姉ちゃんたち喧嘩はダメです」

「とりあえずギルドに行って依頼を見てみようか。お金になるのもあるかもしれないし」

「そうだね」


 初めてこの街に来た時にお金を引き出したので、ギルドの場所はわかっている。この街のギルドは王都のギルドによく似ている。依頼票を見てみると、護衛任務がやたらと多い。価値ある商品を手に入れた商人の護衛や、ほかの町に商品を売りに向かう商人など普通の町に比べて人の出入りが多いこともあるのだろう。


 だけど、護衛はダメだ。

 報酬は悪くはないけど、長期間縛られることになるので動きづらいのだ。それに、シエスのことを思えば、秘密を知る人間は少ない方がいい。

 周辺の森や街道、村で目撃情報のあった魔物への討伐依頼がちらほらとある。あとは定番の薬草採集などの素材集めである。以外ではあるけど、冒険者の仕事の需要がある以上ポーションは必需品なのだろう。

 リスボンの南には魔物の出るエリアがあるので、そこで地道に魔石や素材を集めてもいいのかもしれない。


「でも、森って魔物が出るときはよく出るけど、出ないときって全然なんだよね」

「そうなのか」

「そうですね。だから効率という意味ではダンジョンに勝るところはないです」


 ちょっと悩む。

 いつもなら考え無しに行こうぜって言えるのだけど、何度も何度も俺の軽はずみな言葉でみんなを危険にさらしている。


「で、どうするの?」

「なんで、俺に聞くんだよ」

「なんでって、いつもあんたが決めてるじゃない」

「それはそうだけど。別に俺がリーダーとかそういうわけでもないだろ。交渉事は基本ネルに任せているし」

「ほんと珍しく歯切れが悪いわね。なにか悪いものでも食べたの?」

「いや、そうじゃなくて…」

「お兄ちゃん。どうしたですか?」

「どうもしてない。どうもしてないんだけどさ…」


 息を吐き出した。

 よくわからない。俺が無茶を言えばフランは真っ先に文句を言う。それはいいと思う。なんでも肯定されたらパーティとしてダメだと思うから。それに、事実としてダルウィンでは死にかけた。今回のシエスの件だって、元を正せば俺がシエスにナイフを持たせたことが原因なんだし。


「行こうか。前に見たときに私のレベルも28になってたし、中級討伐推奨の30も遠く無いでしょ。もしかしたらすでに超えてるかもしれないし。あんたのおかげで強くなったと思う」

「私も中級の魔法書は読み込んだので、少しアレンジもできそうです」

「お兄ちゃん。シエスもがんばるです。もっといっぱい魔物倒すです」


 俺は彼らの言葉を待っていたのだろうか。

 彼らの方から行こうと言ってくれれば、俺が無理やり誘ったみたいなことにはならないから。もし、何かあっても罪悪感に押しつぶされそうになることはない。そんな免罪符のように思っているのだろうか。だとしたら、俺は最低だ。

 だから、


「分かったよ。行こう。三人のことは俺が守るから」

「そんなの必要ないって、いつまでも守られてるわけにはいかないからね。よし、せっかくだしステータス見ていこうよ。ダルウィンではいっぱいオーク倒したし、もしかしたら上がってると思うんだよね」


氏名:ロキ

 LV:18

 STR:2412

 VIT:2233

 MAG:2198

 DEX:2075

 AGI:2831


「あんた、そろそろ魔王倒せるんじゃないの?」

「ほんとそうですよね。レベル60オーバーのステータスだと思いますよ」

「お兄ちゃん、すごすぎです」


 氏名:フラン

 LV:30

 STR:1001

 VIT:908

 MAG:487

 DEX:862

 AGI:1021


「ほら、やっぱり30になってたわ」

「すごいよ。フラン。これなら中級とも戦える」

「さすがフランお姉ちゃん」

 

 氏名:ネル

 LV:28

 STR:434

 VIT:498

 MAG:989

 DEX:968

 AGI:582


「あれ、私もいつの間にか上がってましたね」

「いや6階層から落ちたときとか大活躍だったじゃない。そういうのが生きたんだよ」

「そうなのかなぁ」


 氏名:シエス

 LV:25

 STR:398

 VIT:375

 MAG:432

 DEX:446

 AGI:2743


「おお、素早さだけなら追いつかれそうだな」

「えへへ」

「っていうか、成長しすぎでしょうが!!」

「そうですよ。なんでちょっとダンジョンに潜っただけでレベル25まで上がっているんですか?」

「シエス頑張ってたもんな」

「ハイです」

「そういう問題じゃなーい!!」

「もしかして、レベル25になると人っぽくなるとかあるのかな」

「聞いたことないですね」

「シエスのお父さんのレベルって知ってる?」

「ええと、確か14です。ポーターなのでなかなか上がらないです」

「ほら見なさいよ。だから、やらせ過ぎなのよ」

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