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ニーファのオークション

 ニーファのオークション会場は、薄暗い地下にあって場所を間違えたのだろうかと何度も場所を確認させられた。円形劇場の様に階段状に参加者が座る椅子があり、入り口で配られた番号札に従って決められた場所に座る。

 横にいるネルの顔がうっすら見える程度の照明しかなく、不安そうなネルが俺の手をぎゅっと握っていた。俺の顔はおそらく真っ赤になっている気がするけども、この明かりでは多分気付かれてないと思う。

 

 そして中央だけに照明が当たっているのだが、そこには何もなく真っ白な床だけが不気味に浮かび上がっていた。

 しばらく待っていると、道化師のようなメイクをした男が中央に現れオークション開幕を告げた。


「ご来場のみなさま。大変長らくお待たせしました。ニーファのオークションへようこそ。今宵も他に類を見ない珍しいものをご覧に入れてみせましょう」


 どうやらここは珍しい商品専用のオークション会場のようだ。


「それでは早速最初の商品にご登場いただきましょう」


 カートに押されて何かが運ばれてくる。

 なるほど、カートが入ってくるために中央には何もなかったのかということが分かったが、運び込まれた商品に関してはまるでよくわからなかった。

 黒い塊、大きさはサッカーボールくらいで丸でも四角でもなくいびつな形をしている。


「ご覧いただけたでしょうか。こちらは世にも珍しい『ダルバッシュバードの糞』です。焚けば魔物除けに、体に塗り込めば肌が若返り、煎じて飲めばかつての元気が取り戻せます。さあさ、いかがでしょうか。まずは10万ダリルから始めましょう、はい。22番が15万、189番が20万を付けました。おっとこちら36番さんが25万……」


 びっくりするほどの高値で進んでいくオークションに目を丸くしながらネルに聞いてみる。


「ダルバッシュバードって?」

「大型の鳥の魔物です。虹色の羽が特徴でかなり珍しい魔物なんです。その羽根が装飾品として高額で取引されるというのは耳にしたことありますけど、糞に関しては……」

「元気になれるって、若返りの効果もあるみたいだし、本当なら価値はあるんだろうね」

「そ、そうですね」


 俺たちが小声で話をしているのをよそに、価格はどんどん上昇して最終的には76万ダリルで落札された。ちょっと不安になってくる。全財産をギルドで引き出しながら、準備しすぎと思っていた。使い道のなさそうな魔道具だけど、たかだか糞に76万である。


「大丈夫かな。あれで76万って……」

「でも、その、欲しい人には喉から手を出しても欲しいというか」

「まあ、若返りって女性の夢みたいなものか」


 薄明りで表情が見えないけど、なぜか俯いているネル。

 若返りがそんなに恥ずかしいのだろうか。

 いや、


 ”かつての元気が取り戻せます”


 ってのは、つまりそういう話なのか。もしかしてここが薄暗くてほかの参加者の顔が見えにくくなっているのはそういうことなのか。

 ふと思い出してみれば、商会の受付の女性もなぜか商品の行方を確認をした後、嫌な目つきをしていたと思う。あれは、俺たちを軽蔑していたのかもしれない。

 いや、でも、あの指輪にそういう力があるのだろうか?

 性欲が増すとか?


 そんなことを考えていると二つ目の商品が紹介されていた。


「さてさて、みなさま。二つ目にして驚きの商品です。こちらはとある貴族の方から売りに出された『隷属の首輪』でございます。これさえあればどんな魔物でもあなたの僕になります。かのドラゴンであって伝説上の聖獣であろうともこの首輪からは逃れられません。ええ、もちろん、魔物に限らず、くっくっくっくっく、あなたのご要望通りになんでもです。それでは100万ダリルからスタートしましょう」


 ダメじゃん。

 ここ絶対ダメなやつだ。

 あちらこちらの札が上がって、値段がどんどん跳ね上がっていく。

 彼らが隷属したい”何か”っていうのは考えるまでもない。


 金持ちってのは考えることは一緒なのか。

 ちらりとネルのほうを見ると、下を向いて両手をぎゅっと握っていた。


 うん、話しかけるのもためらうな。


 さっさとこの場を出ていきたいけども、シエスのために指輪は必要だ。

 次から次に出てくる使用者の昏い要求を叶えるような魔道具を聞き流し続けて16品目。ようやく俺たちのお目当ての魔道具が出てきた。


「さーて、次の商品ですが、こちらはつい先日迷宮都市ダルウィンで見つかった『吸魔の指輪』でございます。これは使用者の魔力をどんどん吸い上げるアイテムのようです。なんと、これは装備をしなくても持っているだけで効果を発揮するそうです。つまり、ふふふ、最後まで説明することはないでしょう。魔力を失えばどうなるか。憎いアイツのカバンにこっそり入れてみるなど、使い方はあなた次第! それでは10万ダリルからスタートです」


 なるほど、そういう使い道を提案してきたかと思いつつ、俺は札を上げる。

 すぐに番号が読み上げられるが、誰かの別の人の札が上がる。


「15万、20万、25万、30万……」


 どんどん、どんどん上がっていく。

 ネルが言っていたように魔力が枯渇すれば気絶することもあるって話だ。そして司会者のあの言葉。こっそりカバンなどの身の回りのものに仕込むだけで、相手を気絶させられるかもしれないのだ。悪用しようと思えば、どうにでもできるということなのだろう。昏い欲求のあるものもこの会場にはたくさんいるのだろう。


 俺たちは使い道がわからずデメリットしかないからとダンジョンから持ち帰ることをしなかった魔道具も、見方を変えると価値が生まれるらしい。たかが上層階の宝箱と侮った俺たちが悪い。


 考え事をしている間にもどんどん価格が上がっていく。


「……65万、70万、75万……」


 やばい。やばい。やばい。

 指輪は小さい。

 あれだけ小さなものならこっそり仕込むのも確かに簡単だ。俺たちと対抗しているのはすでに一人に絞られている。78番の札を持つ誰かをひっそりとにらみつける。アイツが何を考えてほしがっているのかわからないがどうせろくなことには使わないだろう。


「どうします」


 小声でネルが聞いてくる。

 俺たちの見立てではここまで高額になる予定はなかった。全財産は117万円あるが、全部使ってしまうわけにはいかない。


 現在は88万円。

 100万円が見え始めたころから、刻みが2万円に代わっていた。


「110万を限界にしよう」

「はい」


「90万…92万……78番の方どうですか?」


 相手もさすがの高額に少しずつ手札を上げるのをためらい始めている。このまま諦めてくれたらと思ったら、


「100万」


 一気に上げてきた。だが、俺たちの予算はまだある。札をあげ、5万円アップさせる。さすがに78番も沈黙する。100万ダリルをリミットとしていたのか。ここのオークションでは現金払いが基本らしいので、78番が大金持ちだったとしても、この場になければどうしようもないのだ。

 もちろん、それは俺たちにも言える。


「どうですか?ほかにいませんか?」


 長い長い沈黙が流れ、落札を知らせるハンマーの音が会場に響いた。


「いこうか」

「はい」


 ネルの手をとって会場を抜ける。落札した人専用の部屋に移動して、係の人にお金を支払い指輪を手に入れる。ダンジョンで見つけたあの指輪に間違いない。出費は大きかったけど、これでシエスが街に入れるようになるなら問題ないと思う。


 しかし、会場を出ようとすると追いかけてきた78番の纏わりつくような視線がどうにも気持ち悪かった。

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