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宝探し

 再びダンジョンである。

 体が軽い。

 ステータスの確認をしてないけど、レベルが上がっているのは間違いなさそうだ。

 フランの動きもいい。もはや、ここのダンジョンの上層では敵無しって感じだな。


「なあ、二人はシエスのことどう思ってる?」

 

 シエスが一緒にいるときに聞けなかったので、素直に聞いてみた。俺としては彼女を助けたいと思ってる。けど、二人が同じ気持ちとは限らない。

 空腹のシエスを助けようとしたときにも彼女たちは躊躇していたから。


「どういう意味?」

「その、俺としてはシエスが魔族だろうと関係ないって思ってる。そりゃあポーターとしてお金で雇っている関係なのかもしれないけど、そんなの関係なくもう一緒のパーティかなって」

「…はぁ。あんたってほんと馬鹿だね」

「なんだよ」


 少しむっとした。


「シエスちゃんは私たちにとっても仲間ですよ」

「魔物でも」

「魔物でもです」

「じゃなきゃ、シエスのためにダンジョンに潜ったりするわけないでしょうが」

「そういうことです。まだ数日の付き合いですけど、シエスちゃんかわいいし、もう仲良しですからね、魔物だからってどうなってもいいっていうほど、私たちは薄情じゃないですよ」


 そうなのか。

 そうなんだ。

 俺の思い過ごしだったってわけか。

 でも、


「最初に裏路地で見つけたときはさ」

「そりゃあ、何のかかわりもない魔族を助けようとは思わないって。いや、ちょっと違うかな。魔族でなくてもね、あそこで倒れているのが人間の女の子でも、あんたがいなかったら素通りしてたよ」


 ちょっとショックだ。


「そうですよ。それが普通だと思いますけど」

「死んでも構わないってこと」

「構わないわけじゃないです。でも、私たちにそんな力はありませんから」

「どういうこと」

「あんたって本当に変わってるよね。考えたらわかるでしょ。シエスはポーターとして雇うことができたし、私たちと行動を共にすることで、袋も広がったわけでしょ。だから、私たちがダルウィンを離れた後も誰かに雇ってもらえて生活できたと思うけど、普通の女の子だったとしたらどうなったと思う。一度ご飯を食べさせて、それでどうするの? 生活できるようになるまで面倒見るの。でも、飢えて死ぬ子供なんてこの国じゃ珍しい話でもない。この先も、路地で見つけた子供達すべてに同じことができるの」


 二の句が継げなかった。

 甘いんだろう。

 日本にいて、餓死するなど考えたことなかった。当たり前に飯が食べれたし、ホームレスはいたけどもかかわったことはない。テレビでみる難民も遠くの出来事で実感はなかった。

 二人のことを、優しくないと思ったり薄情だというのは簡単だけど、たぶん間違っているのは俺の方なんだろう。二人を責めるのはお門違いってことか。

 

「イチロウは、もしかして貴族なんですか」

「え、いやいや、それはない。それはない、その、ごめん」

「なんで謝んのよ」

「なんとなく」


 どうしていいかわからず、俺はタイミングよく現れたゴブリンの群れに突っ込んでいった。それで、この話題は終わりだ。だからどうしたということでもない。とにかく二人がシエスのことを俺と同じように大切な仲間と思っていたことが分かっただけで十分だった。

 それから一階層を30分ほどで抜けて、2階層、3階層と、順調に進んでいく。

 そして問題の4階層に降り立った。

 

「この先を左みたいですね」

 

 フランを先頭に、ネルが続いて最後に俺が後方の警戒をしている。4階層を攻略したときの地図を見ながらネルが曲がる方向を指示する。ダンジョンは内部構造が稀に変わることもあるらしく、ここのダンジョンも二度ほど内部が変容したそうだ。


 といっても数十年周期でしか起こらないらしいし、3階層までは同じ地図で迷うことなく進めたので、4階層も問題はないだろう。時々、ゴブリンやホブゴブリンが出てくるけどもフランが瞬殺していく。

 警戒が必要なのは6階層のトラップのようなものだけど、俺たち3人にはスカウトや斥候の技術がない。本当はそういう仲間を引き入れるか雇いたかったけど、そうも言っていられない。


「たしかこの辺だったと思います」


 ほんの少し開けたところで、俺の記憶でもこんな感じの場所だった思う。でも、そこには宝箱らしきものはどこにもなかった。


「記憶違いかな」

「ですかね」


 迷わないように地図は作りながらのダンジョン攻略だけど、必要のなかった宝箱の場所まで記録はしていない。要は大体この辺だったという感覚で進んできた。


「とりあえず虱潰しに探してみるか」

「はい」


 気を取り直して、地図をにらめっこしながらすべての通路を歩いてみた。

 だが、宝箱は見つからなかった。


「誰かが持って行ったってことか」

「でしょうね。もしくはダンジョンが吸収した」

「でも、誰かが持ち帰ったのならギルドに売ってますよね。さすがにあんなアイテムを持って行ったりしませんよね」

「どうせ使い道ないだろうし」


 魔力を吸収する指輪。

 貯めることができるなら使い道もありそうだけど垂れ流すだけでは意味がない。


「例えば魔物に飲み込ませることができたら、魔力を吸収して弱体化できるかもしれませんね」

「おー、ネルは頭いいな」

「でも、そんなにすごい勢いで魔力が減った感じはしなかったけど」

「それもそうですね。ふふ、やっぱり使い道はないですね。どうします。戻ってみますか?」

「そうしよう」


 結局無駄足となって、町に戻ったのは昨日と同じく夜遅い時間になってしまった。ギルドに確認するのは明日でもいいだろう。待っているシエスが心配だったので、宿に直行した。


 シエスは大人しく待っていてくれたらしい。

 俺たちが戻ると期待した顔で出迎えてくれたので、首を振ると少し寂しそうな顔をした。


 そして次の日、ギルドに向かった俺たちは数日前に指輪が持ち込まれたことが分かったのだが、件の指輪はすでにこの街から出ていた。

 迷宮都市ダルウィンで取れた魔石は、魔道具の工房が多い創作都市アデードにほとんど出荷され、それ以外のドロップ品は選別して競売都市リスベンでオークションにかけられるそうだ。


「行くしかないよな」

「ですけど、シエスちゃんは入れませんよ」

「街の外で待つです。だからお願いしますです」

「そうだね。うん。それしかないよね。そうと決まったら、早めに行きましょう。いつオークションにかけられるかわからないもんね」


 100万ほどのお金もあるし、競売に間に合えば何とかなると思う。問題があるとすれば、指輪が本当に効果を発揮するのか。そして、シエスに悪影響を及ぼさないかという点だ。手に入れても使えなければ意味がない。


 期待と不安を抱きながら俺たちは迷宮都市を後にした。

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