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無事帰還

 オークの群れを何とか討伐した俺たちは、ダンジョンを脱出した。

 後からわかったことだが、俺たちが落下した先は7階層ではなく10階層だったのだ。中空に投げ出される前に通過したトンネル状の縦穴が7階層から9階層を貫いていたらしい。


「ああ、ようやく帰ってきたんですね」

「うん。私たち生きてるんだよね」

「大げさだなフランは」

「つかれたです」


 袋ウサギの能力で、最短ルートを通って地上に戻ったがすでに外は真っ暗だった。街灯の明かりを頼り向かって歩く先は冒険者ギルドである。

 宿でダンジョン探索の疲れを癒したいところだけども、手持ちのお金があまりなかったのだ。

 

「魔石の買取りお願いします」

「ギルドカードとアイテムをこちらにお願いします」


 ありがたいことに日も暮れているというのに、ギルドは平常運転していた。買取りカウンターの女性はここ数日見慣れたスタッフではなかったので、きっと夜勤の人なんだろう。俺たちもそうだったけども、ダンジョンに潜っていると時間の経過がわからない。そのため、この街では24時間営業しているお店も多いようだ。


「シエス。おねがい」

「はいです」


 シエスがポケットからダンジョンで入手した魔石をカウンターの上に並べていく。スタッフは魔石を手早く仕分けしていく。


「えー、ゴブリン、ゴブリン、コボルト、スライム、ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン、オーク、ゴブリン、ゴブリン、グレイウルフ、ゴブリン、コボルト、グレイウルフ、グレイウルフ……」


 彼女は魔石の色や濃度、大きさで何の魔物から取れたのか瞬時に判断しているようで、声に出しながらそれぞれをグループごとに樽に入れていく。魔石の買取り価格は魔物ごとに決まっているので、このやり方がいいのだろう。


「……ゴブリン、オーク、オーク、オーク、ハイオーク?」


 スタッフの手が桃色の魔石の上で止まった。


「あの、ハイオークを討伐されたのですか?」

「え、ええ」

「はあ、よくご無事でしたね。力試しにダンジョンに潜るのはいいですが、力を過信しないようにお願いしますね」

「はい」


 ギルドカードによれば俺たちはEランク以下の冒険者。スタッフさんがびっくりするのも無理はない。


「すみません。再開しますね。えっと、オーク、オーク、オーク、オーク、オーク、オーク、オーク、オーク、オーク、オーク、オーク、オーク、オーク、オーク、オーク。随分と大量のオークを討伐したんですね。それからまたオーク、オーク、ハイオーク、オーク、オーク、ゴブリン、オーク、オーク…」


 ハイオークが二つ?

 俺たちはみんなで顔を見合わせた。

 オークの群れに襲われたときに倒したハイオークは1頭だけだったはずなのだ。みんなを率いていたハイオーク以外にもいたのだろうか。そんな疑問をよそに、彼女の仕分けが進んでいく。


「…オーク、オーク、ハイオーク、オーク、オーク、オーク、オーク、オーク、え?ええええ?あの、いや、え、え、あの?」


 彼女の手が再び止まった。

 それどころか、ハイオークを見つけた時以上の驚きに目を白黒させている。


「どうかしました?」

「いや、これ、オークロードですよね?」

「へ?」


 オークロード?

 スタッフが手にしたのは赤い輝きの魔石だ。ハイオークの桃色の魔石に比べると小さいが鮮やかで濃い色をしている。


「えーじゃあ、あれがオークロードだったってこと。だから結界もあんなに簡単に破られたんだ。ああ、もう、おかしいと思ったのよね」

「そんなに変なのか?」

「そうですよ。中級クラスの魔物にも耐えられる結界のはずだったんです。もちろん、中級にも幅はありますが、ハイオークであればあんなに簡単に破られるはずはないと思っていたんですけど、そもそも私たちは上層にいるつもりだったじゃないですか」


 確かに上層にいるのに何で中級の魔物がでるのだと疑問に思っていたくらいだ。

 俺たちの動揺を聞きつけて、スタッフが確認してきた。


「どこでこれを?」

「10階層です。おそらくとしか言えませんが」

「おそらく?」

「その、大量のオークに囲まれたので、魔石の回収は後からまとめて行ったので確信はなくて」

「いえ、そういう話でしたらたぶん間違いないです。オークロードはオークやハイオークを従えて群れで行動する魔物です。本当によくご無事でしたね。もしかして、後ろの二人は高ランク冒険者なのですか?」

「いいえ、違いますよ」


「…と、とにかく、買取りを続けますね」


 あっけにとられる俺たちを置いていき、彼女の査定は続く。


「オークの中にも毛色の違うのがいるなと思ったのよね、そっちがハイオークだったってことね」

「あんまり大差ない気がしたけどな」

「あんたはね……。でも、私も気付かないうちに中級の魔物を倒していたってことだよね。はあ、何だかんだで強くなってるってことかな」

「だろうな」

「シエスもですよ」


 目をキラキラさせて胸を張るシエスの頭をなでる。


「でも、毎度毎度こんなことやってられないし、次に潜るときはやっぱりスカウトとか雇ったほうがいいわよね」

「確かにな、罠もそうだけどフィールドタイプだと目的地がわからん」


 そんな会話をしていると、魔石のカウントが終わったので、ダンジョンに吸収されずに残った剣や斧といったドロップ品を売却する。


「合計116万ダリルになりますが現金で受け取りますか?」


 またしても驚くほどの大金を手にいれてしまった。オークロードやハイオークの魔石が高かったのもあるが、純粋に討伐した魔物の数が桁違いだった。カウントによればオークだけで168頭である。僅か5日程度の稼ぎと考えると破格である。

 100万ダリルを預金にして、16万ダリルを現金で受け取り宿に向かった。前回泊った宿は満杯だったので別の宿を取った。


 フランとネルで一部屋、俺とシエスで別の部屋と二手に分かれて宿に入る。一週間近くシャワーを浴びえていないので、しっかりと汚れを落としてベッドに入った。

 久しぶりの柔らかな布団でぐっすりと眠った。

  

 






 朝が覚めると見知らぬ少女が俺の上で寝息を立てていた。

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