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宝箱

 ゲームに登場するような『ザ・宝箱』って感じをしている。大きさ的には腰かけるのにちょうどいいサイズ。


「おー、ついに宝箱発見だな!!」

「そうですね。でも、上層ですからそんなに期待できませんよ」

「そういうこと。それに、ほかの冒険者に中身取られている可能性もあるからね」

「夢がないなあ」

「楽しみです」


 うん、うん、シエスはかわいい。頭をぽんぽんと撫でる。

 それに比べて二人はロマンがない。

 上がり始めていた俺のテンションを返してほしい。

 死んだ魔物はダンジョンに吸収されるから、基本的に魔石しか手に入らない。稀に手にしている剣やナイフを落とすこともあるけど、上層階が実入りが少ないというのもうなずける。

 そこに来ての宝箱だ。


「こういうのって罠とかないんですかね?」

「上層だし大丈夫じゃないの?」

「でたよ。根拠のない”大丈夫”が。っていうかさ、ダンジョン潜るならポーターもだけどスカウトも必要だったよね」


 スカウトは罠を見つけたりするので、ダンジョン攻略には必須ともいえるパーティーメンバーだったりするけど、俺たちにはそんな技能はない。もちろん、罠の場所を記載済みの地図も売っているけど超がつくほど高額だったりする。

 

「じゃあ、そこの取っ手にロープ掛けて遠くから引っ張るか」

「そうですね」


 シエスのポケットから取り出したロープを取っ手に引っ掛ける。宝箱が置いてあったのは6畳ほどのちょっとしたスペースだったので、そこから通路側まで移動して引っ張った。


「大丈夫そうだな」


 もくもくと煙が上がるわけでもないし、毒矢が飛んでくるわけでも、宝箱の前が落とし穴になることもなかった。それを確認しつつも、俺たちは恐る恐る宝箱に近づき、中を覗き込んだ。


「指輪?」

「だね」


 中にあったのは銀色の宝石一つ付いていないシンプルな指輪だった。宝箱の大きさとお宝のサイズ感の違いにがっかりしつつ、ここは上層だし仕方ないかと思う。

 フランが手を伸ばして、指輪を手に取った。

 近くで見ても何の変哲もない指輪だ。


「売っても3000ダリルくらいですかね?」

「ま、まあ、何もないよりはマシか…」

「でも、これなんか変な感じする」


 フランが指輪をいろんな角度から見ている。


「どういうこと?」

「うーん、ネルならわかるかな」


 といって、フランからネルに指輪が渡される。もしかして魔道具の類だろうかとちょっと期待が膨らむ。指輪を掌に載せたネルが、しばらく観察をしていると何かに気付いたようだ。


「これ、魔力を吸われてます」

「ああ、そういうことか。だから変な感じしたのか」


 魔法使いのネルの方が、魔力の扱いに長けているのでわかるのだろう。俺も受け取ってみたけど、言われないと気づかないレベルだと思う。


「これって呪いの魔道具?」

「かもしれないですね。魔力を吸われてますけど、指輪に魔力がたまっている感じもしないですし、ただただ摂られるだけみたいです」

「ま、まあ売れるならいいか」


 魔石以外の初めての戦利品だ。

 売るのも勿体ない気がするけど、呪われた魔道具なら持ってない方がいいだろう。


「シエスの袋に入れて大丈夫なのかな?」

「入れてみるです」


 シエスが手を伸ばすので、袋に入れてみた。


「どうだ?」

「んーーーーーーーと。なんか変な感じします」

「ってことはダメってことか」


 彼女の袋は隔絶された空間ってわけではないみたいだ。時間経過もあるから生ものは入れられないとか制限はある。それもレベルアップで変化するかもしれないが、今のところは無理っぽい。

 荷物はすべて彼女に持たせていたので、小さめのバッグを取り出してもらって指輪を収納する。


「とりあえずこんな感じで」

「そうですね」


 と、歩き出してすぐに違和感を覚えた。


「ダメだ」

「どうしたの?」

「これ、バッグに入れてても魔力吸われてる」

「マジで!?」

「ああ」


 呪いが強すぎる。

 そもそも指輪なのに指にはめなくても効果を発揮していた時点でおかしい。

 反則だろそんなもの。


「もしかして、この指輪が残ってたのって」

「ですね」

「うん」


 地上に持ち帰ろうとすると魔力を奪われるんじゃ誰が持ち帰るかという話だ。帰りがけに拾っていくならともかく、これからダンジョンを攻略する以上魔力を枯渇させるわけにはいかない。


「戻すか…」

「そうですね」


 指輪を戻した。

 がっかりした。

 超がっかりした。

 こんなくそみたいな魔道具、持って帰っても大した価値はないと思う。でも、初めての宝箱だったのだ。期待するじゃん。ナイフの一つでもよかったと思う。

 記念にずっと取って置きたいくらいだ。

 なのに…。


「行くか」


 気持ちを振り切って俺たちは4階層、5階層と突き進んだ。ほかには宝箱はなかった。そして丸一日かけて6階層に到着した。


 そこにはダンジョンの中とは思えない森が広がっていた。

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