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袋ウサギ

 迷宮都市ダルウィン。

 60年ほど前に現れたダンジョンを中心に成立した人口1万人ほどの街。ほかの町に比べて圧倒的に冒険者の数が多いためか、街の雰囲気がまるで違う。

 王都のように華やいでいないし、きれいに整備されていなかった。

 西部劇の舞台のように荒涼とした雰囲気を醸し出している。


「あ! おにいさん。新しく来た冒険者かな」


 街に入ったばかりの俺たちに話しかけてきたのはウサギだった。


「えっと、ナニコレ?」

「ちょっと、お兄さん、ひどい言い方するなぁ? あれ、もしかしてダンジョンは初めてかい?」


 ”ナニコレ”発言にご立腹らしいけど、ウサギの表情はよくわからない。

 この世界に獣人がいるとは聞いていたけど、こっちのタイプなのか。できれば顔は人間のうさみみの方がよかったんだけどな。

 いや、おっさんのウサミミはいらんな。


「そうだけど?」

「そうかい。じゃあ、知らなくても無理もないかな。おいらはポーターをやってるディグルっていうんだ。お兄さん、見たところなかなか腕が立ちそうじゃないか。おいらを雇ってみないか?」

「えーっと?」


 フランとネルに目を合わせると、二人がポーターについて説明してくれる。


「ポーターっていうのは荷物持ちのことです。ダンジョンは深いから日帰りでは攻略できないし、中で手に入れた素材も潜れば潜るほど嵩張っていきますよね。そういう荷物を代わりに運んでくれるんです」

「もしかしてマジックバッグを持ってるってこと?」

「みたいなものだね。彼らは袋ウサギという種族でね、生まれつき腹部にマジックバッグのような袋が付いているのよ」


 カンガルーみたいなものか?

 あれ、そうなるとこのディグルっていうのもメスなのか?

 声はおっさんなんだが。


「そういうこと。おいらは足に自信があるからね、下層の方でも問題なくついて行くよ。お兄さんたちの冒険者ランクは?」

「「E」」

「F」

 

 ウサギの顔では一瞬で顔つきが変わったのがわかった。

 あからさまな失望。


「っと、悪いな兄さん。おいら用事を思い出したよ。またな」


 足に自信があるというのは嘘じゃないらしい。

 なかなかの速度で人ごみの間をすり抜けていく。


「失礼な奴だな」

「でも、ポーターさんは雇ったほうがいいですよ。ダンジョンじゃポーターを雇うのは常識みたいですし」

「あーあ、マジックバッグがあればな」

「それは言わないの」

「やっぱり500万は高すぎますよ」

「だな。よし、とりあえず宿を探そうぜ」


 冒険者の集まる街だ。

 宿の数も半端ないようで、さっきから客引きの声はひっきりなしに聞こえていた。彼らと交渉しつつ、部屋を見ては、また別の宿をと吟味を重ねていく。

 魔法書や魔法剣を購入したので、俺たちは再び貧乏街道まっしくぐらだ。そんなわけで安くていい宿を丁寧に探していた。


 大通りだけでなく、通りから入ったところにも宿はないかと路地にも目を向けていた俺は細く薄暗い路地に横たわる影を見つけた。


「こっちにきてくれ」


 フランとネルに声をかけて俺は、その影に向かっていく。


「どうしたの?」

「子供が倒れてる」


 俺の目の前には10歳くらいの小さな子供らしき人影が倒れていた。

 子供らしき人影というのは、袋ウサギの年齢がさっぱりわからなかったからだ。

 さっき声をかけてきたポーターよりも随分と小さいから、子供なのかもと思った程度の話。


「おい、大丈夫か?」


 袋ウサギの子供の頬をぺちぺちとたたくと「う、ううん…」と反応があった。


 とりあえず生きているようだ。


「大丈夫か?」


「おなかが……」

「おなかが痛いのか?」


 俺が聞いても、そいつは首をフルフルと横に振るばかり。


「ネル。治癒魔法をかけてあげてくれるか?」

「いや、その…」

「ダメなのか?」


 まさか断れるとは思ってなかったので俺は驚いた。ネルもフランも優しいと思っていた。治癒魔法は減るもんじゃないのに。


「じゃあ、俺がやるから魔道回路をおしえ--」

「そうじゃないよ。その子はただ、空腹なんだと思う」

「え?」


 俺の言葉を遮ったフランの言葉にネルがうなずく。

 なるほど、空腹に治癒魔法が利くはずもないか。あいにくと俺たちも食べ物は持っていなかった。


「とりあえず、飯屋に行こう?」

「その子を助けるの?」

「そりゃ、そうだろ」


 不思議そうに聞き返されたけど、どこが不思議なのだろうか。

 餓死寸前の子供を放っておけるか。


「二人は嫌なのか?」

「そういうわけじゃ…」


 といって顔を見合わせる二人。

 さっきの治癒魔法のくだりからどういうわけか歯切れの悪い二人を俺は不思議に思う。もしかして獣人差別とかあるのだろうか?


 獣人を助けたら罪に問われるとしても俺はこの世界のルールをよく知らない。だから、二人がダメというのなら悲しいけれど、放っておくしかないのかもしれない。それでも、いいよという一言が聞きたくて、俺はもう一度尋ねた。


「問題ないなら、連れていくけどいいかな?」

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