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VS兵隊蜘蛛

 ネルの掛けた結界は優秀だった。

 むしろ優秀過ぎだといってもいい。焚火を中心におよそ50mほどの範囲で結界を張って眠ったのだが、体長1メートルはあろうかという蜘蛛がその周囲にわらわらと蠢いていた。

 結界は破られることなく、何だったら魔物の気配すら感じさせなかった。


「で、あれは?」

「なんで、そんなに余裕なのよ…って、あんたに言うだけ無駄か。あれはスパイダーアーミー。群れを作るタイプの珍しい蜘蛛よ。下級の魔物だけど、この数は…」


 確かに見える範囲だけでも軽く100匹くらいか。

 いくら雑魚でも数の暴力は侮れない。


「まあ、でも結界ギリギリから攻撃すれば問題ないだろ」


 俺がそういうと、フランがわざとらしいほど大声で「はあ」とため息をついた。


「あんた馬鹿でしょ。結界の内側から攻撃できるわけでないでしょ」

「そうなのか?」

「そうですよ。結界は”魔”を弾くんです。魔物を退けるのはもちろんですけど、私たちの攻撃にも魔力が宿るので通りません」


 知らなかった。

 さすがにそういう卑怯な真似はできないらしい。


「じゃあ、ネル。結界に守られている間に一発大きいやつ行けるか?」

「は、はい。中級魔法も勉強したのでやってみたいと思います」

「よし、じゃあ、撃ちもらしはフラン頑張れ!」

「あほかー」


 盛大にどつかれた。


「なんだよ。次に魔物現れたら任せるって言っただろ」

「言ったけど、これは違うでしょうが!あの数見なさいよ」

「まあまあ多いけど、下級だろ」

「どこがまあまあよ。どこが!!」

「大丈夫だって、ネルの魔法もあるんだし。な!」

「う、うん。私頑張るよ」

「ネルもなんでやる気になってるの?」

「えへへ、イチロウがいるから大丈夫だよ」


 絶大な信頼を寄せられてるな。

 ちょっと、うれしい。 

 期待には応えよう。


「じゃあ、結界を切った後はネルの身は俺が守るから、魔法をどんどん使ってくれ。フランは囲まれないように気をつけてな」

「私の扱い雑じゃない?」

「そんなことないって。マジでやばいときは助けるからさ。それに魔法剣を使っていいから」

「言われなくても使うわよ」


 フランが魔法剣を抜き放った。

 彼女の髪や目の色と同じ鮮やかなクリムゾンレッドの剣身。大きさはロングソードと変わらない。赤い剣身だからと炎属性というわけではない。属性魔法が必要ならネルの魔法があるので、この剣に求めたのは単純な力の底上げ。


「じゃあ、ネル。頼んだ」

「わかりました」


 ネルの正面に魔術回路が生まれる。

 まだ2週間ほど前に本を手にしたばかりというのに、彼女は魔術回路を暗記しているのだろう。魔法陣が輝き、魔術回路の完成を知らせる。

 それにあわせて結界を維持している魔石に魔力を流して打ち消した。


「テンペスト!!」


 結界の消失を見て、ネルが発動句を唱えた。

 その瞬間、無数の風の刃がスパイダーアーミーを襲う。端的に言えばウインドカッターの乱れ打ちのようなものだが、威力は桁違いだ。ネルの前方にいたスパイダーアーミーが次から次に体液をまき散らしながら、体のどこかを切られていく。

 たった一発の魔法で切り裂いた魔物の数は一桁では足りなかった。


 すげえな。


 俺がそんなことを考えていると、私も負けないわよと言わんばかりに背後で次々と斬撃の音が聞こえてくる。スパイダーアーミーの群れに飛び込んだフランが次から次に敵を屠っていく。口では自信ないようなことを言っていても、彼女は一太刀でスパイダーアーミーを切り伏せていく。


 フランもすげえ。


 風の刃の猛攻を逃れたスパイダーアーミーの後続が、仲間の死骸を乗り越えてネルの方に向かってくる。


「次、いける?」

「はあ、はあ。あと一発くらいですね」

「よし、じゃあ、もう一回頑張れ」


 彼女が魔法を発動までの時間稼ぎをする。スパイダーアーミーの群れに飛びこみ、打撃の嵐を叩きこむ。スパイダーアーミーの相手をしつつ、フランの様子を見ると、囲まれないように自分の立ち位置を考えつつ、そのうえでネルの方に魔物が来ないように立ちまわっている。


 一体一体は雑魚とはいえ、100匹近い数は脅威だ。

 その中でこれだけの動きができるのは、彼女の才能だろう。

 そして、魔法都市で購入した魔法剣が、この包囲網の中真価を発揮する。


 ネルを中心に俺とフランが前後を抑えているが敵は四方から襲い来る。立ち位置を変えながら囲まれないようにしていても限界はある。そうしてできた守りの薄い部分を狙ってスパイダーアーミーが進軍しようとする。


 だが、先頭の一匹が突然真っ二つに両断される。


 フランが斬撃を飛ばしたのだ。


 剣の銘は『飛爪』


 魔力を込めて剣を振るうことで斬撃を飛ばすことができるというシンプルな魔法剣だけど、フランにとってこれ以上の武器はない。敵が常に前にいるとは限らない状況で、離れた敵に攻撃する手段があるというのは大きなアドバンテージになる。


 その様子を見ながら俺も負けじと、周囲に転がっている石を拾ってはスパイダーアーミーに投げつける。


「テンペスト!!」


 二回目の風の刃の嵐がスパイダーアーミーの群れを切り刻む。大きな魔法を二度も使って息も絶え絶えのネルだけど、残ったのは十数体のみ。これならフランに任せていいだろうとネルのそばに駆け寄った。


「大丈夫?」

「はい。これほどの魔力を一度に使ったことはなかったので、ちょっと魔力切れを起こしてますけど、すぐに回復します」

「よかった。それにしてもすごいな。一発で20匹くらいか?」

「そんなことないですよ。でも、私も二人に負けてられませんから」

「なんでもう終わったみたいに寛いでるのよーーーー」


 フランが叫びながら二匹同時にスパイダーアーミーを切り捨てる。

 残り1匹。


「大丈夫だろ」

「そういう問題じゃなーい」


 と、最後の一匹を切り捨てて俺たちのところに戻ってくる。


「お疲れ」


 ネルの差し出した水筒を手に取り、フランはがぶがぶと喉を潤していく。


「ったくもう!!あんたね、少しは私の方も援助しなさいよ」

「必要なかったじゃん」

「必要あるとかないとかそういう問題じゃないの」

「いいじゃん。強くなりたいって言ったんだからさ。それに下級っていっても50匹くらいの敵を一人でぶった切って、まだ弱いつもりなのか。言っただろ、強くなってるって」

「そ、それは、そうだけど…」

「明後日には迷宮都市に入る。そしたらもっと実感できるから」

「言っておくけどね、ダンジョンでこんな無茶させないでよね」

「はい、はい」

「ハイは一回!!」


 これはある意味フラグかな。

 朝っぱらからいい運動をさせられたわけだが、俺たちはまだ朝飯も食べていない。しかし、目の前に累々と横たわる死骸の山を見ていると食欲は失せていた。

 

「で、こいつらの魔石の回収どうする?」


 三人顔を合わせて盛大にため息を漏らした。

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