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閑話2 新兵器の成果報告

 マジックバッグから次々に新旧入り混じった書物を取り出していく。

 本棚はすでに満杯で、横向きにした本がさながらタワーのように積み上げられている。絶妙のバランスで天井付近まで積み上げられたそれを見て満足そうにソウ様がうなずいた。


「これで全部ですか?」

「はい。ご要望のあった空間魔法、次元魔法に関連するものを中心に集めてまいりました」

「ありがとうございます」


 と、私に向かって頭を下げてきた。

 ソウ様は決して偉ぶらない。

 彼の功績は計り知れず、数日前に国王陛下より爵位を与えられたばかりである。一番下の男爵位ではあるが、平民である私に向かって丁寧な物言いは必要ないというのに、彼の腰の低さは変わらなかった。

 

 少し前に彼のことを疑ってしまったことを私はひどく恥じた。

 こんなにもわが王国のためにご尽力なされているというのに。


 本をすべて出し終えたところで、魔法都市で起きた出来事について報告する。


「それから、もう一つ報告がございます。魔法都市ドニーに赴いた際に、ソウ様がお創りになられた『対物ライフル』にてワイバーンを撃破いたしました。なんと一撃だったようです。ソウ様の創る新兵器はいつも我々を驚かしてやみませんね」

「ワイバーンというのはどの程度の魔物ですか?」

「単純な戦力で言えば、上級兵を中心にまとめた2個中隊規模でなければ討伐できません。そもそも空を飛ぶ魔物ですので、上級魔導士がいなければ話にならないレベルでした。それが、魔力の扱いに長けている騎士一人の手で討伐できたのですから、これはもう奇跡といってもいいレベルです」

「はは、それは言いすぎでしょうが、十分な力を発揮できたようで安心しました」

「そうですね。ただ…」


 しまった!!

 この先はソウ様のお耳に入れる必要のないことだったのだ。


「ただ?」


 先を促すようにソウ様が私の言葉を繰り返してしまった。これでは言い逃れはできない。私はあきらめて報告のあった内容の続きを口にする。


「その、ワイバーンと同時にエレファントタートルという魔物が現れたようですが、エレファントタートルの甲羅は堅く『対物ライフル』を弾いたということでした」

「まだ威力が足りないか…」

「い、いえ、その、エレファントタートルの甲羅は非常に硬度が高いものですから、その強度ゆえに防具などに用いられるような代物でして」


 すぅっと細められる目を見て、冷や汗が流れた。


「その甲羅のサンプルはありますか?」

「え、ええ。こちらで数枚買取りしたと聞いています」

「それをこっちに回してもらっても構いませんか?もう一段階威力を高めるアイデアもあるので、試してみようと思います」

「なんと!!さらなる強化が可能なのですか!!」


 心底驚いた。

 彼には驚かせられてばかりだが、ワイバーンを一撃で屠る威力でも十分なのにその上をいくことができるとは。しかも、すでにアイデアをお持ちだという。

 彼の叡智には際限がないのだろうか?


「ところで『対物ライフル』が通じなかったということですけど、何か弱点のようなものがあるんですか?」

「エレファントタートルには残念ながらこれといった弱点はありません」

「じゃあ、どうやって甲羅を手に入れたんですか?」

「その時は近くにいた冒険者が討伐したようです」

「それはすごいですね。『対物ライフル』が通じない魔物ですよね。どうやって倒したかわかりますか?」

「え、ええ。それが正直要領を得ないのです。エレファントタートルもワイバーン同様、かなりの大型の魔物で通常ですと50以上の冒険者が集まって討伐するような魔物なのです。それをたった一人で倒したと言うんですから、しかも素手だったとか。バカげた話です」

「……そういうことはありえないんですか?」


 さすがに素手でという部分には、ソウ様も引っかかるところがあったようだ。

 実にバカげた話だ。

 報告をした人間には処分も検討しなければならない。いくら自分で目にしていないとはいえ、報告する情報を吟味できないようでは半人前もいいところだ。


「一人で討伐という点に関して、正直申し上げましてあり得ないわけではありません。冒険者にはランクというものがございまして、一番上のAランクの冒険者であれば、中にはそういったものもいるのです」

「へえ、そういう連中に魔王討伐を任せた方がいいんじゃないか?」

「もちろん、そうなのですが……連中は自由人でして、我らの要請に応じてくれたのは僅かばかりでした。エレファントタートルを討伐したという冒険者にも声をかけようとしたのですが、逃げられたそうです」

「それは残念でしたね」

「ええ、まあ。でも、正直情報の真意も確かではないので問題ありません。そんなことより、ソウ様の創る新兵器さえあれば、使い手などどうでもいいのです」

「そうとは限りませんよ」


 意外なことを口にされて驚いた。

 一般兵を上級兵にしてしまうような兵器を次々に生み出しているソウ様らしくない。


「どれだけ優れた武器でも、使いこなせなければ意味ないですから」

「それは…」


 まさか、”勇者”のことを言っているのだろうか。

 彼の勇者は聖剣に聖鎧といった我が国最高の武器を与えてもたかがアヴィごときに殺されてしまった。ソウ様の言いたいことはわかるが、死者を愚弄する必要はないだろう。

 仮にも友人なのだ。


「そう……かもしれませんね。でも、ソウ様には誰が使っても変わらぬ力を発揮できるような新兵器に期待しています。また、必要な資料があればいつでも声をかけてください。長々と研究の邪魔をしまして申し訳ありません」

「いえ、資料の方ありがとうございました」


 頭を下げて、ソウ様の研究室を後にする。


「はあ」


 廊下に出たところで大きくため息を吐いた。

 私はまたソウ様の闇を垣間見てしまったのだろうか。

 ワイバーンを一撃で屠る兵器を上回る新兵器。

 ソウ様の行きつく先が私には想像もつかない。それが正しき道であることをただ祈るだけである。

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