一撃
飛竜
大きな翼をもち、炎を吐くファンタジー世界に登場する定番のドラゴンの一種。
めちゃくちゃかっこいい。
天空を自由に飛び回り、時々街に近づいては火炎の息吹を吹き付ける。しかし、それは街を覆いつくす結界に阻まれて、炎も熱波も俺たちのところには届かない。
さすがは魔法都市ドニーの結界ということだろう。
街の人たちもワイバーンの衝撃に驚きはしたものの、結界の効果を目の当たりにしてパニックになることはなかった。都市兵の先導にしたがって、避難場所に移動を開始している。
それとは逆に都市の外に向かう者たちもいた。
冒険者である。
これは負けてはいられない。
「俺たちも行こう!」
「いやいやいや、あんたはバカか!!!」
「そ、そうですよ。ワイバーンですよ」
「いや、でもさ、あいつを討伐出来たら夢のマジックバッグに手が届くと思うんだ!」
乗り気じゃない二人を俺は引っ張るようにして町の外につながる橋を渡り始める。すでに、外に出た冒険者たちがワイバーンに向かって魔法を放っていた。ネルの使う魔法よりも大きく、数も多い氷塊を乱れ打ちしているが、大空の覇者ともいうべきワイバーンは軽々と回避する。
滑空して地面すれすれまで降りると冒険者の頭上を飛びながら火炎弾を吐き出した。魔法使いは結界を展開して防ぐ。
「ほら先越されてるじゃないか!」
「彼らに任せればいいでしょ。大体空飛ぶ敵をどうやって攻撃するのよ。……非常識大王は空飛べるなんて言わないわよね」
「…残念ながら」
轟流は技の名前に樹名を使用するように、大地に根を張る大木のイメージが根幹にある。というか、そもそも、俺の世界には空飛ぶ敵なんていなかったからな。
多少なら離れた敵を攻撃する手段はあるけど、さすがに対空の技はない。
「ネルのアイシクルランスの氷塊の上にのって飛ぶとか?」
「む、無理ですよ。大体私のアイシクルランスじゃ、あんな上空まで届きません。それに届いたとしてどうするんですか!!」
「そこは、こう、頑張る?」
「死にますって!!」
そうこうしているうちに俺たちは橋の終わり、結界の境界近くまでたどり着いていた。結界の外で戦っている冒険者は二組。さすがにワイバーンともなると戦いを挑む命知らずは少ないのだろう。
「魔法都市の防衛軍みたいなのは出てこないのかな」
「結界の守りは完ぺきなので、何もしないと思います。この森にワイバーンが住み着くともなれば別かもしれませんが」
火炎に対しても絶対的な防御力を誇っていたし、ここの結界は王都の結界同等ということらしい。ワイバーンごとき では破られる心配はないそうだ。
この森に巣を作られれば、山道を行き来するものへの影響を考えて討伐部隊が組まれるだろうってことだ。
つまり冒険者に任せるしかないらしい。
「でもさ、ワイバーンの素材なら結構高く売れるんじゃないか?」
「だから、彼らも必死なんでしょ」
といっても、攻撃は全然当たっていない。そして、一つのパーティは魔力切れとなったようで、あきらめたように結界の内側に戻ってきた。ダメージ一つ与えてないのに、疲労困憊している。
まあ、さすがにあれは厳しいか…。
ワイバーンは都市を覆う結界を憎々しく思っているようで上空をぐるぐる回っているが、冒険者の攻撃を特に気にした様子もなかった。その差は歴然。
このまま見ていることしかできないのかと思っていると、
ズドン
何かの爆発するような音から一拍遅れて、ワイバーンの頭が吹き飛んだ。
一瞬、何が起きたのかと、目の前の光景が信じられず俺は口をあんぐりと開き、間抜けな顔でその光景を見上げていた。
”何か”によって頭を吹き飛ばされたというのはわかった。
だが、その”何か”がわからないのだ。
いや、俺には思い当たるものがある。
「あのバカ、とんでもないもの創りやがったな」
「え?何か言った?」
俺のつぶやきは二人には聞き取れなかったらしい。
あれはおそらく、ソウが作った対物ライフルみたいなものだろう。もしくは大砲か?
ワイバーンに挑んでいた冒険者も突然の出来事に驚いていた。
落下したワイバーンの衝撃で、わずかに大地が揺れたような気がした。
「なに、あれ」
「新兵器ってやつだろ」
「あれが?」
「うそでしょ」
うわさに聞いていても実際に見るのとは違うのだろう。
驚愕に包まれる俺たちと冒険者。
その視界の端に、ようやく事をなした一団をとらえた。
山の端を乗り越えて王都の兵装に身を包んだ10名ほどの一団である。彼らは落下したワイバーンに向かって進んでいくと、ワイバーンが突然消えた。
マジックバッグに収納したってことか?
マジか?
すげぇ!!
空を飛んでいたから正確にはわからんが、おそらく20メートル以上の巨体だった。それすらも収納できるってことか。
欲しいな。
欲しいけど、いまはそんなことより、
「いったん、町に戻ろう」
「どうしたの?ワイバーンいなくなったし、このまま向かってもいいんじゃない」
連中に会いたくないんだよ。
いまは街道から少し逸れてるけど、すぐに戻るだろう、そしたら遭遇しかねない。俺の顔を知っている人間がいるかはわからないけど。
「ねえ、あれ、何?」
ネルが指をさしたほうでは森の木々がメキメキと音を立てて新たな道が生まれようとしていた。そして、顔を出したのはワイバーンに勝るとも劣らない巨大な亀だった。
「うそでしょ。ワイバーンに続いてエレファントタートル!?なんだって、そんなに大型の魔物ばかり出るのよ!!あんたが呼び寄せてるんじゃないでしょうね」
「そんな特殊スキルもってないわ!!」
エレファントタートルっていうとゾウガメか?地球産よりだいぶデカいな。
「あれも中級?」
「そうですけど、まさか戦うつもりですか?」
「少なくともワイバーンと違って手が届く」
「あのですね、エレファントタートルの甲羅はめちゃくちゃ『ズドンーギャン』」
ワイバーンの頭を吹き飛ばした攻撃がエレファントタートルを襲ったが、甲羅にはじかれてしまった。
「硬そうだな」
「そんなの見たらわかるわよ。攻撃が利かないってのはワイバーンよりやばいってことでしょ」
「そうですよ。あれと戦うなんて無理です。ほら、あの人たちも諦めたみたいだし」
兵隊は早々に攻撃を諦めると町に向かって歩き始めた。
一方のエレファントタートルは攻撃を受けたというにも気にせずにのっそのっそと歩いている。結界の外にいた冒険者もその光景をみて、「ありゃ無理だわ」といいながら、俺たちの横を通って街に戻っていった。
「つまり。チャンスだな」
「この状況でなんでそういう発想になるかな?」
「そうですよ。今の見てましたよね」
見てたさ。
けど、兵士もほかの冒険者も手を出さないっていうなら、チャンスだろう。
動きも見ている限り遅い。
甲羅は堅そうだが、それ以外の場所なら話は別だ。それに、肆ノ型なら装甲の厚さは問題にならないはずだ。
「少し試してみるわ」
俺は結界から飛び出しエレファントタートルに向かって駆け出した。