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 シエスが素早くネルを魔王から遠ざけ、入れ替わるように俺が魔王の間合いへと踏み込むと問答無用で連打を浴びせる。

 フランが剣に魔力を込め、エスタは弓を引き絞る。

 ネルが魔術の構成をはじめ、シエスはナイフを手に彼女の傍に張り付いた。

 ソウは拳銃を握りしめたまま、ポーション類をあおっていた。どこに魔王が移動しても射貫く気満々という表情である。ダメージを与えるのは厳しいのだろうが、一瞬でも足止めできれば俺がすぐにフォローに回れると信じているのだろう。

 その信頼を裏切るつもりはない。


 攻防を続けながら、魔王のこめかみがぴくぴくと動いていた。

 怒りを爆発させるのかと思えば、最初から一貫して憤怒の表情に彩られていた魔王の顔が徐々にゆがみが取れて穏やかになる。さらには目を閉じてまるで菩薩のような顔になった。

 次の瞬間、額に第三の目が開く。

 その目から強烈なプレッシャーが沸き起こる。

 禍々しい気があふれ出て、魔王の体を包み込む。

 

「がはっ」


 速度と膂力が先ほどとは比較にならないほど上昇し、俺の防御力を突破して打撃が突き刺さる。大地を数十メートル転がる俺に向かって追撃が襲い掛かる。

 一撃一撃が重く直撃を避けていてもダメージが蓄積されていく。

 不幸中の幸いとでもいうべきか、さっきまでの魔王であれば、俺を無視してほかのみんなを攻撃しそうなものであるが、俺を殺すことを優先しているらしい。

 この力は暴走する系統の力なのか。

 おいおい、魔王がそういう力を使うのか。


 限界突破を一段階上げる。

 魔力を消費する限界突破に、轟流奥義睦ノ型『梧』を重ね掛けする。

 筋肉が悲鳴を上げる。

 だが、魔王の動きについて行ける。


 攻撃を躱しネルたちの方へと魔王を弾き飛ばす。地面を転がる魔王へフランの斬撃が入る。スキル『雷斬』、直接のダメージはなくとも体を動かす電気信号を絶つ恐ろしい技だ。

 魔王の動きが一瞬阻害され、そこにネルの爆裂魔法とエスタの魔法矢が突き刺さる。土煙が晴れたところに第三の目を閉じた魔王が姿を現す、服が破れ体中に裂傷や魔法矢で貫かれた傷が見えるが致命傷とは言い難い。


「効かぬわ」

「言ってろ」


 俺は魔王に肉薄し、轟流奥義二ノ型『椿』を叩きこむ。わき腹に突き刺さったそれが、肋骨を突き破り内臓までダメージを与えた感触を伝えてくる。

 激しく魔王の体が転がり、消えた王都のクレーターに落ち込んだ。

 追いかけてみれば魔王の姿はない。

 また、転移か。

 ネルやほかの仲間の方を見るが、どこにもその姿はなかった。どこに現れてもいいように、なるべく彼女たちの近く居ようと移動する。

 拳を握りいつでも飛び出せるように身構えていると、四方から強烈な魔法が飛来する。

 北からは巨大な火球が、南からは氷塊、東からは雷弾、そして西から風の刃。転移と魔法を組み合わせた多重攻撃。魔王の名は伊達ではなく、あらゆる属性の攻撃が一気に襲い掛かる。

 ネルが急いで結界魔法の構築を始めるが、彼女の魔術展開速度であっても魔王の攻撃が到達する方が早い。


「シエス!!」


 四方から攻撃が来るというのなら、逃げれるのは上しかない。俺の思考をくみ取ったシエスがフランとエスタを投げ飛ばす。俺はネルとソウを投げ飛ばし上へと退避する。だが、魔王が巨大な隕石とともに上空に姿を現す。

 隕石が落下し足元では複数の魔法がぶつかり合い激しい爆発が起きる。


「シエス、俺を思い切り蹴りあげろ」


 空中でシエスの手を取り位置を入れ替える。

 地面に対して逆さまになったシエスの足の裏に立った状態で奥義を使う。


 轟流奥義参ノ型『楓』


 振り上げた掌底で隕石を砕く。

 隕石を回避し、直撃を避けたものの爆風は俺たちの体を弾き飛ばした。流石にこの状態からみんなを守ることはできないが、それぞれのステータスを信じて俺は地面に着地す――。


「がっ!」

 

 背後に現れた魔王の手刀が突き刺さる。ギリギリのところで身を捩ったが、わき腹の肉をえぐり取られる。痛みをこらえて裏拳を魔王の顔に叩きこみ距離を取った。


「くそったれが」


 左手で傷口を触るがかなり大きく肉を削られていた。血があふれるように流れてくる。白龍の剣で切り裂かれたのとは違い、手刀でつけられた傷は複雑な分痛みが激しい。


「イチロウ、こっちに」


 ネルが俺を呼び寄せ、それをサポートするようにフランとエスタが遠距離から攻撃を仕掛ける。シエスとソウも攻撃に加わる。俺はそれを横目にネルの治療を受ける。


「邪魔をするなー」


 怒りと裏腹に、顔から表情を消し去ると魔王が再び第三の目を開眼しバーサークモードに移行する。フランやエスタの攻撃をやすやすと受け止め、目の前にいたフランを蹴り飛ばす。追撃を加えようとしたところにシエスがナイフを一閃させるが、振り上げた腕は傷をつけることすら敵わず、それどころかナイフのほうがパキンとへし折られシエスはクレーターの向こうへと消えていった。ソウが銃弾を連続して浴びせ、エスタが魔力矢の雨を降らせるが魔王は攻撃を無視してソウへと肉薄する。

 銃を捨てて魔術を構成する。


「グラビティ」


 魔王の攻撃を受けながら重力魔法が発動する。

 魔王のこめかみがピクリと動く。そして手を開いたり閉じたり体を調子を確かめる。狂戦士状態といっても完全に理性が飛んでいるわけではないらしい。


「ネル」

「ごめんなさい。もう少しです」

「すまん」


 急がせても無理だというのはわかっているのだ。だが、気持ちが焦る。身体の調子を確認し終えた魔王が俺たちに狙いを定めた。重力魔法の効果は確かにかかっているようで、俺たちへと迫る動きは若干遅い。目の前へとたどり着いた瞬間を狙ってエスタの魔力矢が突き刺さる。

 身を引くも肩に魔力で出来た矢が突き刺さる。それを抜きながら、狙いを攻撃してきたエスタへと変更する。接近してくる魔王にバックステップしながらエスタが弓矢を射るが、その動きを止めることは出来ない。そしてエスタもまた魔王の重い一撃を受けて地面を転がっていく。

 攻撃を受けた仲間たちは誰一人として立ち上がらない。バーサークモードでない魔王でも恐ろしいほどの膂力を秘めているのに、それを上回る力の攻撃を受けたのだ。

 

 魔王がくるりとこちらを振り向いた。

 全速力で走り寄り魔力を込めた拳が迫ってくる。

 もはや治療の完了を待っている時間はないと、俺は魔王に向かい合う。肉はまだ再生しきっていないけども、少なくとも止血は済んでいる。


「待ってください、もう少しです」


 俺は治療を受けながらネルの前に立ち、インパクトの瞬間まで治療を受けられるように身構える。魔力を込めた拳を轟流奥義壱ノ型『柳』で受け流す。バーサークモードの魔王のスピードと膂力は桁違いだが、その動きは単調でとらえやすい。それにいまの魔王はソウが決死の覚悟で与えた重力魔法の枷がついている。

 それでももって数十秒程度だろう。

 せっかく作ってくれたこの時間を無駄にするわけにはいかない。


「終わりました」

「ありがとう。みんなを頼む」


 魔王から目を離さずネルに礼を言うと俺は飛びだした。

 暴走している今のうちに致命的なダメージを叩きこむ! さっきと同様に魔力による限界突破に奥義を重ね掛けして一気に畳みかける。視覚も強化し、脳が悲鳴を上げている。

 動きの遅くなった魔王を捉えるのは造作もなかった。

 拳が突き刺さる。

 鼻をつぶし、顎を砕き、骨を砕く。


「がはっ」


 痛みが臨界点を突破したのか、魔王が両の目を開く。それと同時に転移で大きく距離を取りつつ、俺に向かって魔力弾のようなものを飛ばしてきた。込められた力と大きさは目を見張るものだが、ただの魔力弾は怖くない。

 魔力を込めた拳で相殺し、魔王へと肉薄する。


「ちっ」


 初めて魔王の顔に焦りが浮かぶ。

 これ以上の隠し玉はないのか、接近した俺に対する魔王は同じことを繰り返した。拳と拳が乱れ飛び、重力魔法の制約を受けている分、俺の攻撃の方が数多く魔王にヒットする。

 しかし、魔法が解けるまでの数秒間という間。

 いくら打撃を重ねようと魔王に致命傷を与えるには至らない。

 スピードで凌駕していても、魔王の防御力を超え切れていないのだ。

 ダメージが小さすぎる。

 かといって大ぶりの一撃や、奥義を叩きこむ隙はもらえない。

 仲間の助力がなければ届かない。


 無事だった仲間たちがネルのもとへと集っている。ネルの魔法に、シエスの袋とソウのマジックバッグにあったヒールポーションとマジックポーションで全員の治療が始まっていた。

 無事であったことはうれしく思うが、魔王を縛る重力魔法が解ける方が早い。


「倒しても倒しても立ち上がるか。忌々しい」

「こっちのセリフだ」


 そしてついに重力魔法が解けた。

 その瞬間、魔王が加速する。さっきまで対応できた速度のはずなのに、急にスピードが上がったせいで反応が遅れる。

 魔王の攻撃が俺に突き刺さる。

 数発とはいえ喰らえば無事では済まない。

 魔王の動きに慣れたころには、せっかく回復した体は再び損耗していた。

 

 いく度目か、魔王と俺の攻防が再び拮抗し始める。

 だが、それは仲間の回復が完了するまでのこと。視界の端にみんなが武器を構えているのが見えた。その瞬間、俺は最大レベルまで限界突破を跳ね上げる。ソウにもらったマジックポーションが失われた魔力を回復させてくれていた。魔力を体中に循環させ、後先考えず肉体の限界100%の力を引きずり出す。


 轟流奥義睦ノ型『梧』


 限界を超えた速度で、魔王に数発打撃を加えて回し蹴りを叩きこむ。腹部を折り曲げた魔王がネルたちのいる方へと飛んでいく。地面すれすれを飛んでいく魔王を大きく飛び上がったシエスが真上からナイフを突き立てる。

 魔王の防御力をほんのわずかに上回り、ナイフがその身へ突き刺さる。

 地面に激突した魔王へソウが銃口を向けると、懐かしい攻撃が飛び出した。もはや魔力が尽きているのだろう。もとの世界から持ち込んだ編み込まれたワイヤーネットが魔王の体を包み込む。

 只のワイヤーネットで魔王の動きを縛ることはできない。が、その一瞬がこの戦いにおいては勝敗を左右する。

 魔王の体が燃え上がり、ワイヤーネットが消失する。

 そこへエスタの魔力矢が突き刺さる。

 彼女の全力の一撃は碧獣の体を大きく抉ったという。それと同等のエネルギーを込められた魔力矢が身を守ろうとした魔王の片腕を消し飛ばす。


 攻撃はそれで終わらない。

 ネルの魔力も残り少ないのだろう。爆発系の派手な魔法ではないが、ストーンバレッドと名付けられた岩石のミサイルが魔王へと降り注ぐ。その攻撃が魔王を叩きつけている間に、フランが剣を振りぬいた。

 スキル『雷斬』。

 反撃をしようとしていた魔王の動きが止まる。


「終わりだ」


 轟流奥義拾ノ型『槐』


 拳を魔王に叩きつける。

 正拳突きである『椿』とは違い、『槐』は拳をハンマーのように上から下に叩きつける。あまり実践向きではない攻撃。参ノ型『楓』と同様に、攻城戦などで使うために生み出された建物破壊のための奥義。だが、決まれば奥義中最大の威力を誇る。


 大地が割れた。


 魔王の頭を叩き潰し、そのまま地面に打ち込まれた打撃が大きく地面に亀裂を残す。

 局所的な地揺れにネルたちが思わず地面に手を付いた。それほどまでに大きな衝撃を与えた魔王はピクリとも動かなくなった。

 顔がつぶしたから安心しない俺は、白龍にそうしたように動かない躯に貫手を入れて魔石をえぐりだした。


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