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VSソウ2

 ステータスの差は絶対だ。

 一歩間違えば殺しかねない、とどこかで攻撃の手を緩めていたのは否めない。でも、もうそんなことは言っていられない。

 ソウはいうまでもなく強い。


『限界突破』


 濃厚な深紅の魔力が全身を覆う。

 ソウの波状攻撃は休むことなく続いていた。それでも俺の防御を突破して有効打を与えたものは少ない。そしていま限界を超えた速度を手に入れた俺はソウの背後に回り込んだ。


「悪いな」


 今の俺にはただの拳でも人を殺せるだけの力がある。だから、せめて打ち込む場所を選んだ。肩を思い切りぶち抜いた。

 攻撃は確かにソウの体を捉えたはずだった。

 しかし、気がついた時、俺は真横から顔を殴られていた。連続して攻撃が入る。それはソウの最も得意としていたトンファーによる連続攻撃。トンファー自体にも何か仕掛けがあるのか、打撃が通常よりも重い。それに疾い!!


 重力魔法で速度を低下させられているとはいえ、それに関しては限界突破で無効化している。だとしたら、単純なステータスの差がものをいうはずなのに、ソウの動きは俺に匹敵している。

 攻防は一進一退。

 俺の攻撃も当たっているけども、ソウの攻撃も同じくらい受けている。

 とはいえ防御が失敗しているわけではないので、お互いにダメージはほとんどない。


「なんで俺と真っ向から打ち合えるんだよ!!」


 俺の拳をトンファーで受け止め、もう一方のトンファーが風を巻き込みながら俺の腹部に突き刺さる。筋肉の壁を突き破りダメージは内臓まで到達する。遠心力を加味したところで、ステータス1000程度の攻撃力を超えている。

 ソウもまた限界突破を使っているのだろうかと思うが、魔力のオーラは身にまとっていない。しかし、強化した目で動きを見ていると、髪の毛が逆立っているのに気がついた。後ろで結んでいるためわかりにくかったが、下敷きで頭を擦った時と同じように風や動きとは別の方向を向いていた。


「電気か」

「……」


 碧獣と同じく電気を流して身体能力を跳ね上げさせているのだろう。俺とは別の方法での身体強化。それを生み出したのが前からなのか、碧獣の戦闘方法を聞いて取り込んだのか。そんなことはどうでもいい。ああ、やっぱりこいつはソウ何だなと思った。


「何ニヤついてやがる」


 どうやらいつの間にか笑っていたらしい。

 勇者として一般人を遥かに超えるステータス成長力がある俺に対して、一般人と同じ程度の力しかないソウ。いくら魔法に対する素養があるとはいえ、超えられない壁はある。日本にいたころ以上の明らかな差が生まれていても、俺を超えるという目標を諦めることなく努力し続けたのだろう。

 逆の立場だったらどうだろうか。

 ここまで努力をし続けられたのだろうか。


「お前はやっぱりすげえよ」


 こいつが魔王の手下かもしれないとかそんなことはどうでもよくなった。ただ、単純にソウとの殴り合いを楽しんでいた。

 拳と拳がぶつかり合い、時にソウの放つ魔法に不意を突かれる。それでも、徐々に攻守が逆転し始めていた。ソウの攻撃は確実に俺にダメージを与えている。至る所に擦過傷を生み、骨も数本折られている。それでも決定打には届いていなかった。


 ソウから一歩距離をとると、魔力の打撃を中距離から連続して放った。コートが鉄壁の防御を誇る魔道具なのだろう。顔や足などの露出した部分以外への攻撃は無視するようにソウが動く。魔力弾の弾幕を潜り抜けて、ソウが魔法を唱える。


「ダークネス」


 闇が視界を覆う。

 この期に及んで随分とちゃちな魔法に思えるが、一瞬でも視界を奪われるのは状況を見失いかねない。日本にいたときにソウが使った傘での煙幕を思い出す。あの時と同じなら、煙幕を利用しての四方からの攻撃と何らかの布石。


「しゃらくせぇ」


 気合で闇を消し飛ばし、ソウの姿を探す。何かを仕掛けるのがソウの得意とするところなら、それを真っ向から叩き潰すの俺の役目。頭脳戦をしたところで勝てるはずもない。

 案の定、ソウの姿は360度、空も含めてどこにもいなかった。だが、


『零式』


 魔力を感知できる俺から逃げきれると思うなよ。

 足元から漂う気配を頼りに、地面を思い切り殴りつける。大地が陥没し、土砂が爆散する。しかし、いるはずのソウはどこにもいない。魔力の気配すらもダミーを用意したというのだろうか、考えるのもつかの間、背後で膨らむ魔力の気配。

 慌てて振り向いた俺の目に飛び込んできたのは思わず見とれそうになるほどきれいな魔導回路。


「くたばれ」


 どこにこれだけの力を残していたのか魔力が爆発し魔法が発動する。物理的な攻撃なら、どれだけ破壊力を秘めても俺が弾くと思ったのだろう。ソウが放ったのは雷撃だった。いくら視力を強化しようとも、光より早く動けるはずもない。

 雷は生き物である以上、防ぎようはない。

 その考えは正しい。だが、


「甘ぇ」


 俺は雷に向かってナイフを投げつけていた。魔法で放った雷であっても雷である以上、金属に吸い寄せられる。その性質は揺るがない。ソウが自分自身に雷を流して身体強化した時点で思ったのだ。雷の魔法を内側に向かって使えるのなら、外にも出せるだろうと。

 そしてやるというのなら闇という目隠しをした後が最適だと考えた。

 通常の戦闘で武器を使用することのない俺だが、魔物解体用のナイフ程度なら所持している。いくら光の速度の攻撃でも、来るとわかっていれば話が違ってくる。


 だが、雷の攻撃をすべて無効化するには至らない。雷撃を受けたナイフがはじけ飛んだ。避雷針とは違い地面に雷を流しきれたわけではない。それゆえ、雷の余波が俺を襲い体がしびれる。

 その瞬間を狙ってソウが大砲を引き金を引いた。

 砲丸サイズの弾がまっすぐ俺に向かって伸びてくる。

 雷と違ってその動きははっきりと視認できた。痺れが切れたのと、弾が俺の胸を打つのはほとんど同時。だが、わずかにだけど自由になるほうが早かった。轟流奥義玖ノ型『榧』、ワイバーンの噛撃すら弾く鋼の肉体は弾丸を弾いた。 


「惜しかったな」


 俺の拳がソウの頬を捉え、体が宙を舞った。

 

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