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VSソウ1

「で、お前の言うことが確かなら魔王はまだ生きてるんだろ。俺なんかに下窩ずらっていていいのか?」

「いいわけねぇな。だけど、お前をこのままにしとくわけにもいかない」

「イチロウ」


 ソウに向かって構えをとる俺にネルが声を掛ける。

 一触即発という雰囲気に、ほかの仲間たちも自然と距離を取った。


「何してるのよ」

「お兄ちゃん、どうしたですか?」

「本気か」

「とりあえずお前を拘束する。違和感はあるけど、俺だってお前が本当に裏切ったとは思えない」

「お前……俺が死んだと思って泣いたのが恥ずかしいからって、どういうごまかし方だよ」

「ちげぇよバカ」


 顔が上気するのがわかった。

 こういう冗談を言うのはまさにソウらしい。だけど、だからといって疑いが晴れたわけじゃない。


「ちょっと、二人とも」


 フランの制止の声を振り切って、俺はソウに向かって踏み込んだ。ソウはレベルが32といっていた。ステータスが一般的なそれなら1000前後。全力で拳を叩きこめば殺しかねないので当然手加減はする。

 だが、手加減した分、速度と威力の弱まったそれをソウは難なく躱すと魔法を詠唱する。


「グラヴィティ」


 ネルの魔導回路の構成よりもはるかに速いそれは構築を始めたと認識したときには発動に至る。どんな魔法かもわからず、とにかく距離を取ろうとしたが飛びのく体が異常なほど重く移動出来た距離は短く、そこはまだソウの間合いの中だった。


「何を」


 俺のつぶやきを冷たい目で見つめ、ソウの右手には見慣れた銃が握られていた。引き金が引き絞られ、銃弾が飛び出る。高速で向かってくるそれを俺の目は確かに捉えていた。

 だが、反応が遅れ鉄球が腹部に深々と突き刺さる。


「くっ」


 うめき声をあげる俺に追撃をしようとするソウの前に両手を広げたネルが立ちはだかった。


「ソウさん、やめてください」

「ネルさん、止めるってことは、俺が魔王の手下とは思ってないってことだよな。それはうれしく思う。けど、引けない」

「イチロウ」


 ソウが止めれないと思ったネルがこちらを振り返る。だが、俺も止まらない。


「悪い。下がっててくれ」

「なんでです。ソウさんが敵なはずないじゃないですか」

「かもしれない。でも、いまそれは確かめようがないんだ。ソウとの付き合いの浅いネルにはわからないと思う。俺の感じてる違和感は」


 しゃべるだけでも、口を動かすだけでも必要以上の力を要した。

 ソウを相手に油断をしたことは一度もない。でも、手加減をすべきじゃなかった。あまりに早すぎて魔導回路を読めなかったが、早い話が俺の動きを阻害する魔法、あるいは俺の自重を増やしたのだろう。白龍戦でネルが掛けてくれた魔法と対を成すようなものだ。二人で一緒に開発した魔法だと考えると腹が立ってくる。


「再開しようか」

「頭を冷やしてやるつもりだったけど気が変わった。今日なら勝てる。そう思えてきた」

「毎度毎度同じような口をきいて結局俺が勝ってるはずだが」

「それは試合ってから言えよ」


 俺とソウの間に入ったネルが邪魔にならない位置へと移動する。その動きにソウも併せてきた。

 先手はソウ。中距離からの銃による攻撃。

 道場との違いはゴム弾ではなく、殺傷能力のある鉄の弾だということ。それに、そもそも銃もまた魔力を使用して発動する魔道具だということだろう。

 高速で飛来する弾丸を、徐々に慣れてきた体を無理やり酷使して躱す。

 体重が増えた分、ステータスの差が埋まったのかもしれない。つまりこれで対等になったのだろう。銃弾の嵐を掻い潜りながらソウの懐に飛び込むと、銃を持つ手首を跳ね上げ胴体に打撃を叩きこむ。


「くっ」


 まるで分厚い鉄の塊を殴ったような感触が拳に帰ってくる。予想外の事態に一度距離を取った。そこへ銃弾が連続して襲ってくる。それらを躱しながら何が起きたのか考える。

 ソウの着ているコートは、日本にいたころは無意味に鎖帷子のようなワイヤーが編み込んであった。ほかに、外革にも特殊な加工を施していて耐炎加工となっている。そのせいで異常な重さになっていたのだけども少なくとも殴れない代物ではなかった。


 俺が手を出せないのをいいことにソウの攻撃が苛烈を極めた。

 銃弾はあくまでも牽制。ソウの狙いは別にあったのだろう。そもそも、この世界におけるソウはただのアームマスターというわけではない。魔法使いという側面もある。否、魔法使いこそがソウの本来のあり方かもしれない。

 銃弾を浴びせながら空中に浮かび上がる魔導回路を見ても俺には何を仕掛けようとしているのかがまるでわからない。だが、黙って食らうわけにもいかず、構築の邪魔をしようとタイミングを見つつ攻撃を仕掛けるが、何度やっても鉄壁の守りに弾かれてしまった。

 その感触は結界を殴った時のそれに似ていいると遅まきながらに気が付いた。

 だとしたら、結界をすり抜ける手はある。魔力の栓を閉じてしまえばいい。だが、それは諸刃の剣。どうすべきか、悩んでいる間にソウの魔導回路が完成した。


「鉄槌」


 物理的な何かが襲い掛かってきたわけではない。動きを阻害している重力とは別の力が真上から叩きこまれた。おそらくはただの空気。だが、圧縮された空気の壁が桁違いの力で叩きつけられれば、それはもう巨大なハンマーで殴られているのと何ら変わりはない。

 素早さと俺の回避力を考慮した広範囲の魔術に俺は地面に叩きつけられた。


「やっぱりお前なのか?」


 南門の前には何かに押しつぶされたかのような兵たちの死体が残っていた。この攻撃ならそれが可能かもしれない。重力の負荷が増して運動能力が低下したとはいえ、ステータスが下がったわけではないにもかかわらず、俺の防御力をやすやすと超えてダメージが入った。

 筋肉を押しつぶし、骨がミシリッと鳴った。


「がぁっ」


 攻撃は一瞬。地面から素早く起き上がったところで、銃口が火を吹いた。いつの間にか握られていたのは軽機関銃のようなもの。連続して射出される小さな銃弾に全身が打ち抜かれる。

 一発一発は大したことがなくても、積み重なれば大きなダメージとなる。

 皮膚が割け、血が至る所から吹いた。

 物理的な弾が込められていたおかげで、攻撃は数秒間続いて収束する。俺の動きを縛り付けている間にソウは別の魔術を展開していた。


「舐めるな」


 全身に魔力を循環させて限界突破を発動する。重力魔法はいまだに解けていないが、限界突破したおかげで、通常レベルの動きができるようになった。ソウの側面に回り込み拳を叩きこむ。拳そのものは結界に弾かれるが、結界ごとソウの体を吹き飛ばした。数メートル転がり立ち上がろうとしたところに追撃を掛けようとする。


「ディスペル」


 攻撃を受ける瞬間、ソウが呪文唱えた。さっきの魔導回路はすでに霧散していたはずである。しかし、地面が光り輝くと俺の拳は空を切った。

 何が起きたのか、それを考えるまでもなくわき腹に強力な衝撃が入った。弾き飛ばされながら肋骨にひびが入ったのがわかった。

 攻撃の手は緩まない。

 俺が態勢を整えようとしたときには、再びソウの魔術が俺の体を縛る。


「グラヴィティ」


 その呪文を聞き、何が起こったのかは理解した。ディスペルが発動した瞬間、魔力が霧散したのだ。俺に掛けられていた重力魔法を消しただけではなく、限界突破に回していた魔力そのものを霧散させたということだろう。体内を巡る魔力にすら妨害するとは恐れ入る。

 体を襲う重圧と、無理やり跳ね上げた身体能力が突然消え身体感覚が狂ったことで攻撃がうまく当たらなかったのだ。そして逆に攻撃を喰らった。その直後、消えたデバフ効果を戻すために重力魔法を掛けてきたのだ。


 俺との戦闘を何度もシミュレーションして練り上げてきたのか、ソウの動きは流れるようで付け入るスキが見つからない。これだけ魔法を連発すれば、ソウの魔力はいつ底をついてもおかしくないと思う。しかし、それを待つのはソウに対して失礼だろう。もっとも、そんな愚を犯すとも思えないが。

 全力で挑んでくるのなら、全力で叩きのめすのみ。


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