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決戦3

 紫電が走り、碧獣の体に刺さった魔力矢が掻き消える。瓦礫の上に着地すると怒号を上げた。ダメージそのものは大きくないのだろうが、それよりもフラン、シエス、エスタにいいように弄ばれたことが許せないのだ。仮にも三王の一人として、多くの魔物を従える立場にあるのだ。

 ただの人族とエルフ、さらには戦闘能力のない袋ウサギに追い詰められている。その事実を飲み込むのに、一度冷静になる必要があった。距離を取り安全を確保したうえで上からフランたちをにらみつけた。


 しかし、冷静になる必要があるのはフランたちも同じだった。

 最高のタイミング、最大出力での攻撃だった。それが通じないとなるとフランたちにできることは少ない。王都丸ごと消滅させるソウの計画に乗るしかなくなるのだ。もはや壊滅状態といえる王都であるけども、完全消滅となると話が違う。思い出も記憶も、そして魔物に殺された人々の死体すら消えてしまうことになるのだ。それは避けたいと思う。


「エスタ、さっきのが限界?」

「あれでもワイバーンなら殺せたんだけどね。時間を掛けさせてもらえれば、もっと魔力を練ることはできるわ。でも、それまで誰も近づけさせないでくれるかしら」

「そう。なら、もうワンチャンスあるってことね。シエスはまだ大丈夫」

「ハイです」

「よし、やるわよ」


 フランたちが心を一つにするのと、碧獣が動き出すのはほぼ同時だった。

 碧獣が紫電のブレスを吐きだした。雷を斬れるフランでも、碧獣の動きについてこれるシエスでもなくエスタに向けて。フランたちの話を聞いていたのか、攻撃の要になるだろうエスタである。ただの雷とは違って、光の速度ではないとはいえ、エスタにそれを防ぐ術はない。

 シエスが一瞬早くエスタのところに移動すると、体をつかんでブレスの範囲外へと退避する。ぎりぎりのところでブレスは躱されるが、碧獣の攻撃はそれで終わらない。態勢悪く転がるようにブレスから逃れた二人に鋭いかぎづめが振るわれる。

 

 だが、戦っているのは碧獣とフランたち三人だけではない。存在感は少なくとも騎士たちもまたこの場にはいたのだ。槍が鋭く二者の間に突き刺さる。直接の攻撃が体の周りを覆う雷に弾かれても、かぎづめの振り下ろされる先に槍があれば、ほんのわずかに腕を振り下ろす速度を遅延させる。


 それだけの時間があれば、シエスとエスタが態勢を整えるのには十分、二人は碧獣から距離をとった。

 追撃を加えようとした碧獣へは、フランが牽制をする。真後ろからの斬撃、フランの剣を恐れる碧獣は大きく飛びのいた。

 避けられることを見越したフランは斬撃に『雷斬』の力は込めていない。乱発できるほどの魔力量はない。それでもいつ使うかわからなければ、碧獣にとってすべての斬撃を避ける以外にない。

 碧獣が吼えた。

 体を覆う雷がひときわ大きく力強くなった。

 否、碧獣を中心に稲妻が周囲に迸る。無作為に走った一本の雷が兵士の一人を直撃する。一瞬のことで誰も何もできなかった。近づくどころか距離を取っていてさえも危険を感じるほどのエネルギーを暴れさせる碧獣に向かってフランは『雷斬』を叩きつける。

 フランの放った斬撃は確かに碧獣の雷を切り裂いた。

 だが、削ったのはほんのわずかな表面を走る雷のみ。もはや雷の塊となった碧獣を覆うすべてを切り裂くには足りない。

 また一人、碧獣から飛び出した稲妻に弾かれた。

 攻撃は特定の誰かを狙っているわけではない。その証拠に誰もいない場所にも幾度となく雷は落ちている。積極的に攻撃をしないことから、この攻撃の最中は動けないのだろうと思うが、だからといって出来ることはない。


「引くしかなさそうだけど、素直に行かせてくれるのかしら」


 碧獣の動きを睨みつけながらエスタがつぶやく。ただの雷が相手となれば、素早さ特化のシエスも、雷斬が使えるフランもどうにもできない。ただ、雷が自分を襲わないことを祈るくらいである。人が光の速度に対応できるはずがない。


「引こう」


 エスタのつぶやきにフランが応じて、碧獣と戦っていた彼女たちが後退を始めた。しかし、次の瞬間、碧獣から飛び出た稲妻がエスタを襲った。とっさに動いたシエスが絶縁体の手袋で雷に干渉する。しかし、一歩及ばずエスタの体を雷が貫いた。


―――――――――――――――――


 パキッと足元が音を立てた。

 白龍の死骸から魔石を抜き取ろうと一歩近づいたところだった。ふいに足元を見れば、靴と地面が凍結してくっついていた。白龍との戦闘中、幾度となく見られた光景だがいまはもう新たに凍結のブレスは吐かれていない。


「ネル!!」


 彼女の手を取り、その場から大きく飛びのいた。

 俺たちを追跡するようにつららが伸びてくる。着地と同時に地面からも無数のつららが襲ってくるが、ネルを庇いつつ破壊する。

 白龍の死骸に目を向ければ、胴体部分から中身が消えていた。

 まるで脱皮した後の用に薄皮のみの皮が残されて、風にあおられてひらひらとしていた。


「どうします?」

「結界を張ってくれ」

「はい」


 白龍の姿はいまだに見えない。吹雪が強くなり視界を徐々に覆い隠してくる。ククリ山脈での戦いを彷彿させるフィールド。あそこでの戦闘経験がなければ、これだけでもかなり不利な状況だと言える。だが、慣れているのだ。

 真っ白な視界の中、白い龍が天空を泳いでいた。

 脱皮をした成果、さっきよりも姿は小さくなっているが見た目には傷一つついていなかった。だが、地面に流れた血液は本物だろう。ヴァンパイアロードは心臓を一つ潰していもまだ生きていた。それを思えば、さらなる上の存在である魔王がもっとタフであってもおかしくはないと思う。


 凪が起こる。

 考えて事をしている間にネルの結界が完成したらしい。

 そこに凍結のブレスが直接叩きこまれる。しかし、ネルの張った結界にそれは阻まれる。王都の結界を破壊したのが魔王であるのなら、どれだけ持つかはわからない。だが、俺はネルが結界を持たせている間にやれることをやる。


「ネル。祈りをささげている間、守ってくれ」

「任せてください」


『武神の加護』

 魔王と戦うのに出し惜しみは必要ない。

 さすがに一対一では祈りをささげる時間はなかったが、さっきの攻撃で倒せなかったのならもっと出力を上げるしかないだろう。

 拳を打ち合わせて、武神への祈りの言葉を口にする。


『武は力なり、武は勇なり、武は守なり、武は全なり、武は一なり、武は道なり、武は答なり』


 横目に見ていると、ネルが大量の魔力を消費していっているのがわかる。魔王の放つブレスは当然のことながら高威力で結界に魔力を流し込み続けなければ維持ができない。


 なるべく早く祈りを終わらせなければと思いながら続ける。


『我は誓う この力は守るため

 我は誓う この力は倒すため

 我は誓う この力は終わらせるため』

 

 再び拳を二度打ち鳴らし、拳を合わせたまま黙とうする。

 いつもなら、力が湧き上がってくるはずなのに、なにも感じられない。それを不思議に思いながらも残りの文言に祈りを込める。


『我が拳は岩を砕き

 我が爪は鉄を切り裂き

 我が足は大地を揺らす。

 我が肉体はあらゆる攻撃をはじき返す。

 我、武神の僕として目の前の敵を打倒し、その肉を、その血を、その骨を、捧げ奉る――』

 

 祈りの言葉は完成するが、何も起こらない。いつも体を覆う白銀のオーラが出てこない。


「なんで」


 神が祈りに応えてくれなかった。

 そんな馬鹿なと愕然とする。魔王と戦うために与えられたはずの『武神の加護』それが魔王を前に働かない。そんな不条理があるのだろうか。

 だが、考える間もなくネルの結界が破られ氷塊が降り注ぐ。

 

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