にゃんにゃん大魔王、碧天に堕つ⑦
にゃんにゃん大魔王は何かに導かれるようにして、村の中央にある丘のてっぺんへと登っていきました。かつてにゃんにゃん大魔王が生まれ、そして、前の王様によって荒れ地へとされてしまった村を見渡し、それから空を見上げました。その日の空は高く、澄んでいて、まるで宙に浮かぶ湖のようでした。吸い込まれそうなほどに青く透き通った空を見ていると、にゃんにゃん大魔王はかつての栄光も、悲しい出来事もすべてを忘れ、自分がただこの世界に生きている猫のうちの、ただの一匹に過ぎないということを思い知らされました。
あの美しい空の中に溶け込むことができれば、きっと今のような悲しい気持ちも水に落としたインクのように消えてなくなってくれるかもしれない。にゃんにゃん大魔王に未練とか恐怖はありませんでした。ただにゃんにゃん大魔王が望んでいたのは、栄光よりも、悲劇よりも、ただただあの空のように澄み渡った静寂でした。なぜならにゃんにゃん大魔王はその短い人生の中で、あまりにもたくさんの喜びと悲しみを経験してしまっていたからです。にゃんにゃん大魔王は空に向かって右手を伸ばし、それから左手を伸ばしました。少しだけ右足を宙に浮かせ、目をつぶります。そして、それからえいやっと左足も地面から離し、青い青い空へと飛び込んでいきました。
そうしてにゃんにゃん大魔王はゆっくりとゆっくりと、澄んだ青空へと落っこちていきました。
にゃんにゃん大魔王が流した涙は雫となり、にゃんにゃん王国に三日三晩雨となって降り注ぎました。雨が上がった後には、青空いっぱいに大きな虹がかかり、その虹の足元には、にゃんにゃん大魔王が愛した王妃の大好きだったクチナシの花が咲いていたそうです。
にゃんにゃん大魔王は国民のみんなから愛されていたわけでもないし、沢山駄目なところもありました。それでも、王国の外れに建てられたにゃんにゃん大魔王と王妃のお墓には、今でもクチナシの花が絶えず捧げられています。
それはきっと、国民の中にも少しだけ、にゃんにゃん大魔王が少しだけ他の猫よりも不器用だっただけで、心根の部分では国民想いの優しい王様だったということを知っている猫がいることを証明しているのかもしれません。