にゃんにゃん大魔王、碧天に堕つ⑥
王妃が亡くなってからというもの、にゃんにゃん大魔王は毎日を泣いて過ごしました。もちろん、彼に国の政治を行う余裕なんてありませんでしたし、そもそも国民の信は底に落ちてしまっていました。
やがてにゃんにゃん大魔王を抜きにした会議が開かれ、多数決でにゃんにゃん大魔王の王位を剥奪することが決定されました。王政という政治形態を止め、国民一人ひとりが政治に参画する、民主主義政治というものへ移行することになったのです。
会議に参加した数匹の幹部による陳情により、にゃんにゃん大魔王へは王国の片隅でひっそりと余生を暮らせるだけの恩給が支給されることが決まりした。この決定も議会では長く長く議論され、反対する猫もたくさんいました。これはにゃんにゃん大魔王を慕っていた猫たちによる精一杯の恩返しでもありました。彼らはにゃんにゃん大魔王が可愛そうだと心の底から思っていたからです。
それでもにゃんにゃん大魔王は自分が王様という地位を剥奪され、そして国民のみんなから嫌われてしまっていることにひどくショックを受けました。王妃を失った悲しみにこの悲しみが加わり、その時の心の痛みはどれほどのものだったでしょう。にゃんにゃん大魔王は手で持てるだけの荷物を持ち、みんなが寝静まった夜中に、ひっそりと一人で王宮を出ていきました。国民の中にはにゃんにゃん大魔王を許せないと怒りにかられ、にゃんにゃん大魔王を懲らしめてやろうとする怖い猫たちも当時は沢山いたからです。
にゃんにゃん大魔王はフードを目深に被り、誰にも顔を見られないようにと顔をうつむかせ、ひとりぼっちで黙々とあるき続けました。行くあてなどもちろんありません。それでも、にゃんにゃん大魔王は歩き続けました。食べ物も食べず、飲み物も飲まず、ただただ歩き続けました。歩いている間、にゃんにゃん大魔王の頭の中は充実した日々の思い出が走馬灯のように駆け巡っていきました。思い出の中のにゃんにゃん大魔王は、沢山の仲間に囲まれ、そして、隣にはいつも愛する王妃の姿がありました。ひどく辛い状況に置かれてはいましたが、思い出を思い出している間だけは、にゃんにゃん大魔王は幸せだったのです。
歩いて歩いて歩き続けて、にゃんにゃん大魔王はいつしか、ある場所にたどり着きました。空っぽの家と小高い丘があるだけのわびしい土地。しばらくその周りを歩きながら、ようやくにゃんにゃん大魔王は思い出しました。そこはまさに、にゃんにゃん大魔王が生まれた村の跡だったのです。