にゃんにゃん大魔王、碧天に堕つ⑤
王妃が不治の病気にかかってから三年後のある夜。王妃は世話役の監視の目を盗み、窓から飛び降りて死んでしまいました。なぜ目を離したのか。そう問い詰められた世話役の猫はこう答えました。その夜、目を覚ました王妃が、そばにいた自分の方を見つめ、病気にかかる前と同じようなとても優しげな表情を浮かべながら、いつもありがとうとお礼を言ったのです。それから少しだけ世間話をした後で、のどが渇いたから飲み物を持ってきて頂戴と頼まれ、それで一瞬だけ王妃を一人残して部屋を出たんです、と。しかし、王妃の病気はもう末期の状態に入っていて、一瞬たりとも正気を取り戻すようなことはありえないと医者は言いましたし、何より、その世話役はいつも嘘ばっかりついている猫でもありました。世話役の言う通り、最後の最後に王妃は正気を取り戻したのか、それは誰にもわかりません。王妃が窓から飛び降りた理由についても、本当の本当に気が触れてしまったからなのか、それとも一時的に正気を取り戻したからなのか、誰にもわかりません。にゃんにゃん大魔王にも、誰にも。
このお話を聞くと、にゃんにゃん大魔王がすごく可哀想で、王妃の治療をやめるように進言した仲間たちが冷たい猫たちのように思えるかもしれません。しかし、それは間違いです。彼らはみな、にゃんにゃん大魔王ほどではありませんが、明るくて気立ての良い王妃のことが大好きでした。だからこそ、にゃんにゃん大魔王の悲しみも、何とか助けてあげたいというその気持も痛いほどわかっていました。それでも彼らはにゃんにゃん大魔王のため、そして国民のため、心を鬼にして治療をやめるように説得しました。にゃんにゃん大魔王がそれを拒んでも、彼らは何度も何度も、何度も何度も説得を試みたのです。彼らは王妃のことだけでなく、にゃんにゃん大魔王のことも大好きだったからです。
しかし、彼らの説得はにゃんにゃん大魔王に届くことはありませんでした。にゃんにゃん大魔王はもちろんですが、彼らを責めることもできません。みんな優しくて、みんな一生懸命でした。この一連の出来事が、みんなを不幸にしてやろうと意気込む意地悪な猫の仕業であったなら、どれほど気持ちが楽になったことでしょう。