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第六話 ロシア編前日談/そして、世界はまた辿る


 ヒュォォォ……


 その光景はただ白かった。

 雪が空から投げつけられ、冷たい音と共に温室の暖かさを奪っていく。


 バタン!

 「……」


 そんな光景に絶句し、一旦寒いのでドアを閉め、問う。


 「なんで何もしてない中ボスの五歳児がロシアに一人で行かなきゃならねぇんだよぉぉ!?」


☆☆☆☆


 前に、ロシアに行くことになったと最後の方にサラッと話したと思う。

 そうそう、ロシア。

 この世界は、私の前世の世界と国名と地形は一緒なのだ。だから、当然ロシアは寒い。それ故、私が先程待合室のドアを開けたとき冷気が部屋を支配し、手が悴んでいるのである。待合室というわけで、当然私は人を待っているのだが、まぁ、それはひとまず置いといて。


 私がこの国に来る前の、前日談をさせて貰おう。


 異能力調査後、叔母は頗る不機嫌だった。叔母や空城達は鬼目堂家の本邸、私は本邸に少し離れた別邸に住んでいるのだが、1日に2回くらい叔母の怒声が聞こえて来るほどだ。いつもは、2日に1回なのに。

 理由は単純、私に異能力があったからだ。

 前にも言ったかもしれないが、この世界は異能力者主義。ただ、その異能も千差万別、狂偽のように魔法を使えたり、古井戸さんのように軽いサイコキネシスだったり、あるいは触れた人を本人の意思無しに化け物に変えてしまったりだなんて危険なものもある。異能力の中でも、危険なもの安全なもの、必要とされるもの別に無くてもかまわないものがあるというわけだ。

 鬼目堂家(うち)のような異能力者を多く輩出する名家の跡継ぎ決めは、異能力がより強力な方を跡継ぎに選ぶ。そこに性別は関係なく、女当主の場合は婿養子がいれば良いだけというだけの話だ。


 異能力の発現は大体3歳から12歳で、私と空城はまだ発現していないのだが。

 ぶっちゃけ前世の知識上言うと、狂偽の異能の方が有能だ。私の魔法は火力も安定していて、体力も減らず軽く100発くらいは撃てる。それに比べ、空城の異能は血が必要不可欠、しかも飲んだ人の血の質によって効果の強さが決まってしまう。因みに、主人公ちゃんの血の質は頗る良いらしく覚醒して滅茶苦茶強くなる。

 

 あぁ、話がそれたね。

 まぁ、言うと、現時点では私が鬼目堂家の当主になるかもしれないって訳だ。うん、嬉しくないよね。

 

 それで、自分の息子をどうしても当主にしたい叔母は私をロシアに飛ばしたと。


☆☆☆☆


 まぁ、それもあるのだけれどね。


 それよりも、そんなことよりも、私にも叔母にもとっても大事件が起きた。

 

 唐突に、平然と、あの人は来た。

 異能力調査から2年後。つまりは私が4歳3か月の時だった。


 母が来たのだ。


 精神科で療養を受けていた母は退院をし、この家に帰ってきた。私は珍しく困ったように泣きそうに笑う古井戸さんに疑問を抱きながらも母を迎えに行った。

 

 もはや見慣れてしまった高級車から出て来た、見慣れぬ存在。母と呼ぶには、あまりに記憶が乏しすぎる存在。 


 異質すぎるその親子関係故、私は母の髪の色さえ覚えていなかった。自分の母は一体どういう目をしているのだろうか。私は母のどこに似ているのだろうか? それが今、分かる。そんな、期待を込めて()()()()瞬間。

 

 Aラインセミロングの白髪を艶麗と靡かせ、しかしながら、華やかな見た目とは裏腹にその色素の薄い淡藤色の瞳は哀愁を漂わせ彼女をより神秘的に仕上げた。一児の母の顔じゃねぇ。とか、そんな感じで少し驚いたが軽くも捉えていた私はものの数分後に消え去った。


 母は車から出て、立ち止まり私を見た。そして、嘆息と共に出て来た言葉は。


 「汚い」


 たったの一言だった。

 けれども、私が丁寧に築き上げてきたものを一瞬で壊してしまえるほどその言葉は強かった。


☆☆☆☆


 「本当に汚ならしいこと」


 母を貶す、祖母。


 「すみません……! 本当にすみません」


 そう何度も背中を丸め、謝る母。


 「……」


 見て見ぬ振りをする、父。


 「お母さん……?」


 そして、そんな母の背中を見ながらも何も知らず、何も分からない、無垢で無知な一番汚い自分。


☆☆☆☆


 「……様っ! 狂偽お嬢様っ!!」

 

 「……ぇ、あっ!! 古、井戸さん……」

 「大丈夫ですか? 那偽おじょ……、いえ、狂偽様のお母様については私がキチンと後日おはなしをします。それまでは休んでいて下さい」


 そう言うと、古井戸さんは私の頭を一度優しく撫で、静かに部屋から出て行った。

 部屋。

 あぁ、私は気絶したのか。

 『汚い』。アレを言ったときの彼女の表情が前世の母と重なった。あれはいつ頃だっただろうか。精神が壊れてから、母は祖母に言われていたことを今度は私に言っていた。

 汚い、汚い、汚い。と、それは呪文のように繰り返された。そんな言葉がキーワードとなってフラッシュバックしたんだろう。前世の話を客観的に見れば、随分と嫌味な話だ。娘を守ろうと姑の言動に耐えていた母の精神が病み、今度は娘にその矛先を向けるだなんて。


 私は一体、何に期待をしていたのだろうか。

 叔母達は私に冷たかったが、古井戸さんは優しくしてくれている。そんな現状に甘え、母もきっとどうとでもなると思っていた。

 変わらない。否、変われない。

 前世で私が母に依存していたように、今の私は古井戸さんに依存していると思う。


 「はぁ……」


 寝てなにか変わるわけでもないが、何故かそのときは眠ったら全てが巻き戻せる気がした。もちろんそんな事も無く、次の日、私に待っていたのは古井戸さんからの母の昔の話とロシアに行けという厄介払いだけだったのだが。


☆☆☆☆


 殴りつけられるようにふった雪がフロントガラスから見える世界を阻害している。本当は愛車をこんなに日に走らせたくわないんだ。なのに、ったくこのバカは一体なんなんだ……!

 考えれば考える程、沸いてくる怒りにまかせ、しょうもないことだったら殺すと殺意を向けた視線を奴に向けた。はぁ、ほんとうにこいつは良くない成長を遂げてしまった。

 バックミラーに映る奴は窓の外の景色を見ながら、その無駄に整った顔をニヤつかせている。それほど、儲けのある仕事なんだろうか?


 「なぁ」

 「ん?」

 「急に呼び出し、空港まで走れだなんて、お前の横暴な言動に応えてやったのだが今回はそれにキチンと見合う仕事なんだろうな?」

 「……、まぁ、支払いは良いかな」

 「今回はどういう仕事だ? 殺し? 運びか? それとも……」

 「ベビーシッターだ」

 「は?」

 「日本の異能名家、鬼目堂家のお嬢様のベビーシッター。それが、これからの俺の仕事」


☆☆☆☆


 ポップコーンを貪り、音を立ててジュースを飲む。酷く下品な男。彼は今、映画を見ているのだ。人の人生という何ともくだらない駄作を。


 「う~ん、今んところはいつも通りだね? まぁ、でも期待外れではないと思うんだよな、この子は」


 残念そうな声色から想像が出来ないほど、男はニコニコしている。まるで、無邪気に蟻を潰す子供のようだ。


 「トレイド様、また壊れるまで見るつもりですか?」

 「うん、そうだよ。だって、君がそう望んだんじゃないか? 鬼目堂 狂偽(・・・ ・・)ちゃん?」


 あぁ、世界は、あの子は、またあの子達のように壊れていく。壊していく。 

 用意されたレールには崩壊しかないのにただ、進んでいく、辿っていく。






さて、次回から新章突入です。

狂偽の絶望、二人の男の会話、トレイドと鬼目堂 狂偽と名乗る少女の不穏な会話。などなど、後半は伏線を張ってみました! イェイ! 

すみません、なんか今私無駄にテンションが高いです。


沢山ある、小説からこれを選んでくれてほんとうにありがとうございます。

ブクマを付けてくださっている方、


好きです。


すいません。テンションが本当に大変なことになっているので、また今度、お会いできる時を待っております!

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