第二話 転生したら悲惨すぎる中ボスだった件について……2/2
「はぁぁぁぁああ!?」
トレイド、なんでよりによって鬼目堂 狂偽なの!?
ヤバすぎる。いや、ほんとに。
あの神、こっちがどんだけ労働したと思ってんだ。
転生先がまさかの鬼目堂 狂偽とか。
ていうか、名前強すぎるでしょ。狂うに偽るとかどういうことだよ。お母様、何を思ってこの名前付けたの!?
いや、何でこんなテンパってんのって思うじゃん?
狂偽悲惨すぎるの訳よ。
なんでこのキャラがそんなヤバいのかって言う理由を伝えるために、まずまず前提となるこのゲームについて語ると――
――【月華少女と剣の誓い~黎明にて貴女と笑う~】
小説化、アニメ化し、はたまた映画化までした超人気作。サブタイトルのクソダサネーミングセンスのわりに、随分と売れた乙女ゲームである。
ジャンルは、パズル形式で戦闘をしたり、攻略対象と愛を育んだり、謎解きをしたりとかなり雑多であるが、多種多様なキャラや豪華声優陣、スチルの美麗さが評価されその人気を勝ち取った。
舞台は日本と酷似した、異能力者という不思議な力を持った人間がいる世界。
シナリオをザッと言うと、異能を持たない主人公、藍染 月華(デフォルト名)はある理由から異能を持ち、且つ名家出身の者しか入学を許されないとんでもエリート高校、帷境高校に入学する。そのある理由というのが、彼女には国の機密機関に所属する叔父がいるのだが、その叔父によると帷境高校にはとあるテロ組織の構成員がいて、その構成員の正体を内部から探してほしいと言う。
こうして主人公は攻略対象たちとの学校生活で愛を育みながら、テロ組織の全貌を暴いていくっていうわけなんだけどさ。
その内通者って私なんだよね。
私が転生した鬼目堂 狂偽ーー彼女は物語の序盤から登場していた。
入学式の後に厄介な上級生に絡まれていた主人公を生徒会副会長として助けるのだ。その後も、どこか抜けている主人公を心配し、サポートキャラとして主人公を助けてくれる。というのも、攻略対象は生徒会に所属していたり、彼女のいとこだったりするので、プレイヤーたちは攻略したいキャラによっては彼女の情報が必須だったりするのだ。
すらりと高い身長に、長い黒髪に混じる綺麗な白髪、近づきがたい神秘さを持ち合わせたクールビューティな見た目とは裏腹に、好奇心旺盛な主人公を困り顔で心配し、主人公の恋愛を笑顔で支援してくれる優しさに、我々プレイヤーは「ママ」と呼び盛り上がっていた。
内通者が狂偽だと発覚するまでは。
そう、鬼目堂 狂偽こそが主人公が探していた、テロ組織の構成員だったのだ。
主人公に近づいたのも、自分が構成員と気づせないためにブラフを撒くため。攻略対象との関係を助けるのは、主人公の注意を逸らすため。
しかし、その努力も虚しく、主人公たちはとうとう彼女の正体に辿り着いてしまうのだ。そして、素性を知られた彼女は姿を消した。
最終章の直前、警視庁と軍の中央機関で大量の化物が現れるという大事件が起きてしまい、主人公や攻略対象たちは協力してその化け物と戦い、追い詰められた組織はラスボスを逃すために主人公たちに立ちはだかる。その中にいたのは狂偽の姿だった。
そうして、彼女とのバトルが始まるのだが、ボス戦お決まりの倒したら第二形態になって復活があるのだ。一度倒すと、気持ち悪いタコの化け物のような見た目になって、しかも全回復して第二ラウンドが始まってしまう。あの戦闘で希少な回復アイテムがいくつ消えていっただろうか。しかもラスボス戦前なので、限りあるアイテムをできるだけ節約しながらバトルを強いられるなかなかの鬼畜設定だった。
まぁ、つまり何が言いたいかと、私が転生したのはテロ組織の構成員で気色悪い姿になって悲惨な最期を迎える中ボス令嬢だったと言うわけだ。
終わった。
どうしよう。私が正しく動かないと物語自体始まらないんじゃないか?
いや、それがいいのか。
でも、何が問題かって言うと。悪役には悪役に堕ちた悲しい理由があるわけで。勿論、それは狂偽にもある。というか、狂偽は人気キャラだったせいかスピンオフで、彼女の過去編の小説が存在した、はずだ。そこで彼女が悲惨すぎる中ボスキャラとしてさらに人気に火をつけたのだ。
うん、読んでない。
ネットの反応もネタバレを避けたくて、見てなかった。
どうしよう、このままだと可哀想すぎる過去を回避できない。
「うぅぅう゛」
赤子の私は、先立つ不幸を思って呻く。
「あらあらお嬢様は、もう起きちゃったんですか? おしゃぶりして、機嫌なおしましょうね」
「んぶっ」
無理ゲーすぎる。
ブクマ付けてくれた方、ありがとうございます!!
それから、ここまで読んでくださった皆様、お付き合い頂きありがとうございました。(最終回かよ……)