第一話 転生したら悲惨すぎる中ボスだった件について……1/2
神様が出した条件というのは、つまり、
『地球の時間で二週間、自分の仕事の補佐をして欲しい』
と、一つだけだった。
その報酬として私は、
『好きな世界に生まれ変わっていい』。
地獄行きと言われ、絶望していた私にそんな好条件を出してくれるなんて。やはり神様は慈悲深く、寛大なお方だ。
今考えるとそう思っていた自分を五十発位ぶん殴ってやりたい。
というのも。
まず二週間働けというのは、本当にそのままの意味だった。24時間×14日=366時間、ぶっ続けで資料に目を通し続けた。もう死んでいるからなのか、『眠たい』と思ったことは無かったが(そもそもこっちの世界には朝と夜も無かった)集中力は切れ、脳が使いすぎでパンクするかと思った。「死ぬ……」と、呟いた私に神様は「自分で死んだんでしょ~」と、暢気に言いながらメロンパンを頬張っていた。もう少しで私は、資料をまとめてある、タブレットのような機械を神様にぶん投げそうになった。
それからこれは過ごす内に分かったことだが、彼がトレイドと名乗っているように他の神様達にも名前があるらしい。その他分かったことは、神様は地球にたまに行ったりしてるとか、神様の補佐をしている人(?)は現在、旅行で転生して一つの人生を楽しんでいるらしい。
マジか。神規模になると一つの人生が旅行なのかよ。
まぁ、そんなこんなで二週間の業務を終わらせた訳だ。暢気な神と366時間も一緒にいたからか悲観的な感情も少しずつ薄れ、来世への期待で私はウキウキしていた。
と言うわけで、ようやくの転生!
私はすかさず好きな乙女ゲームの世界にした。詳細は後で説明しよう。
「トレイド~、転生よろしくお願いしますー」
「神様って言ってよ……」
「私が静かに集中して仕事をしているときにカップラーメンのカウントダウンを年明けかよって思うレベルに大声で言っていた辺りからもう、貴方に敬うとかそういう感情を向けることはないので」
「よし! これから君に地獄へ旅行に行かせてあげる。ツアー式で全部巡ろうね?」
「慈悲深く、聡明な神様。愚かな私にどうか転生をお願いしたく存じます」
「よろしい。事前説明をするね? まず君が転生する世界は『月華少女と剣の誓い~修羅の夜明けにて貴女と笑う~』ね。うわぁ、なんかいかにも乙女ゲームって感じだね。言ってて恥ずかしかったよ……」
やかましいわ。脳内でそうツッコミ、神様への怒りを隠しながらニッコリと頷く。
「あ、あとこれは俺からのオマケで、このゲームのキャラのどれかに転生するから」
「え、それってワンチャン主人公になってイケメンとラブラブできるってことですか!?」
「食い気味だし、欲望を包み隠さないなぁ……。まぁ、そう言うこと」
「……! 神様、愛してます!」
「ふっ……当然だよ。来世はトレイド教、布教してね。それと、胎児とかに前世の記憶あると脳に負担が凄いからとりあえず君の意識が目覚めるのは1歳の誕生日から」
「はい!」
「じゃあ、いくよ」
戯けたようないつもの声とは違った、随分と落ち着いた声でそう言うと、作り物のように繊細で美しいその手を私の瞼に優しく乗せた。
「目を瞑って」
心地の良い手の温もりに、ここに来てからは感じなかった眠気が猛烈に私の瞼に重りを掛けていく。目を瞑ると、意識が飛ぶのに数秒も掛からなかった。
☆☆☆☆
「ふぁあ……」
欠伸が出た、目を開ける。
案の定、知らない白い天井。
おぉ、私、本当に転生したんだ……。なんか、あっさりした感じだったから、意外。もっと、魔方陣みたいなのに落ちてとか、派手な感じかと思ってた。
それにしても、心地良い朝だ。清潔感のある白いカーテンは太陽の光を程よくぼやけさせながら部屋を明るくしていた。
さて、誰に転生したのかなぁ。やっぱ第一希望は主人公だよね。でも、最近の小説は悪役令嬢ものが多いし、それも良いな。攻略対象でも、イケメンだし全員金持ちなキャラだし……。ってか、私髪長いんですけど!? え、これってワンチャン主人公キタコレ!? 推しとのラブラブランデブーあるくね!?
コンッコン
「狂偽お嬢様、お目覚めでしょうか。古井戸でございます」
……え? 何、『狂偽』って、私?
嘘……。そんな、狂偽って。
ようやく、私は悟る。
自分の転生先は、主人公ではないことに。
神に慈悲なんて無いことに。
☆☆☆☆
「そろそろ気付いたかなぁ?」
男はこれから好みの映画を見るような気分だった。
「狂偽なんて、君にぴったりの名前じゃない? 狂った偽をしてた、君にはさ。まぁ、今回は死ねない人生だから精々頑張ってくれよ?」
誤字脱字等のご指摘があれば、感想の所にください。あと、できれば、ポイントを……ブクマを……感想を……。すみません、巫山戯ました。次回も読んでくれたら嬉しいです。