第十話 私って一級フラグ建築士だったんだね!?
「腹割って話そうぜ? 利害は一致してそうじゃねぇか、俺ら」
……、どちら様でございましょうか?
不敵な笑みを浮かべる彼は、先程の優男イケメンとは重ならず私の混乱をより一層招いた。いや、だってあなた「話そうぜ?」とか「そうじゃねぇか」とか言ってなかったでしょ。「ご飯食べよっか」って言って優しく微笑んでたあなたはどこに行ったの? まじで誰なんだ、アンタ。
まぁ、何か腹にあるとは思ってたけどさ。
─だけど。
何故バレた?
色んな事がバレるほど一緒に居ない。言動が大人びすぎてた? でも、古井戸さんも幼いのに利口すぎて困るとか言ってくれてたし。
もしかして、彼も転生者なの? だとしたら、スピンオフの狂偽ちゃんと私の行動が違っていたらあまり一緒に過ごしていなくても中身が狂偽ちゃんでは無いと分かるのも頷ける。
……いや、今はまず彼への対応だ。
イヴァンさんは気にせずパン食べ続けてるし無視しよう。
このままシラを切るのも駄目な気がするし、多分ここでの正解はある程度の素を出し、疑問点を聞き出すことだ。
「腹を割って、というのは何を話せばいいのでしょうか?」
「ははッ、ホント可愛げないなぁ! まぁ、君に異能とかについてだよ。そんな怖がんないでよ、別に酷いことはしないよ? 君も俺達も会ったばかりだ、君のこと知っておかないと」
愉快そうに笑うイセラさんはそう言った。可愛げが無いと言われても、こちとら前世も合わせて23歳。中身23歳の女が可愛げのある五歳児を演じられたら、それはそれでホラーだわ。
「ルール」
「ルール、ねぇ……」
「君も気になってたりするでしょ、俺らの目的とか、ほんとはなんのお仕事してるとか?」
「……っ!」
全部お見通しじゃないの。
「人の表情を見るの上手いんですね?」
「まぁ、そういう職だしなぁ。っていうか職って言えんのかね」
さっきから、職業って何?
「ま、それはひとまず置いといて」
「置いちゃうんですか?」
「うん」
何くわぬ顔でそう言いながらイセラさんはヘラヘラと笑った。どうやら、彼はくしゃっとした人懐っこい笑みでは無くヘラヘラとした少々胡散臭いこちらの表情が素らしい。
「信頼とまではいかなくとも、ある程度お互いを知っといた方が良い。と言うわけで、じゃあ二回目の自己紹介ね。なんか質問ある?」
「好きな食べ物は?」
「違う、そうじゃない。というか、今の空気でよくその質問出てきたね!? もっと、異能効果は? とかじゃないの?」
あぁ、そう言う感じか。空気をどこまでも読めないな、私。
「じゃあ、名前は偽名ですか?」
「あ、そう来たか。俺は本名だよ、まずまず鈴木 イセラなんて名前を偽名にしないでしょ。ネットのユーザー名じゃあるまいし。でもやっぱ勘がいいね。イヴァンは偽名、本名は……本人から聞いて」
イヴァンさんが偽名ね。
あと、なんだろ今一瞬の間の中でチラッとイヴァンさん見たよね。何? それ言うとイヴァンさんの地雷的な事なのかな。追求しないでおこう。
閑話休題、次の質問は年齢かな。ただの興味だけど。
「じゃあ次、年齢は?」
「俺は19。イヴァンは379歳」
へぇ、イセラさん若ぁ! 二十歳超えてないんだぁ。 ……じゃなくて!
「え? なんすか379って?」
彼は妖精さんなんですか?
「それがコイツの異能だよ。『強制延命』って言ってね、自殺じゃなければ千年生きれる、見た目の年齢も自由に変えられる。そんな異能だ」
ち、チートじゃねぇか。
故に彼は、高校生位の見た目でピチピチお肌なのか。滅茶苦茶見くびってたぜ。車の好きなイケメンとしか認識してなかった。
そんな件の彼は、いつ淹れたのかゆったりとコーヒーを飲んでいた。緊張感無いね。
「はぁー。やだねぇ、コイツの後に俺の異能言うの」
「あ、じゃあ話さなくて大丈夫です」
「え……? まってぇ! やだやだ、聞いて聞いて! 言うからぁ!」
うぜぇ……、カマチョかよ。
本日二度目のイセラさんのキャラチェンジ。もう、誰が貴方なんだ、序盤の私の混乱を返せ。
そんな私の失望もつゆ知らず、イセラさんは私の短いおててを握りしめ、涙目で喚いている。
五歳児の幼女(美幼女)に懇願する19歳のイケメン。構図的にアウト。児童ポルノ感が凄いね(褒めてない)。
「……はぁ……。イセラさんの異能はなんなんですか?」
「ちょっと待って! 全部棒読みで全然興味無さそうだし、最初の方に溜め息とか聞こえてきたけど!?」
「気のせいですよ。老化してるんでしょうね」
「俺まだ19!!」
なんか、同じグループの高校生達くらいの会話をしている気がする。彼とは旧友でしたっけ。いや、昨日会ったばっかの良く分からん人だね。
「まぁ、いいけどさ。俺の異能は『贋作』って言うんだけど、その名の通り見た絵をだいたーい同じ絵を描ける。大体ね。その道のプロとかに見られたら終わりだけどさ。ある程度は騙せる」
そう言うと、彼はくしゃっと何かを隠すように笑った。
「あのぉ……、大体分かってきちゃったんですけど、お二人って……」
「うん、犯罪者!」
そんなトーン明るく言って良いのかよ! という私のツッコミはさておき。私は思いだしてしまったのだ。あの失言を……。
『まぁ、職業くらいは教えてくれるでしょ。だって、まさか幼い子に言えないような仕事してるわけないもんね。』
……。えぇ、見事なフラグ回収よ私。一級フラグ建築士よ。嬉しくは………、ないわ。
「因みにどうゆう系の犯罪を……」
「俺は贋作絵師兼それを売る詐欺をしてて、イヴァンは麻薬売買、殺し、詐欺、運び屋なんでもござれ。うん」
「う、うん?」
犯罪になんでもござれという表現は如何な物だろうか?
うんって、なんだおい。
「あのぉ、ていうかイヴァンさんの凶悪さヤバくないですか……?」
「あ、うん。それは俺も思った。しょうが無いアイツ頭おかしいから」
えぇ~、滅茶苦茶悪口じゃん。
もっと同業者らしい答えが返ってくると思ったんだけど。
同居人にそんな悪口を目の前で言われていることなどつゆ知らずな様子でコーヒーを飲みながら和むイヴァンさんを私は心から不憫におもった。言語の壁って強いね。
「というか、五歳児で同居人が人殺しっていうのをすぐ飲み込める君の方が怖いんだけど?」
ヘラヘラとした笑顔はスッと作り笑顔に戻った。その少しの表情の変化に私は少しだけ警戒心を高めた。
「育ち、ですかね? 私は特定の物にしか恐怖心という物がないんですよ。それに、貴方達は私を殺せません」
「ほぉ。それは何故?」
「情報をバラしすぎているからです。貴方達のどちらかは鬼目堂家と面談をして私を引き取っています。うちは支払いが良いですからね、多少のリスクがあれどそれを賭けるほどの価値はあるでしょう。大方、少しだけ面倒を見れば良いと思ったんでしょう? 私の特徴は大人しい一つだけですし」
「あぁ。確かに半分正解。俺は君を引き取る件で、君の家の人と話したし、多少のリスクがあれど賭けるほどの価値はあった。前払いの金額は五千万だ。これからも支払われるしね。ただそれだけじゃ、俺はこの仕事に乗らない」
「……?」
「理由は言わないけどね♡」
「……、ウザいです」
「君ホント失礼だなぁ。それ、会って2日目の犯罪者への態度?」
「だって殺さないんでしょ?」
「殺しは、ね?」
そう言うと、イセラさんは真顔になり私の方へ手を伸ばしてきた。
すると、前世の母に殴られていた記憶が蘇ってきた。
─────
「──っ!」
母が拳を振り上げたので、私は蹲った。
「何で! 自分を守ろうとできるのっ!? あなたが悪いのに!! あなたが!!」
その後、母からの罵倒と暴力は際限がないのではないかと疑うほどに続いた。その時、私は一つ学習したことがある。暴力を振るわれた時は、自分を守ってはいけない。出来るだけ抵抗せずに、逃げもせずただ怯えていろ。それは、幼少期から祖母に罵倒されている母を守らなかった無知な私への復讐に思えた。
────
キュッと目を瞑り、殴られるのを覚悟する。
しかし、頭に来たのは凄まじいあの衝撃ではなく、おでこらへんの少しの痛み。それは、デコピンだった。
「あ……、え?」
拍子抜けだった。だって──
「殴られると思ってたのに、どうして自分を守らなかったの」
固く瞑っていた目を開けると、ムスッとしたイセラさんの顔が見えた。怒ってる? なんで?
「はぁ……。殴られるってわかってるなら自己防衛は必須。まぁ、俺は殴らないけどさ。あぁ、でもイヴァンの部屋に勝手に入ったり、車傷付けたら殺されるから、そこんとこよろしくね」
何かを諦めたように嘆息したイセラさんは、説教のような口調でそう言った。何故、私は怒られているのだろう。
「じゃ! 長話ごめんね。お腹空いたでしょ。ご飯食べな、そしたら必要な物買いに行くから、着替えといてね」
イセラさんは空気を変えるように明るくそう言うと、パンを食べ始めた。
何故、彼が怒っていたのか。その疑問は解消されないまま、私は空腹を満たしていった。
実はその疑問が数ヶ月後になって、掘り返され納得する理由が帰ってくることを今の私は知らないまま。
あ、飛ばしても大丈夫です。
イセラさんのキャラチェンが凄まじいですね。作者もびっくり。初期はもっとクールビューティーな設定でしたのに。
あと、前話の「フィヤッホイ!!?」っていう奇声あったじゃないですか、あれソース私なんですよね。




