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英雄から受け継いだもの  作者: パピ
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太古の剣

 腹に響く重低音が鳴り始めると、僅かに地面が揺れる。

それが、彼の目覚めの合図になった。机とベッドしかない部屋で彼は、机に突っ伏して寝ていた。彼は、寝ぼけた状態で起き上がると、机の上に置いたあったノートや鉛筆が地面に勢いよく落ちた。彼は気に留めることもなく、大慌てで寝巻を脱ぎ捨てて、壁にかかっているつなぎに身を包んで部屋を勢いよくでた。

 外は、崖に囲まれており、進めればいいという目的で削られた舗装されていないため、大小問わず石ころが転がっている道。ここは、いわゆる採掘場である。

 少年が、外に出ると、岩がいくつもくっつきあって出来上がった巨大な岩の塊、いわゆるゴーレムが採掘場の奥の洞窟から、岩を運んできた姿が見えた。ゴーレムは、仕事を終えると洞窟の方向へと一人帰っていった。彼は不思議に思った。いつもであれば、仕事が始まれば、人が汗水たらして走り回り、社員の数だけゴーレムが仕事を手伝っている光景が広がっているの。だが、洞窟の中へと入っていったゴーレム以外、姿が見えない。寝過ごしたと思い、大至急で、仮住居から飛び出したのだが、実際には、まだ仕事は始まっていないようだった。

 少し落ち着くと、ゴーレムを動かしている人探すため、現場に向かうことを決める。彼が住んでいる住居は、現場の人間が、起きてすぐ働けるように、建てられた仮住居である。仮住居は、横に広がっており、何十人もの人を収容できるようにしてある。住居の端の部屋に工具をしまっている部屋が存在し、彼はそこへ足を向けた。扉を開けると、砂埃が鼻孔を刺激する。咳ばらいをして、いくつも並んだ自分の背よりはるかに高い棚のわきを歩き、自分の道具がしまってある場所に行く。工具一式が入ったポーチを腰に巻いて、ヘッドライトが巻かれたヘルメットを頭に被せ、部屋を出てゴーレムが向かった先に向かった。

 自分たちで掘り進めた坂道を、石ころで転ばぬよう、くじかぬように慎重に、だが、道になれた足は軽快に坂道をおりる。一番下に降りところに洞窟が掘られている。もちろん彼と、その仲間たちが作ったものだ。音の発生源は、洞窟の奥から聞こえてくる。

 洞窟を進むと、最初は外の光で薄暗く先が見えるのだが、光はすぐに届かなくなってしまう。岩壁につけられた照明が道を照らしているが、安全のためヘルメットにつけられたヘッドライドの明かりを灯して、行き先を照らす。しばらく、人が二人も通れば、埋まってしまう道を歩いていると、先ほどのゴーレムと遭遇する。道は、いくつも枝分かれをしており、気にしないで歩いていると道に迷ってしまう。ゴーレムの使用者を探すために洞窟に入った少年は、ゴーレムが主人のもとに帰ると知っているため、そのあとをつけた。しばらく細道を歩き、広い空間にでた。そこは、ヘッドライドの光が必要ないほど、壁に取り付けられた照明が、空間を照らしている。その空間が、この洞窟の行き止まりである。道を閉じている壁の前にゴーレムは近づくと少年は使用者を見つけた。一人の筋肉質の男が、白い服を泥だらけにしてつるはしを一振り、また一振りと一人作業をしていた。その姿を見た少年は、すぐに口を開いた。

「親方、おはようございます」

少年の挨拶に気づいた親方と呼ばれた男は、つるはしを振るう腕を止めて、少年のほうへと目を配った。

「おお、クオンか。おはよう、起こしっちまったか、すまねえな」

「いえ、すみません。親方一人に作業させてしまって」

クオンと呼ばれた少年は、頭を下げると親方の近くに歩み寄った。

「気にすんな、始業までは、まだ時間はある」

「えっ、でも親方はどうして?」

「ちょいとな、早朝に上に叩き起こされてな。どうも、ここからもう少し先に、目的のものがありそうなんだとよ」

親方は、先ほどまで掘っていた壁を指さした。

「せかされたんですか?」

「そういうことだ。納期も、そろそろだしな」

「そっか、あと一か月後でしたか、英雄祭」

「そう、それまでに目玉が欲しいらしいんだと」

「僕は途中から参加で、よく知らないんですけど、本当にこの先に英雄にまつわる遺跡があるんですか?」

クオンは、傍らにあったつるはしを手に取って、壁に向かってつるはしをふるった。

「まあ、国の情報部の探索魔法だ。相当制度はいいはずだ。まあ、外れも多いが」

親方も、話しながらクオンに続くように、仕事に戻る。ゴーレムは、つるはしによって壁から転がり落ちた岩を自身の体にくっつけていく。許容量がいっぱいになったら外までに捨てに行くのが、ゴーレムの仕事だ。

「何度か、ハズレがあったんですか?」

「ああ、3回くらいか。まあ、ハズレてもきちんと報酬はでるからな、文句はないんだ。達成感はないけどな。まあ、国の仕事だから報酬はいいし、あいつらをくいっぱぐれさせなくてすむから悪いことではないな」

「今回は、英雄祭の目玉見つかるといいですね」

「そうだな。だが、本当にあるのかもわからないからな」

「英雄が使っていた剣ですもんね。英雄が生まれていた時代が、300年も前ですし、その間に掘り起こされていないって言うんですから、真偽が怪しいですよね」

はははっと笑いながら、つるはしを壁にぶつけると、今までとは違った感覚が手に伝わった。今まで壁にはじかれていたつるはしが、壁に吸い込まれていく。空洞だ。奥には確かに空洞がある。二人は、つるはしから目線を挙げて、互いに見つめあうと、同時にうなづいた。言葉を発することもなく、二人は、壁に向かってつるはしを振るう。一振り、さくりと親方も感じた空洞の感触。一振り、わずかに空いた穴から、向こう側の光が零れ落ちる。一振り、また一振り。その先にあるものを求めて、二人は、無我夢中で壁を切り裂いた。

 人一人が入れるような穴を作ると親方が先陣をきって空洞に入る。奥にあったのは左右には、見飽きた岩肌。目の前には真っ平な岩の壁。人工的に作られたと一目でわかるのは取り付けられた扉があるからというのもあるが、岩壁にはでかでかと文字が刻まれていたのだ。文字は、岩陰に隠れて一部しか見えない。

「これは」

「クオン、これを読めるか?」

「いえ、古語といのはわかるんですが……」

クオンは、じっと文字を見つめるが、読むことはできない。

「そうか、まあ、これは学者先生がたに見せればいいか。とりあえず、入ってみるか」

親方は、扉に近づき、押してみた。堂々と立つ扉は、動く気配を見せず、押していた反動で親方が後ろによろけてしまう。クオンは、親方の体を両の手で受け止めた。

「すまねぇな」

「いえ、親方の力で開かないとなると、何か開けるための仕掛けがあるのかもしれませんね」

「かも知れねえな。まあ、ここはすべて学者に丸投げだな」

親方は、クオンに任せていた体を立て直すと、建造物を見直して、再び口を開いた。

「それにしても、この建物は、もともと外にあったんだろうな」

「そうですね」とクオンは、親方の考察に同意した。クオンと親方が、そう思った理由は、建造物の壁の文字が、岩陰に隠れて見えないことだ。おそらく、外界に作られた建造物が例えば地震、例えば火山の噴火によって、地変が生じて地面の中に埋もれてしまったのだろうと推測した。

「まあ、お前はともかく、頭の悪い俺が考えったって、意味はねえだろうしな。一旦、外に戻るか」

「頭が悪いだなんて、そんなことないです。絶対に」

クオンは親方の言葉をすぐに否定する。

「この一年間、たった一年ですけど、親方と一緒に働いてきて、親方の交渉術や、知識、コミュニケーションを見てましたけど、親方が頭悪いと思いませんよ」

親方の謙遜であるとクオンは思っているが、尊敬する親方には、あまり自分を卑下して欲しくなかった。

「っ照れるな。お前は、本当に純粋というか、単純というか……。俺がやってるのは、今まで俺が経験してきたものを生かしてるだけだ。経験を積めば、誰だってできることだよ。もちろん、おまえにも。もちろんきちんと経験値をつまねえとだめだがな」

クオンの好意を受け、気前をよくした親方は、クオンの背中をポンポンと叩く。

「さあて、洞窟を散策している学者と役人見つけて、外に戻るぞ。先ずは朝飯だ。どうせお前、ゴーレム見て、すっ飛んできたんだろう」

「そんなことないですよ」

親方は先を歩いていたが、振り返り自身の頬を、つついた。クオンは不思議そうに、自身の親方がつついた頬をさすった。

「ついてるぞ、がり勉君」

クオンは、顔を赤く染め上げた。親方が指したのは、クオンに頬にくっきりと残ったペンの跡だった。跡を消そうと、頬を力強くこするも、消えることはなかった。

「英雄祭もそうだが、おまえの医学学校の受験も、もうすぐだったか?」

「そうですね。英雄祭の丁度一か月後です」

「勉強ははかどってるのか? 無理して仕事来なくてもいいぞ。お前は、頑張ってくれてるしな。働かなくても給料だすぞ。内密に」

親方は、本気でクオンの受験を応援し、この提案をしたのは初めてではない。

「そんなことは、できませんよ。何度も言ってますけど、きちんと自分で働いたお金で、学校に行くって決めたんですから。それに、親方には、お給金以外にもたくさんのことをもらったり、経験させていただいているんです。僕には、働いて親方や皆さんに恩返ししたいんです」

「恩返しは、立派な医者になってから、俺たちを診てくれればいいさ。頼むぞ」

「もちろんです」

クオンの間髪入れずの返答に、親方は頬を緩めた。

「まっ、とりあえず、何をするにしても飯だ。体は資本。きちんと飯を食って、健康な体で今日も頑張るぞ」

二人は、洞窟で役人と学者を見つけてから、外界に戻った。



「本当に本当に、建造物が、本当にあったんだね?」

声を荒げクオンに問いかけたのは、学者の一人のハクマだった。クオンとハクマは、飯時にたまたま話したのがきっかけで仲良くなった。現場では一番年が近かったため、自然と会話が増えた。今日も、二人は、折り畳みの机といすが合わさったテーブルセットを広げて、向かい合わせに座って朝食をとる。今日の朝のメニューは、白いご飯に生姜焼きを載せたどんぶりと、味噌汁と朝から少し重めのメニューだ。現場は体力勝負、きちんとスタミナをためておくことに重点を置いたメニューが多い。学者で線の細いハクマに取ってはあまり好ましくないメニューだが、文句は言わず、ゆっくりと食べるのが常だ。

「はい。朝食食べ終わって、朝礼が終わったら、学者の皆さんを親方が連れて行くと思いますよ」

クオンは、どんぶりをがっついたあと、味噌汁でご飯をのどに流し込み口を開いた。

「ハクマさん、随分とうれしそうですね」

「わかるかい?」

「ええ、鏡持ってきて見せてあげましょうか、失礼ですけど、引くと思いますよ」

ハクマの顔は、口角が限界まで吊り上がり、目も細くなって、嬉しいという感情が、心の底からあふれでている。

「そりゃ、顔にも出るさ。今まで英雄エルクの時代から、三百年の時が経て初めて発見された建造物。わくわくしなかったら、そんなの嘘だ。しかもだ。その建造物に初めて足を運ぶことができるんだ。もう、誰にきもいといわれようとかまわないさ」

ハクマのテーブルに勢いよく手をついて、その勢いで立ち上がる。テーブルの上の物は揺れ味噌汁が器から、テーブルにこぼれた。こぼれた味噌汁がハクマの手にかかり、冷静さをとりも出させる。「すまない」と言って、彼は着席する。ハクマは、ポケットのハンカチを取り出して、味噌汁を拭いた。

「気持ちはわかりますよ。ハクマさんは、僕と同じで初めての仕事で、こんな場面に遭遇したんですから」

クオンも同じ気持ちだった。バイトとは言え、仕事を開始してから約一年が経とうとしている。最初は、掘削機での地面を掘るところから、時間を経て、たどりついた。建造物を発見したときは、達成感で体が震えた。

「ああ、考えるだけで体がうずいてる。クオン君、早くご飯を食べよう」

朝からの重い料理が苦手なハクマだが、今日は箸が進む。建造物を調べたいという一心で、頭がいっぱいなのだ。


 朝食を食べ終えると、親方の前に現場の人間全員がきっちりと複数の列を形成した。朝礼は、毎日の行事である。朝礼では主に今日の仕事の確認、目標、安全確認を行っている。そして、準備運動。魔法があり、事故を事前に防ぐことはできているのが現実。だが、油断はしてはいけない。どんな時であっても、イレギュラーが起こることを想定し、迅速に対処することこそが必要であると親方は、耳にたこができるほど言っている。

 朝礼では、目的の建造物が見つかったことを報告した。親方は、皆に万が一が起きないように建造物への道と建造物の周りの整備を社員に命令した。役員と学者たちには、社員がとりあえずの安全確認をしたのち、案内すると学者たちには待機命令をだす。これには、学者たちは、明らかに不満げであった。まるで、おあずけを食らった、ペットのようだ。


 朝礼を終えると、落ち込むハクマに、クオンが近寄った。

「まあ、もう少しの辛抱ですよ。安全確認は大事ですからね」

「ん~、まあ、わかってるけどさ。わかってはいるんだけどね」

ハクマは、頭ではわかってはいるのだが、未知の建造物への好奇心が、理性を抑えきれなくなりつつある。ほかの学者たちも、同じ様子で、うろちょろと現場を歩くもの、ちらちらと洞窟のほうへ向く者と、全員が浮ついている。

「クオン」

親方が、読んだ。

「あっ、行かないと。じゃあ、また後で」

クオンは、手に持っていたヘルメットを着けて、親方のもとに向かう。

「すみません」

「いや、いい。今日、おまえは学者の先生方と一緒に待機していろ。どうせ整備は、うちの手練れたちがすぐにやってくれる。お前は、後で先生たちを案内してもらいたい。一人仲のいい奴もいるようだしな」

「わかりました」



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