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プロローグ

こんな設定のやつが読みたかったので書きました。

「レヴィア・クインセドラ。其方の極めた魔法とこれまでの功績を讃え、ここに『天』の称号を授ける。これからは『天帝』を名乗るといい。」


 ここは大陸一つが丸々領土となった大国、クインセドラ王国。その大国の王城にある謁見の間。読みあげられるのはとある人物の任命状。正面の玉座には覇気を纏い、威圧感が凄まじい一人の偉丈夫。乱世の覇王と称されたその人物は、崩壊しつつあった自国を持ち直すばかりか、五つあった大国を悉く支配下において一つにまとめあげた。正しく大陸の歴史に残るであろう偉業の片隅には、目の前に平伏す一人の少女の活躍があった。少女の名前はレヴィア・クインセドラ。透き通るような銀髪に、血を連想させる真紅の瞳。雪のように白い肌とそれを強調させる黒いローブ。その膨らみは控えめで自己主張の少ないものだが、そんな欠点は気にならないほどの完璧な美人。未だに十五歳にもなっていないだろう彼女は、その外見からは想像もつかないが、人智の及ばぬ化け物であるとされている。


 称号持ち。先ほど襲名された称号持ちとはそれぞれの国が保有する一つの属性を極めた文字通りの最強の魔法使いであることの証明である。今までの歴史上の称号持ちの平均年齢は五十歳を超えている。その中に突如として現れた二十歳にも満たない新人。本来ならば実力を疑う者が出てきてもおかしくないものだが、彼女に限っては誰一人として異論がなかった。与えられた称号は『天』。彼女の極めた魔法は今までの魔法体系の外側に位置する全く新しい魔法であった。従来の魔法は自身の持つ魔法力から魔法を精製するものであった。しかしながら彼女の編み出した魔法は違った。自身が持つ魔法力はあくまで呼び水。その魔法の精製を全て『天』、つまりは空に任せたのであった。天候を支配し、空間を支配する彼女の魔術はまさしく桁が違った。


 彼女が初めて表舞台に立ったのは、とある一つの戦場であった。そこでは覇王が力をつけるのを危惧して、称号持ちの中でも『火』、『風』、『土』、『水』、『雷』の五人が協力したのであった。世界に十人もいない称号持ち、その内の五人の参戦。ましてや覇王の元には称号持ちと言えるような力を持った魔法使いはいないはずであった。何故ならば度重なる内乱の中で多くの魔法使い達が戦死してしまい、さらには元々の称号持ちは自国を見限って在野に下ってしまったからである。故に誰もが覇王の敗北を予期し、その覇道が潰えるのを期待していた。称号持ちの五人を相手にして戦場の矢面に立ったのは年端のいかぬ一人の少女であった。


———若過ぎる。


 誰もがそう思い、味方側は失望を露わにし、敵側はこんな少女までも戦場に立たせるのかと憤慨した。一般的に魔法使いとは三十歳ほどが普通であり、二十歳にも満たない魔法使いなど誰も見たことがなかったからだ。誰もが才能溢れる若い魔法使いが犬死にする光景を頭に思い浮かべていた。しかしながら彼らの目に映ったのは、称号持ちを同時に全員相手取りながらその悉くを一手で薙ぎ払った怪物の誕生であった。


 彼女が創り出したのは暴風雨、しかしそれはただの暴風雨ではなかった。海をひっくり返したような激しい暴風雨。吹き荒れる風はありとあらゆる魔法を弾き返し、最早弾丸と言ってもいい勢いで降り注ぐ雨粒は人々の膝を折り、それでもなお止まらぬ者には光の柱と言うべき豪雷が爆音を鳴り響かせて襲いかかる。五人の称号持ちはそれぞれの得意分野においても足元にも及ばず、一人、また一人と倒れていく。彼らが倒れたことによって、高まっていたはずの士気は一瞬にしてドン底にまで落ち込んでしまう。希望を与えられた者達に訪れたのは絶望だ。一人いるだけで勝利する側が変わってしまうと言われる人類の英智の極限。そう呼ばれた称号持ち達が塵芥のように吹き飛ばされる。その光景は戦場に立っていた者達全て、敵味方関係なく恐怖の真っ只中に叩き落すものであった。


 古来より天災は神の怒りと考えられてきた。つまりは天候を支配して見せた彼女は、人の身ながら神の領域へと到達したのだと言ってもいいだろう。神の化身とも言うべき暴虐の塊。その降臨に戦場はすぐに静まった。戦場において最終兵器とも言える称号持ち達の呆気ない敗北。それを引き起こした年端もいかぬ少女のことを五大国の兵士は揃ってこう呼んだ。


———『白銀の魔王』


 白銀の魔王を見たならば武器を降ろせ、彼女には勝てるはずがないのだから。逃げようとしてはいけない、彼女からは誰も逃げられないのだから。その見た目に騙されてはいけない。我々に許されたことは地に伏せ、災厄が通り過ぎるのを待つことだけなのだ。


 彼女の参戦によって称号持ちという精神的な主柱を失った五大国は、連敗に次ぐ連敗が続き、呆気ないほど簡単に降伏した。その後に誕生したのが五つの大国がまとまったこの国、クインセドラ王国なのだ。


 今日はその建国日、建国宣言と共に告げられたのは最年少の称号持ちへの認定。それと共に魔導の頂に立った者として、史上初の王以外で『帝』と名乗ることを許された。


———それはまさに新たな歴史が始まる瞬間であった。






◇◇◇


 時は遡り、ここは数年単位で内乱が続く国、スウィーラ王国。かつては六大国と称されたのも今は昔、今では大国の枠組みから外され、五大国の片隅にある幾多もの弱小国の一つとなってしまった。その格差は圧倒的であり、もはや力の均衡がまったく取れていない。


 この国には安全な場所などない。それは首都である王都であっても例外ではない。この国の一番大きな通りであっても白昼堂々と殺しや強姦が日常的に起きている、といえば如何に荒れているかが分かるだろうか。力のない民は滅多に家の外に出掛けず、もし出掛けるとしても最低限の用事を済ませれば即座に帰宅する。そんな状態に陥っていれば活気がないのは当たり前で、その有様はもはやゴーストタウンと言われても違和感がない。


 しかしながらこんな状況でも首都は恵まれている方で、地方の村々では巨大化した盗賊組織が猛威を振るい、なけなしの食糧や金銭を根こそぎ奪っていく。自己保身しか頭にない領主は、重税をかけて死に体の民から金銭を搾り取り、これからの戦乱に備える。


 そこはまさしく弱肉強食が体現された世界であり、法が法として機能していないこの国は、もはや国としての体裁はほとんど保っていなかった。権力、財力、暴力、そのどれも持たない民はただ搾取されるのを待つしかない。国の崩壊は秒読みの段階にあり、生半可な手段ではもはや時間稼ぎにもならないだろう。周囲の五国はスウィーラ王国が崩壊することを今か今かと待ち続けており、支援するという考えは微塵も持っていなかった。そんな詰み状態の国の寂れた路地裏でレヴィアは目を覚ました。


 「ここは何処だ。確か僕はトラックに轢かれて死んだはず。」


 そう、僕は子供を庇って死んだ———なんてことも無く、徹夜でゲームをやっていた為に寝不足となって赤信号の交差点へと堂々と踏み出してしまったのだ。その時の衝撃と信じられない量の血だまりは自分が死んだことを自覚させるに十分であった。


 確かに死んだはずの自分が生きていることも不思議だが、本当に此処は何処だろうか。周囲を見渡してみるが、そこには人のモノと思わしき排泄物がそのまま放置されている。汚物の周りにはネズミやゴキブリと思わしき生物が群がっていてとても衛生的とは言えない。海外旅行などしたことがないからハッキリと言い切れないが、このような街並みがしっかりしていながら未だに衛生観念が無いようなところなど現代の地球には存在しないだろう。死後の世界にしては汚過ぎるし、どちらかというと中世ぐらいのヨーロッパの街並みである。


 「ひぃっ!」


 手に何かが這うような感触があり思わず飛び退く。手元を見ると15㎝程の大きさのムカデが地面にひっくり返って起き上がろうともがいていた。あまりの気持ち悪さに背筋が凍るような感覚がする。


 ムカデから十分に離れて少し心に余裕ができると微かに感じていた違和感が大きくなる。自分の声が高いのだ。毎日聞いてきた声だから間違いない。それにムカデから離れる時もまるで自分の身体じゃないような歩きづらさを感じた。もしかしたら僕は奇跡的に助かったが、人には見せられない酷い後遺症の残った身体となっているのかもしれない。そのような想像をしてしまい憂鬱な気持ちとなる。


 自分がどうなっているのかを確認しなくてはなるまい。身体を映すものが無いか周囲をもう一度探すと近くに水たまりを見つけた。さっきまで雨が降っていたのだろう。そう認識するとさっきからやけに寒さを感じていたことに気づく。


 「生きているだけマシだ。覚悟を決めろ。」


 覚悟を決めて水たまりを覗き込む———そこに映っていたのは白銀の少女だった。顔は薄汚れていて、髪には艶もなくボサボサだがそれを差し引いても将来は必ず美女になると確信できる造形。そして何よりその顔には微かにだが面影が見えた。


 「嘘...だよな?」


 自分のやり込んだ最高のゲーム「アルカディア・ファンタジー」。RPG色が強く様々なやり込み要素のある恋愛シミュレーションゲームの隠し攻略対象———「レヴィア」に。


 

たぶん続きません。

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