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4,噛み合い始めた歯車

8人で囲んだ食卓は、とても暖かく、幸せなものだった。長机には横に1人ずつ、縦に3人ずつ座っているため、オネットの向かい側にはエフェメールがいて、オネットに近い方からピュールとメルベイユー、フレルとスピトゥピット、エフォールとルポゼという座り方をしている。オネットはみんながエフォール特性の木製食器を使い、クリームシチューを頬張る姿を見つめていた。その時不意にメルベイユーがオネットに声をかけた。

「なぁ、あれ言わなくていいのか?」

オネットはあ、そっか。みんな注目〜!と言った。全員がオネットの方を向く。その様子を見て嬉しそうに笑ったオネットが、口を開いた。

「新しい家族を連れてくるのは、今日で最後にしまーす!」

皆はキョトンとした顔をしている。困っている人がいたら手を差し伸べてしまうのは、オネットの悪癖とも言えることだったからだ。オネットは部屋を見渡して、ふぅ、とため息をついた。

「この部屋もそんなに広く無いし、この長机も8人掛け用だから。さすがにこれ以上ここに住んでもらうのは厳しいかなって思って。それに、これ以上増えたら一人一人を大切にしてやれなくなる可能性がある。だから、今日からはずっとこの8人で暮らしていく!以上!」

オネットは手を打って話を終えた。食後にオネットはエフェメールに寝室の場所を教えた。隣の部屋には二段ベッドが4つ並べられ、木枠にはめられたガラスの窓から、外の景色が見える。とはいえ家が密集しているためそんなにいい眺めでは無い。エフェメールは、今まで1人で二段ベッドの下を使っていたルポゼの上のベッドを使うことになった。そして寝室に入った途端上のベッドへと上り、すぐに寝息を立ててしまった。今日は大変な目にあったから疲れていたんだろうと思い、オネットはそのまま寝かせておくことにした。オネットは子供達とお風呂に入って髪を乾かし、寝かしつけた。長机に腰掛けていたメルベイユーが2人分の紅茶を入れて、片方をオネットに差し出した。時計の針は10時半を指していた。

「ありがとう。」

オネットは椅子に座って紅茶を受け取り、ティースプーンでかき混ぜながら、膝の上に乗ってきたクールを撫でた。そして自己紹介の時にはあえて皆に言わなかったことを、メルベイユーに告げた。

「エフェメールさ、“宝石の民”なんだ。あの伝説の。」

メルベイユーは目を見開き、飲みかけていた紅茶を一度皿に置いた。

「本当なのか?」

オネットは頷き、紅茶を啜った。いつもよりも少し苦く感じた。膝の上の体温を、自分を落ち着かせるようにゆっくりと撫でる。子供達には教えておくべきだろうか、それとも黙っておくべきだろうか。オネットが今日ずっと悩んでいたことだった。

「子供達は、怖がるかな?間近で見たときにはどう思うんだろう?先に教えておいたほうがいいのかな?」

メルベイユーは再び紅茶を手に取り、一口飲んでから、落ち着いた声で言った。

「お前がいつも通りに告げたら、きっと子供達も受け入れるはずだ。でも、1番の問題はそこじゃ無いだろ?周りに知られたら困るんだよな?“宝石の民”の存在は。」

オネットは別にエフェメールを隠したいわけでは無い。ただ、そういう存在を悪用しようとする奴らに見つからないようにしなければならないのだ。希少な宝石を無償で生み出す少女など、知られたらきっと黙ってはいないだろう。オネットが何も言えず、残った紅茶を飲みきったのを見て、メルベイユーは言った。

「俺は、今はまだ言うべきじゃ無いと思う。ルポゼなんてまだ5歳だ。もっと歳を重ねて、言ってもいいことと悪いことの区別がはっきりつくようになってから、言ったほうが安全だとは思うぞ。」

メルベイユーも紅茶を飲みきり、オネットのティーカップを自分のものと一緒に流しに置いた。クールが乗っているため動けないオネットはごめん、ありがとう。と呟いた。

「そうだよね〜、いずれは言ったほうがいいんだけど、それまでにバレちゃったらどうする?それこそ混乱を招くんじゃ無い?」

カップを洗うメルベイユーは少し唸ってから言った。

「そこはエフェメールに注意してもらうのと、俺らでなんとかごまかす以外に手は無いんじゃないか?」

オネットはクールを抱きあげて隣の椅子の毛布の上に乗せて椅子から立ち上がり、大きく伸びをした。それからふぅ、と息を吐いて全身の体を抜いた。

「俺たち次第、か。また迷惑かけることになるかもしれないけど、協力してくれる?メルベイユー。」

その言葉にメルベイユーは普段はあまり変えない表情をふっと和らげた。

「何を今更、今になって投げ出すわけないだろ。大丈夫だ、お前が留守の間は俺に任せておけ。」

オネットは嬉しそうに微笑んで、左手を上げた。それを見たメルベイユーも右手を持ち上げ、ハイタッチをした。ぱちんと、いい音がした。

「頼んだ!…悪い、俺明日も早いからそろそろ寝るね。おやすみメルベイユー。」

メルベイユーは眠そうにあくびをするオネットに早く寝ろと促し、カップを布巾で拭いた。ゆっくりと隣の寝室へと歩いていたオネットが、部屋の手前で立ち止まり、振り返った。

「今日の紅茶も美味しかった!いつもありがと!」

満面の笑みで言ったオネットを、口元を緩めながらもメルベイユーはしっしっと寝室へ追い払った。長机の上を台拭きで拭いて、明日の献立を考えがえながら、メルベイユーも寝室へ向かう。電気を消して、寝息を立てるオネットを起こさないよう、その上のベッドへと向かい、潜り込む。

「…もしかしてオネットは、知らないのか…?」

メルベイユーの小さな呟きは、誰の耳にも届くことはなかった。

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