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2,絡み合い始めた糸

ほのかに温もりを帯びた春の柔らかな風が、オネットのうなじまである白に近い黄金色の髪をさらさらと撫でる。顔にかかった髪を静かに退かし、オネットの明るく深いエメラルドの瞳が、風上を真っ直ぐ見つめた。

「…悲鳴?」

風に乗って微かに聞こえたその声に、オネットは反射的に風上へ駆け出した。どんなに平和な国でも争いごとは絶えず起こっているし、憎しみや恨みといった感情が消え去ることはない。街や国、そして王子や姫、国民をそんな者達から護るのが騎士の、オネットの役目である。そんな使命感に駆られ、周囲に警戒しながらオネットは暫く街の中を駆けていた。その時ふと、袋小路のような場所に集まる男達を見つけた。人数は、4、5人といったところだろうか。不審だ、とオネットは思った。どこか怪しげな雰囲気が漂っているし、そもそもこんな人数が一体袋小路に何の用なのだろうか。オネットが物陰から様子を伺っていると、鞭を叩きつけるような音が聞こえてきた。これだけ怪しければ、声をかけてもいいだろうと判断し、オネットは袋小路の奥に向かって歩き出した。すると足音に気がついたのか2人ほどが後ろを振り返り、その目はオネットの姿を捉えた。一瞬怯むような様子を見せたものの、すぐににやにやとしたまとわり付くような不快な笑みを浮かべる。オネットは一度立ち止まり、言った。

「そこで何をしているのですか?」

すると残りの3人もオネットの方に向き直る。その奥の様子は男達の壁に阻まれ、まだ窺えない。

「こんな所に騎士様が何の御用かな?あんたには関係ないことだ。ガキが首突っ込むんじゃねぇ!」

小太りの男がねっとりとした耳障りな声を上げる。オネットは穏やかな表情を崩さず、一歩前に踏み出した。子供だからと馬鹿にされているのはすぐに理解できたが、もう慣れ切ってしまったその扱いに、憤りすら感じない。オネットはいつでもどこでも、例え騎士の仲間内であっても、常に年下扱いや子供扱いを受けてきた。

「何も無いのにこんな所に人が群がるはずが無いと思うのですが。」

いつでも抜けるように右手を剣に沿わせながら、男達との距離をじりじりと詰めていく。まだ証拠が何も無い。だからこの男達がどんなに怪しかったとしても、危害を加えるわけにはいかない。無言で男達をじっと見つめ、少しずつその距離を縮めていくオネットに、男達も少し逃げ腰になっていた、その時。

「…たすけて。」

聞き取れたのが奇跡なくらい小さな小さな心の叫びが、オネットの耳に流れ込んできた。オネットはその声に弾かれたように隙だらけな男達の壁を剣を抜くこともなく突破し、最奥地へたどり着いた。そこには、頭を抱えてしゃがみ込んだまま震えるこの国では珍しい栗色の髪の少女と、周囲に散らばるアレクサンドライト。

「大丈夫ですか!お怪我は?」

オネットは少女に手を差し伸べる。男達はオネットに奥の状況がばれた途端にその場から逃げ出した。少女はそれに安心したのか顔を上げ、オネットの差し出した手を見つめると、その大きな瞳からぽろぽろと涙を零しました。その瞬間オネットの頭の中に、忘れかけていた今は亡き母の声が蘇る。

『昔々あるところに、“宝石の民”と呼ばれる民族が暮らしていました。彼らの涙は見る見る内に、美しい宝石へと姿を変えるのです。その珍しさから悪い人たちに連れ去られ、“宝石の民”はどんどん少なくなっていってしまいましたした。しかしこの国の森の奥深くに、“宝石の民”はまだひっそりと、静かな暮らしを続けているそうです……』

おとぎ話の世界の事だ。あれは、昔読んでもらった、唯の空想物語。なのに、それなのに何故、少女の目から溢れた大粒の雫は瞬く間にアレクサンドライトへと姿を変えるのだろう。ころん、ころんと、次々に生み出されるその輝きを、オネットは一つ手に取り、感嘆の声を漏らした。

「綺麗だ…。」

思わず素の出た瞬間だった。少女は涙を止め、目を丸くしていた。その濃い赤紫色の瞳は、次の瞬間ぱちくりと瞬きをし、オネットに問いかけた。

「あなたは私をぶたないの?」

その言葉にオネットには先ほどの男達のしていた事がはっきりと分かった。追おうかともおもったが、このまま少女を置き去りにするのは危険だと思い、優しく微笑んで少女の頭を撫でた。

「私はあなたを助けに来たんです。私があなたをぶつことは絶対にありませんよ。」

少女はくすぐったそうに微笑み、それから表情を曇らせて、ポツリと呟いた。

「…帰るところ、無くなっちゃった。」

少女に詳しく話を聞くと、両親とともに住んでいた家が盗賊に襲われ、地下に逃げ込んでいた自分が外にでると、家は荒らされ家族の姿もどこにもなかったという。このままここにいては自分も危ないと思い、王都に逃げ込んできたらしい。少女の深いフードのついた上着や、やけに地味な服装の意味が分かった。オネットは少し考えてから少女の手を取って立ち上がるのを手伝った。事情が分かったオネットはにっこりと微笑んで言った。

「では私の家に来ませんか?私はこう見えても騎士なので、あなたの事は絶対に守ってみせます。一生危険な目には遭わせません。」

少女は驚いたように目を見開き、聞き返した。

「いいの?」

オネットはゆっくりと少女の手を引いて歩き出した。

「勿論ですよ。人数が多ければそれだけ賑やかで楽しいですから。まずは、貴女の名前を教えていただけませんか?」

少女は嬉しそうに笑って言った。

「私の名前は…」


読んで頂き、ありがとうございます。

まだ続けていこうと思うので、よろしくお願いします。

誤字・脱字等ありましたらぜひ教えていただけるとありがたいです。

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