死体狩り女子に、メイドさんさせてみよう!!
「冥鬼……。糸仕舞いなさい……」
死体狩り事務所に着いて一言。私は陰鬱そうに呟いた。この光景を見たら、誰だって溜息の一つでも着いて言いたくなるものだ。
眼前に広がる光景。それは扉を開けた時の、僅かな時間まで遡る。
私はいつも通り、硝級鎌の機嫌が悪くならないようにふらりと事務所に訪れた。軋む階段を上り、ドアを開いた途端にそれは起こった。事務所の中に、木を生やして育てたような……空間という空間に銀の糸が蔓延っていたのだ。
糸に見覚えが無いはずがない。なんせ“死体を狩る”時に氷室が出しているものなのだから。
「今度は何を着させたの?」
銀の糸が造り出した蔦の隙間をかいくぐりながら、指で突く。すると少しづつではあるが、開け放たれた棺の中に巻き戻されていく。なんとか全て仕舞われるのを待って、冥鬼の側まで来ると、中からほっそりとした脚が現れた。
白いハイソックスで包まれた、ニーハイ。棺の縁に手を添えて、半泣き状態で現れたのは氷室だった。
「せっ……せせせ先輩っ!!」
「似合ってんじゃん」
そう言って鞄から携帯を出し、パシャッと一つ。其れを見た氷室はあたふたとし、消してくれと言わんばかりに、腕を振る。
今の氷室の格好というのは、黒を基調としたメイド服。それも中世ヨーロッパのものではなく、パンチラ覚悟のミニスカート、つまりはメイド喫茶のメイドさんだった。
「恥ずかしいので……一刻も早く忘れて欲しいです……」
──
「お姉ちゃん……似合ってる」
「冥鬼さん……。恥ずかしいです……。そして皆さんの目が腐ってしまいます!!」
小さな男子が着替えた後にあらわれました。銀の、男の子にしては少し長い髪。黒の少年用タキシードが良く似合ってます。
その彼は小さな親指を立て、グッドマークを推してきますが……。
「恥ずかしいです」
─終─
「で、なんでこう君達は私にコスプレさせるのが趣味なの?」
私の死んだ目にも関わらず、三人の吸血姫達は喜々として様々な衣装を当てる。ナース、メイド服、チャイナ、ロリータ……上げていけばキリがない。
マーメイドドレスを翻し、また何着か腕に抱えて試す。何時まで続くのか。
「可愛いものにはそれ相応の格好を!! ですわ」
生気のない双眸の癖に、目の奥には爛々とした光が見える。御前達死人だろ?
なんだか抵抗するのも面倒臭くなって、私は以前氷室が着用していたメイド服を指さした。これで文句はないだろう。
「メイドさんにするから、もうこれ以上着せ替えするのは止めてね」
「かしこまりました!!」
クローゼットを開け放ち、氷室が着ていたようなフリル特盛り、スカート短い、滅茶苦茶派手、という三拍子揃ったロリータ風メイド服を引ったくると、私の元まで飛んで来た。
「では是非!!」
という訳で、かれこれ数分後。メイド喫茶でもあるまいに、白亜の城の中でメイドさんが1人出来ましたとさ。目なんか枯渇して、腐りきっているけれど。
それでも吸血姫達は気に入ったのか、ベタベタと張り付いてくる。
「硝級鎌に殺されんじゃないの?」
「御安心を!! 全て写真に収めて大量に送れば許して戴けますわ!!」
前途多難……。
──
「なんだ。似合っているじゃないか」
そう言ってメイドさんのまま硝級鎌に献上されましたとさ。あー笑えねぇ……。
硝級鎌は何時もよりも上機嫌で私にくっついてくる。開いたデコルテに顔を埋め、長いロングヘアが当たってくすぐったい。御前は猫か。
「まぁ個人的には露出度の少ないゴシックロリータが好みなんだが」
「意外。貴方好みとかあったんだ」
「汝に似合いそうだから」
こうしてあっさりと殺し文句をぶん投げて、その綺麗な顔にキスされた。
─終─