罅荊の思案
“新入り”、“素人”。この単語を聞いた時、どういった者かを想像するのは容易いだろう。
例えば、技術不足だとか、詰めが甘いだとか、まだまだ要領が悪いだとか。要は一般的に言って、“未熟者”なのだ。
今日も眼前に立ち竦む少女に向かってそんな事を考えた。私が考えたって、その少女の腕が上がる訳でもないのだが、つい脳内に点灯してしまう。
視線の先、ビスクへと変貌した脚や腕には、罅割れたような切り傷、擦り傷、掻き傷……上げていったら果てがない。そんな醜い傷跡が、陶器の肌を穢していた。
「また……ですか……」
深い溜息と共に仏頂面で相手を睨むと、相手もまた、怠惰な目に一滴の不快感を表して、此方を睨んでいた。現代稀に見る漆塗りの髪に、人形のように美しい顔立ち。それが今は不服そうに歪められている。
私は仕返しとばかりに鼻で笑うと、皮肉を投げ掛ける。
「睨む暇があるのなら、少しでも実力を上げて下さい。落ちこぼれ」
「分かってる……。アンタに言われるまでもなく、一番……」
「一人よがりも甚だしい。早く何とかしないと貴方、死にますよ?」
落ちこぼれ、つまり最近新しく入った“紅葉”と言う名の少女に、私は忠告する。
彼女が行っている仕事を手短に言うならば、狂暴なゾンビを狩るものだ。ゲームならばリセットされ、生まれ変わる事も可能だろうが、なんせこれは現実。ゲームのようにスムーズに行くはずも無く、死んだら其処で全て終わり。故に口調も厳しくなる。
私は持っていた蔦のようなものを彼女の脚に巻き付け、傷を癒していく。蛇のように絡んだ後、するりと抜き取れば傷は跡形もなく、元の柔らかさを取り戻していた。
「有り難う……」
疲弊し切った瞳で礼を言われた。両目には果てしない闇が見える。私は下唇を噛みしめると、彼女の扱っている武器のケースに目をやった。
この娘が今も尚生還出来ているのは、恐らく相棒である武器のお陰だ。死体を狩る為の道具、聖遺物。その中でも最強と恐れられる彼奴の……。
きっと彼奴無しでは間違いなく命を落としているだろう。この場に帰ってくる事もなく、戦場で骸と成り果てている。
私はじっと彼女の顔を凝視すると、僅かに首を傾けた。
「何? 罅荊」
「いえ、別に……」
そう言えば、彼奴は美しいものが好きだった事を思い出す。だが……でもそれならば先代はどうなんだ……?
─終─
やっとカケイちゃんの短編集が出せました~(*´∀`)
まだまだ未熟な紅葉を心配(?)してますね(´ー`)