ヴォルの主
二部に本格登場です!!
「退屈だなぁ……」
「それ、本日何度目ですか……」
『呆れてものも言えない』と言う風に顔全面に出すのは、秘書のヴォルだ。
外見は十八歳から二十代前半といったところ。性格は極めて真面目でしっかりしている。そもそも私の秘書を長年務められている時点で、周りの者共は『凄いことだ』とは仰け反っている。
しかし真面目過ぎて融通が利かないところが玉に瑕といった所。まぁ、この世に完全無欠の超人など有りはしない。というか多少欠点があった方が面白い。
「此処で日付の事を言うのは筋違いと言うものさ」
「左様で御座いました」
頬杖をついて横目でヴォルを見る。彼は畏まったように背筋を伸ばし、深々と頭を下げる。サラサラとした黒の短髪が僅かに揺れる。
私はヴォルから目を離し、机の上に開いてあった名簿録に目線を戻す。“名簿録”というだけあって、載っているのは隅から隅まで名前ばかり。『退屈ではないか?』と問われそうだが、これも仕事の一環だ。
「退屈ではありませんか……?」
「いいや。何も起こらないのは退屈だが、同志の顔と名前を一致させるのは、大切な上司の仕事さ」
「はぁ……」
ヴォルが溜め息をついた刹那、背後から殺気。五、四、三、二……。
一!!
タイミングを見計らい、側にあった杖で固い何かを弾き返す。背後から来たという事と、目線を書物に向けていたせいで、何かは不明だが、鉄の塊と言ったところか?
ちらりとヴォルを見ると彼は息を飲み、目を見開いていた。
「なかなか面白い事をする。だがね、ヴォルに当ててはいけないよ」
「ふんっ。そんなヘマは致しません~。退屈だと思っての奇襲ですぅ~」
声からよく見知った相手と判断する。ヴォルの顔の輝きからして、一人しか居ないだろう。
「狸爺、ヴォルを借りたいのです~」
「ヴォルは物じゃないよ」
振り返ると、私の同じ黒髪をツインテールに結いた子がいた。見かけはヴォルと変わらず、十八から二十歳前半。制服を着ている為に、何となく高校生に見える。
私はにっこりと微笑むと、ある提案をした。
「そうだな。“父さん”と呼んで……」
「誰が言いますかぁ~!! ヴォルはどうです?」
あからさまに睨み、すぐにヴォルの方へ向く。ヴォルは困ったように苦笑いをすると、ぽりぽりと頬を掻いた。
全く……娘の反抗期というのは……。
「インペラトルの了承を得ないと……」
「むー。ヴォルは私よりもこの狸爺の方が良いんですか~? そーですよねー。むー」
「行ってお出で。タナトスと共に行動してくれていた方が助かる事も多い」
そう笑顔で承諾すると、ヴォルは深々と頭を下げた。相変わらず真面目な子である。私はまた名簿録に目を戻すと、“さっさと行け”と言うように手を払った。
「では行って参ります」
ヴォルの声と共に会話に終止符が打たれた。
「して、待たせて悪かったな、聖」
─終─
ぶっちゃけ、上司にしたいキャラNo.1です、イ
ンペラトルは……!!
のほほんとした、でも見えない所で(滅茶苦茶)働いている上司に憧れます(*´∀`)
小ネタ
インペラトルはラテン語で“最高司令官”を意味します(・∀・)
もう一つ“インペラートル”があったのですが、長くてボツになりました(´・ω・`)