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短編集  作者: 横井雀
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水崎高校集合部/1

「自主勉部? 一応聞くけど活動内容は?」

 問われた皆瀬裁みなせさいはまるで読み上げるように、用意した口上を述べ始めた。

「授業が終われば、すぐに帰る部活です。そして、その帰宅してからは学業に専念し、さらなる学校生活の充実を目指します」

 言われた生徒会役員ははあ、とため息をついた。そして、こちらも定型文句のように提案してきた男子生徒に返す。

「それってつまり帰宅部ってことだよね?」

 彼は、反論しようと口を開けたが、すぐに何も発しないまま閉じてしまった。その様子を見ていた役員は、わずかに口の端を持ち上げると、

「じゃあ、認められないね。出直しておいで」

 無慈悲ともいえる一言を言い放ってそのまま去っていった。




「さーて、困ったな」

 皆瀬裁は自室の床に寝転ぶと、小さくそうつぶやいた。

 彼の入学した高校――水崎高校にはある変わった特徴があった。

 一応進学校となってはいるが、なぜか部活がものすごく多い。部活成立の手続きがゆるいので作りやすいことが原因と聞いたことがある。それに加えその種類も様々なものがある。

 ここまでは別に何の問題もなかった。別に部活いくつあっても知ったことではない。問題なのはその次だ。

 皆瀬は再び生徒規約の一番下に書いてある忌まわしき一行を読み上げた。

「生徒は必ずいずれかの部活に属するように、か」

 これが皆瀬にとって大きな障害になっていた。正直やりたいことなんてない。中学三年間帰宅部で通したので、高校でもそうするつもりだった。

 それがまさかこんな形で妨げられるとは――この高校を選んだことを皆瀬は後悔していた。

 やりたいことなんてない。どうせ、どこに入ってもめんどくさいだけだ。

(でもなんとかしないといけないんだよなぁ……)

 皆瀬は鞄から一枚の紙を取り出した。入学式が終わった時に配られた紙――全ての部活名が記されたその用紙を皆瀬はもう一度見直した。

 もう目に穴が開くほど見た。それでも、わずかな希望を込めて。

 なんとからくそうなところはないか。

 休みが多そうなところはないか。

 無い。もう一度見返す。無い……それを数回続けていた時だ。ふとある一つの名前が目に留まった。

 それは用紙の隅の方に、まるでその存在をひたと隠すようにひっそりと書かれていた。

「集合部……?」

 別に意図してみたわけではない。ただの偶然だ。だが、直感が告げていた。

 これは楽だ。



「集合部……ねぇ……」

 次の日の放課後、皆瀬は担任の男教師に集合部のことを聞いた。

 昨日、手持ちの資料を見てみたが何故か『集合部』なるものだけは、どこにも詳細が無かった。

 だから、少しでも情報が欲しかった。しかし、

「すまんなぁ。聞いたことない」

 彼は申し訳なさそうに頭を掻きながら言った。いつもう明るいジャージ姿が少し、しゅん、としているように見えた。

「部活のことなら生徒会に資料があるからなぁ。そっちに当たってみたらどうだ?」

「はい、ありがとうございます」

 途端担任教師は機嫌を良くし、よかった、よかった、といいながらどこかに行ってしまった。

「生徒会か……」

 昨日あんなことがあったから、相手にされるのだろうか。でもこれだけだ。行くだけ行ってみよう。

 皆瀬はカバンをとってくると、そのまま教室を出た。



 道を聞きながらも、なんとか生徒会室に着くと皆瀬はそのまま中に入った。

 部屋の中央には大きめの丸テーブルが一つ。それを囲むように椅子がいくつか置いてある。その椅子を整頓していた人物が顔を上げた。

「おや、どうかしたのかい。生徒会室に入ってくるなんて」

 昨日こっぴどく言われた人ではない。優しそうな男子生徒だ。

 それに皆瀬には彼に見覚えがあった。入学式の時に生徒会長の代理で喋っていた人だ。

 確か、藤中という名前だったか。面倒だが先輩にあたるので、敬語を使わねばならない。

「たぶん君は一年生だと思うけど……生徒会に興味でもあるのかな?」

「あの、集合部について教えてもらいたいのですが」

 その瞬間、彼の表情が変わった。優しそうな雰囲気から一転、

「残念ながら、その資料はここには一切ないよ。用事はそれだけかい?」

 物腰こそ変わっていないものの、明らかに言葉には棘がある。まるで早く立ち去れと言わんばかりに。

「はい、ありがとうございました」

 皆瀬はすぐさま背を向けると、逃げるように生徒会室を去った。もう頼る当てもなくなったので、廊下をぶらぶらと歩き始めた。

(結局わからずじまいか……)

 先生も知らない。頼みの生徒会も対応してくれない。どういうことだろうか。いや、まさか……。

 もしかしたら昨日見た物は幻だったのではないのだろうか。だったら先生も知らなくて当然だ。

 そうだ、結局はそんなものなかったのだ。ただ、楽をしたいという自分が見た幻影だったのだ。

 そのまま諦めてしまおうか。そう思った時、救いの手が差し伸べられた。

「やあ、そこの君、何かお困りかな」

 突然声をかけられて、皆瀬は驚いてそちらを振り返った。

 廊下の壁にもたれかかって、一人の男子生徒が立っている。

 ただそれだけならば足を止めなかっただろう。

 その手にはどこから持ってきたのかティーカップが握られている。それだけならマシだ。いや、ましだった。

その頭に目を向けるとそこにはシルクハットが乗せられていた。どう見ても学校という空気に適さない。

「……誰ですか?」

「ただの悩み相談役だ。謎のおじいさんとでも……いや、おじいさんという年ではないな。謎のお兄さんとでも、呼びたまえ」

 そういって彼は手にしたティーカップを口に運ぶ。

 どうせ他に頼る当ても無いんだ。この人に言ったところで何も問題はない。

「あの集合部について教えて欲しいのですが」

 そんなものはない――そう言われることはわかっている。ダメ元だ。でも、ここできっぱりと無いと言われたら諦められる。諦めさせてくれ。

 しかし、そんな皆瀬の予想は彼の言葉によって裏切られた。

「ああ、集合部を探しているのかね。それはさぞ苦労しただろうね。でも私に会ったならもう安心だ。教えよう」

 一瞬皆瀬は動けなかった。すぐにその言葉を飲み込めなかった。

「本当にあるんですか?」

「ああ、あるよ。ちゃんと部活動の一覧に書いてあるではないかね」

 よかった幻じゃなかった。自分が見たことは本当だったのだ。

 やっと、手がかりにたどり着いた。

「して、君は何を知りたいのかね?」

 知りたいことは色々ある。でもまずは先ほどのことが知りたかった。

「何で生徒会の人は情報なんて無いっていったの?」

「それは、集合部自体が嫌われているからだよ」

 そう言うと彼は手のカップを口に運んで、何かを飲んだ。

 焦らすようにその様子を皆瀬がじっと見ていると、

「ハーブティーだ。いるかね?」

「いりません。それより理由を教えてください」

 露骨に残念がり、おいしいのになぁと呟くと、彼は真面目な顔に戻って、

「集合部の活動自体がほとんど帰宅部とそう変わらないのだよ。ここ、水崎高校では無所属及び帰宅部は校則違反になるからね。つまり彼らは校則ぎりぎりなのだよ」

「それで、その活動内容って何ですが?」

「残念ながら私の口ではこれ以上の助言はできない。それは君自身で確かめねばいけないことだ」

 すると、彼は懐から紙を取り出した。そしてそれを皆瀬に差し出す。皆瀬はその紙を受けとった。

「それは集合部に関する情報だ。そこに行けばわかる、行かねばわからぬ……どちらにするかは君が決めたまえ」

 紙にはいろいろなことが書かれてあった。活動場所、時間……これ一枚あれば大丈夫そうだ。

「では、私は他の悩める者のもとへと旅立たねばならない。また巡り合えば」

 すると、彼はどこへ、というでもなく歩き始めた。カツ、カツ、という足音が聞こえていたが、それもやがて小さくなってやがては消えた。

 変わった人だ。

 結局名前も名乗らなかった。ほんとうによくわからない人だ。ただ、いろいろ教えてくれたことには感謝している。

 手元の紙切れを再び見た。特にいつでも部室は入れるみたいだ。

(行くか行かないか……か)

 行くに決まっている。せっかく掴んだ手がかりだ。これを無駄にしてたまるか。



 翌日の放課後、皆瀬は、あの謎の人に渡された紙通りの教室に行った。

 教室を出て3階に上る。そして放送室の横の教室に入った。そこには一人、男子生徒がいた。

「見学に来たんですけど」

「放送部なら隣だよ。教室を間違えていないかい?」

「いいえ、集合部に入部したくて来たんですけど」

 すると、その彼は意外そうに眉根を上げた。

「よくわかったねぇ。生徒会は情報を出してくれないのに」

「はい、ティーカップを持っている人に教えられて」

 彼はその人物を聞くとため息を吐いた。あの人を知っているのだろうか。しかし皆瀬がそれを聞く前に、

「何はともあれそれならよかった。俺は部長代理の島見周作。今部長は入院中だから俺が代わりにやってるんだ。よろしく……ええと」

「皆瀬裁です」

「うん、裁くんだね。じゃあ、これ入部届だから」

 そう言って紙を手渡した。それを受け取りながら皆瀬は。

「活動ってどんなことをするんですか?」

「何をやっても大丈夫だよ。ここ――部室にすら来なくてもいい。だから、毎日来る人もいるし、逆にほとんど来ない人もいる」

 皆瀬はなるほど、と内心頷いた。確かにこれならば帰宅部とそう変わらない。たぶん俺もあんまり行かないだろう。

「ただ、一ヶ月に一回、全員で集まる日があるからその日は必ず来ること。そこのカレンダーに赤いしるしがついているから後で確認しといてね」

「それに行かなかったら……どうなるんですか?」

 島見は、詳しいことは知らないけど、と前置きすると、

「部長次第だけど、下手したら強制退部。気を付けてね」

 取りあえずはその日には出たほうがよさそうだ。ここの所属を失ったら、本当に面倒なことになる。

「じゃあ俺はもう帰るから、君はどうする?」

「あ、帰ります」

 やっと何とかなった。まあ、どうせ行かない。そもそも行く意味はない。そう思いながら皆瀬は教室を後にした。


こんばんは。かなりあです。

読んでくださる方に理解されているか不安なこの頃……気づいたことがあれば諸注意を更新していきますので、よければ見てください

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