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マスター・キー  作者: notsomuch
Side1:Hasegawa
6/6

屋上にて

「……目立ちすぎだから」


ジト目で私達を睨みつつ、岩戸先輩は溜め息をつく。私と黒野くんは学校の屋上で、二人仲良く正座中。伊藤くんは先程までの勢いはどこへやら、私達の後ろですっかりぐったりしている。小森先輩にやられたのだ。目から生気が失われている。


学校の屋上に降り立った私達は、長距離の『飛行』にも動ぜず暴れる伊藤くんを持て余し、取り合えず先輩二人にメールを送ってみた。数十秒後、この屋上に二人は突然降り立った。空から。速い。どういう仕組みなんだろう。詳しくは知らない。


その後詳しい事情を聞いた岩戸先輩によって、私達は正座させられている。コンクリート硬い。


「取り合えず記憶の修正しねぇとな……」


小森先輩も彼女の隣で不機嫌そうに呟く。そして懐から何か小さな袋を取り出し、ほれ、と岩戸先輩に渡す。


未だ不満顔の岩戸先輩だったが、渋々その袋を受け取り、屋上の入口に向けて歩き出す。私達には見せたくないのだろうか。何だろう。私達が知っているのは、岩戸先輩と小森先輩に任せておけば、なんでも大丈夫だと言う事だけ。そしてそれで、充分なのだ。


「しっかし長谷川、お前痛かっただろ。 空気抵抗とか」


岩戸先輩が屋上の入口のドアに消えたのを見送り、小森先輩はふと思いついたように尋ねる。


「あ、僕が一時的に掛けましたから」


黒野くんが答える。平静を装っているが、岩戸先輩に叱られたショックはまだ抜けきっていないようで、その顔には元気がない。


「ああ……。……ん? あれ、伊藤はどうした?」


ぐったりする伊藤くんをチラリと見遣りつつ、質問を重ねる。


「え、あ、いや、伊藤にも……」


うろたえるな、黒野くん。


「馬鹿かお前は。それで飛行中に暴れられたらどうするつもりだったんだよ……」


呆れ顔で黒野くんを嗜める小森先輩。最近よく呆れられるなあ。


対する黒野くんはさらに頭を項垂れ、すいません、と小さな声で謝る。可哀想。フォローを入れなければ。


「いやでも小森先輩、黒野くんが居なければ今頃」


「どっちにしろ目立ってるけどな」


確かに。……ああ足痛い。痺れがピークに達している。


「まあいいさ、結局伊藤は暴れなかった訳だしな。暴れててもまあ、二対一なら多分勝てただろ」


それはそうかもしれない。一時的とはいえ三人とも、身体能力だけで言えば同等、地球最強になってたんだから。単純に数で言えば、勝てるはずだ。


「伊藤は、誰に――」


小森先輩が何か言おうとした時、


「終わった」


入口のドアが開いて岩戸先輩がスカートを翻して再登場し、小森先輩に例の小袋を投げ渡す。得意顔だ。


「建物の修復はやったか? こいつら窓破ってただろ。あと道路の陥没も」


あ、という表情を浮かべる岩戸先輩の手に、小袋が投げ返される。私達をまた軽く睨みつつ、ドアの向こうに消える。横を見ると黒野くんが涙目になっている。負けるな、黒野くん。


ところで私の足はというと、ああ今立ち上がったら凄い痺れだろうなあ、と思う程に感覚が無くなっている。嫌だなあ。


「……伊藤は誰に操られていたんだろうな」


小森先輩が不意に真面目な顔になり、話題を急転換する。


そう、誰に操られていたのか。


「俺の知ってる限りでは、触れないで能力を発動する事は不可能だ。いや、できるにはできるが、その手段は俺と岩戸が所持している」


多分それは。


「見当がついてるだろうから言うが、まあさっきのあの小袋だな。操った術師に奪われていたなんて事はない。俺と岩戸で守っている限り絶対に安全だ」


例えどんな術師でも、触れられなければ、その効果を発動できない。私の読心術も、黒野くんの超人化も。


そしてまた、先輩二人から何かを奪うなんて、どう考えても不可能だ。それは私が一番良く知っている。


「伊藤の様子がおかしくなったのは店内でしたが――伊藤に触れた人物は、僕が知る限りではいません」


黒野くんが断言する。


「そうか。じゃあ――」


小森先輩が何か言いかけた所で、


「終わった」


入口のドアが再び開き、岩戸先輩が軽快な足取りで再再登場する。そして再び小袋を投げ渡す。自慢気だ。


「おう、お疲れ」


小袋を受け取った小森先輩は、それを無造作にポケットに入れる。菅理甘くないですか?


「話進んだ?」


「お前が度々颯爽と登場するから進まない」


しゅんとする岩戸先輩。可愛いなあ。なんて思ってたら、しゅんと項垂れた頭をわざわざ上げてまで睨まれた。力を使ってではないはずだから、気配を読んだのだろうか。慌てて目を逸らした。


「じゃあ、なんですか?」


黒野くんが促す。


「じゃあ……まあ面倒だからいいや」


なんだそれ。そう思っていると、


「小森。取り合えず伊藤くんを起こしてみようか」


ぐったりとしている伊藤くんを見遣り、岩戸先輩が提案する。ついでに君らも正座解いていいぞ、と付け加えてくれた。助かった。と思って立ち上がると、ふらふらする。そして痺れる。隣の黒野くんは平然としている――当たり前だ。黒野くんなんだから。


岩戸先輩の提案に、そうだな、と軽く返答し、小森先輩はつかつかと伊藤くんに歩み寄る。そしておもむろに、その右手を彼の額にそっと当てる。


伊藤くんの目に少しずつ生気が宿っていく。私は足が痺れるのを我慢し、黒野くんに支えられながら、伊藤くんに近づく。岩戸先輩がその後ろに続く。


「……あ、あれ?」


伊藤くんから困惑の声があがる。正気に戻った様子だけど……。目を擦る彼の額に、軽く触れる。訳が分からないといった顔だが、説明も面倒臭い。


手を離す。


「大丈夫です。正気みたいです」


ちゃんと心が読めた。


「一旦切断すると術もやっぱり切れるみたいだな。パソコンの再起動みたいなもんか」


何やら呟く小森先輩を横目に、今度は岩戸先輩が彼の額に触れる。


「悪いね」


岩戸先輩が呟いた直後、伊藤くんが再び倒れた。眠っているように見える。


記憶修正したのか、と何でもなさそうな顔で尋ねる小森先輩に、そう、と短く答えている。


うーん、と背伸びする二人。


「もう夜だし俺ら帰るわ」


じゃ、と手を上げる小森先輩。あれ?


「え、伊藤くんは……」


放って帰っちゃうのか? 突然の帰宅宣言に慌てる。


「運んどいて。家に」


彼を真似し、じゃ、と無表情で手を上げる岩戸先輩。


「え、ちょ、家、知らなっ――」


黒野くんが叫んだのは――二人が夜空に飛び立ってしまった後だった。ジャンプっていうか、本当に飛んでった。ビューンって感じで。どうなってんだろ。本当。


古びた校舎の屋上に虚しく響き渡る嘆きの声。一階の用務員室に、果たして聞こえただろうか。見つかったらまずいよなあ。


「……運ぶか……力、掛けてやるから、二人で片方ずつな……」


「……そうだね……というか家探さないとね……」


私達は肩を落としつつも、伊藤くんを抱え、思いっきり夜空へと跳んだ。とりあえず、どこか落ち着ける場所が無いとなあ。


あれ、何か、忘れているような。


あ。


黒野くんが跳んだ後、道路、陥没してたよなあ。って事は……。あんまり厚くないだろうし……。貫通するかも……?


まあ、いいか。家、探さないと。


そして翌日、校舎の二階から屋上にかけてでかでかと空いた大穴が一つ、発見される事となる。


不定期更新だなあ。

先輩 って名前の後につけるの面倒だし鬱陶しいなあ。

彼とか彼女使うのも限界あるし。

早く長谷川サイド終わらせよう。

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