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王権を失った世界1位は、レベル1で贖罪する  作者: マコPON


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7/10

第7話 囮と守護

ここまで読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。


第7話では、黒斗が初めてパーティの中で「役割」を持つ回になります。


これまでの黒斗は、強さで他者を押し潰す側の人間でした。

しかし今はレベル1。


武器も使えず、攻撃も通らない。


そんな状況で、彼が選んだのは「囮」という役割でした。


ただし、それは単なる自己犠牲ではありません。


この回では、アリシアの言葉を通して

「守ること」と「自己犠牲」の違いが少しだけ描かれています。


小さな戦闘ですが、黒斗にとっては大きな一歩になる場面です。

朝のリュミエール。


ギルド掲示板の前には、初心者たちが集まっていた。


木の掲示板にはいくつもの依頼書が並んでいる。


採取依頼。

配達依頼。

迷子のペット探し。


そして――討伐依頼。


ダリオが一枚の紙を指差した。


「これどうだ?」


マルクが丸眼鏡を押し上げる。


「ゴブリン討伐ですね」


依頼内容は簡単だった。


リュミエール周辺で確認されたゴブリン群れの排除。


推奨人数:パーティ。

推奨レベル:十前後。


初心者向けの依頼だ。


レイが短く言う。


「……多い」


ダリオが笑う。


「嫌か?」


レイは首を振る。


「別に」


アリシアが黒斗を見る。


「黒斗さんはどう思いますか?」


視線が集まる。


黒斗は掲示板ではなく、その奥の森を見ていた。


地形。


風。


モンスターの習性。


かつて何度も通った知識が、自然と頭に浮かぶ。


やがて黒斗は言った。


「ゴブリンは群れる」


マルクが頷く。


「はい」


黒斗は続ける。


「討伐依頼が出る時点で」


少し間。


「群れは一つじゃない」


マルクの目が少し開く。


「なるほど……」


ケインが腕を組む。


「数が多い可能性か」


黒斗は頷いた。


レイが言う。


「問題ない」


短い言葉だった。


このパーティ唯一の前衛。


ストライカー。


ダリオが笑う。


「頼もしいな」


マルクは少し困った顔をする。


「ですが」


「火力は足りません」


事実だった。


このパーティは支援職が多い。


プリースト。

ガーディアン。

エンチャンター。

バード。

クラフター。


純粋な火力はレイだけ。


アリシアは少し考え、依頼書を剥がした。


「やってみましょう」


ケインが頷く。


「俺が前に出る」


ダリオ


「俺も殴る」


エリナ


「支援します」


マルク


「補助魔法を準備します」


レイ


「……斬る」


黒斗は小さく頷いた。



街を出る。


草地を抜ける。


森が近づく。


黒斗は歩きながら周囲を見ていた。


風。


草の揺れ。


音。


そして言う。


「……いる」


レイが聞く。


「どこ」


黒斗


「前」


草が揺れた。


ゴブリン。


一体。


そして。


二体。


三体。


さらに奥から現れる。


ダリオが呟く。


「多いな」


ケインが盾を構える。


「来るぞ」


ゴブリンが叫ぶ。


戦闘が始まった。



棍棒が振り下ろされる。


ケインが盾で受ける。


衝撃。


ダリオが叩く。


だが倒れない。


レイが斬る。


浅い。


ゴブリンがまだ立っている。


マルクが呟く。


「エンチャント」


光がケインの盾を包む。


エリナの歌が響く。


「ブレイブソング」


旋律が広がる。


アリシアが祈る。


「ヒール」


傷が閉じていく。


だが。


数が多い。


ゴブリンは五体。


包囲が狭まる。


レイが言う。


「多い」


ケインが押される。


ダリオが叫ぶ。


「囲まれるぞ!」


黒斗は動かない。


ただ見ている。


ゴブリンの動き。


視線。


距離。


そして言った。


「囮が必要だ」


戦闘の中。


その声は静かだった。


ケインが振り向く。


「危険だ」


レイ


「俺がやる」


黒斗は首を振る。


「いや」


「俺だ」


レイが睨む。


「戦えないだろ」


黒斗


「問題ない」


レイ


「は?」


黒斗


「死ぬつもりは無い」


少し間。


「囮には向いてる」


そして黒斗は走った。



ゴブリンの群れへ。


棍棒。


石。


爪。


襲いかかる。


棍棒が肩に落ちる。


骨が軋む。


痛覚が神経を焼く。


だが。


黒斗は倒れない。


グレイヴン荒原。


クロウビーストの牙。


サンドランナーの突進。


何度も。


何度も。


死んだ。


この痛みは。


もう知っている。


黒斗は叫ぶ。


「こっちだ!」


ゴブリンが追う。


走る。


森の中。


そして。


曲がる。


ケインが盾を構えていた。


「今だ!」


レイが飛び出す。


剣が走る。


一体。


首が落ちる。


ダリオが叩く。


マルクが魔法を放つ。


黒斗は叫ぶ。


「右!」


レイが動く。


ゴブリンの短剣が空を切る。


「ケイン、半歩下がれ」


盾がずれる。


ゴブリンが踏み込む。


「今だ」


レイが斬る。


二体目が倒れる。


最後のゴブリンが逃げる。


レイが追う。


一閃。


戦闘は終わった。



ダリオが息を吐く。


「終わったな」


アリシアが黒斗に近づく。


「ヒール」


淡い光が黒斗の肩を包む。


裂けた皮膚がゆっくり閉じていく。


アリシアは静かに言った。


「黒斗さん」


黒斗


「……?」


アリシア


「さっきの行動ですが」


少し間。


「守る行動ではありません」


黒斗の視線がわずかに動く。


「……?」


アリシアは続けた。


「自己犠牲です」


黒斗は短く言う。


「結果は同じだ」


アリシアは首を振った。


「違います」


森の風が葉を揺らす。


ケインも。

マルクも。

何も言わない。


ただ聞いている。


アリシアは続けた。


「自己犠牲は」


「誰かを守ることじゃありません」


少し間。


「一人で背負うことです」


黒斗は黙る。


アリシアは優しく言った。


「守るって」


「一人でやることじゃありません」


沈黙。


黒斗は答えない。


だが。


その言葉は胸に残っていた。



暗転。


音のない空間。


文字が浮かぶ。



《観測対象:黒斗》


《戦闘ログ解析》


・被弾回数:7

・囮行動:確認

・他者防衛:確認



《行動分類》


自己犠牲傾向:確認

守護行動:判定保留



《倫理修復可能性》


42% → 43%



《観測継続》



森の風が戻る。


黒斗はそれを知らない。


ただ。


少し離れた場所から。


パーティを見ていた。

第7話を読んでいただき、ありがとうございました。


今回の話では、黒斗の戦い方に少し変化が出始めています。


かつての黒斗は、圧倒的な力で戦場を支配するプレイヤーでした。

ですが今は、戦うことすらできません。


それでも戦場に立つ以上、何かできることはある。


その一つが「囮」という役割でした。


そしてもう一つ、この回で重要なのは

アリシアが黒斗に伝えた言葉です。


自己犠牲と、守ることの違い。


黒斗がその言葉をどう受け取るのかは、まだ分かりません。


ただ少なくとも、彼の中に何かが残ったのは確かだと思います。


ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

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