第6話 黒猫と七人のパーティ
第6話です。
黒斗は居場所を失ったまま、灯火の街リュミエールを出ようとします。
そこで出会うのは、少し変わった六人の初心者パーティ。
強くはない。
効率も悪い。
それでも――
黒斗が今まで出会ったことのない人たちでした。
今回は「小さなクエスト」と「七人の始まり」の話です。
ゆっくり読んでもらえると嬉しいです
朝の空気は冷たかった。
初心者の街リュミエール。
昨夜の賑わいが嘘のように、通りはまだ静かだった。
黒斗は街の外れの石段に座っていた。
一晩、ほとんど眠っていない。
頭の中に残っているのは、昨夜の光景だった。
ギルドの視線。
怒り。
恐怖。
そして――
「ありがとう」
自分の口から出た言葉。
あれは、本当に自分が言ったのか。
黒斗はゆっくり息を吐く。
視界の端に小さな表示が浮かぶ。
空腹値 61%
ゆっくりと減っている。
だが、気にするほどではない。
それよりも胸の奥の重さの方が大きかった。
黒斗は立ち上がる。
街の外へ向かうつもりだった。
この街にいる理由はない。
装備不可。
武器使用不可。
攻撃ダメージ0。
戦えないプレイヤーがここにいても意味はない。
その時。
背後から声がした。
「少し、いいですか?」
振り返る。
六人のパーティだった。
男三人。
女三人。
初心者装備だが、雰囲気が落ち着いている。
先頭の女性が一歩前へ出た。
長い髪を後ろでまとめている。
「昨日、アルカディアにいましたよね」
黒斗は答えない。
女性は軽く頭を下げた。
「私はアリシア」
「プリーストです」
回復専門の支援職。
隣の男が腕を組む。
体格のいい男。
「ケイン」
「ガーディアン」
盾役の防御職だ。
丸眼鏡の男が手を上げる。
「マルクです」
「エンチャンター」
味方に強化魔法をかける支援職。
大柄な男が笑う。
「ダリオ」
「クラフター」
アイテム生成や修理が得意な生産職だ。
小柄な女性が静かに頭を下げる。
「エリナです」
「バード」
補助魔法と回復を扱う支援職。
そして最後。
少し離れて立っている少年。
短い髪。
鋭い目。
「レイ」
それだけ言った。
少し間を置き。
「ストライカー」
近接火力職。
このパーティ唯一の純アタッカーだった。
黒斗は一瞬で理解する。
支援過多。
火力不足。
典型的な初心者構成。
ダリオが苦笑する。
「見て分かると思うけどさ」
「俺ら火力が足りないんだよ」
マルクが肩をすくめる。
「敵が全然倒せなくて」
レイが言った。
「弱いパーティ」
空気が止まる。
だがアリシアは微笑む。
「でもレイ君は残ってくれてます」
レイは顔を逸らす。
「別に」
「この人たち」
少し間。
「放っておくと危ないから」
エリナが小さく笑う。
「優しいですね」
「違う」
レイはすぐ否定する。
黒斗はそのやり取りを黙って見ていた。
居心地が悪い。
この空気。
昔の自分が一番嫌っていた種類のものだ。
レイが黒斗を見る。
「で」
「入るの?」
突然の言葉だった。
黒斗は少し考える。
行く場所はない。
そしてこのパーティは――
弱い。
昔の自分なら絶対に選ばない。
だが。
黒斗は言った。
「……いい」
アリシアが微笑む。
「ありがとうございます」
こうして。
七人パーティが出来た。
⸻
最初のクエストは単純だった。
迷子の黒猫を探す。
初心者クエスト。
レイがため息をつく。
「マジかよ」
「これチュートリアルだろ」
ダリオが笑う。
「まあまあ」
マルクが言う。
「手分けしましょう」
「黒斗さんと一人ずつ」
黒斗は理解した。
五人は、順番に黒斗と歩いている。
偶然ではない。
話しているのは一人だけだが、
残りの四人は少し離れた場所から様子を見ている。
何も言わない。
だが視線は外さない。
黒斗は思った。
(……試されてるのか)
⸻
最初に一緒に探したのはケインだった。
街の裏路地。
木箱の影を覗く。
ケインが言った。
「昨日のこと」
黒斗は黙る。
ケインは続ける。
「何をしたか知らない」
「でも」
少し間。
「今どうするかの方が大事だ」
黒斗は言う。
「俺は」
少し迷う。
だが。
言った。
「プレイヤーを潰してきた」
ケインは黙って聞く。
「ギルドも」
「何個も」
ケインは短く言う。
「そうか」
それだけだった。
⸻
次はマルク。
マルクは言う。
「人って」
「失敗する生き物なんですよ」
黒斗は黙る。
「大事なのは」
「そこからどうするか」
黒斗は小さく言う。
「……変われると思うか」
マルクは即答した。
「思います」
迷いはなかった。
⸻
三人目。
ダリオ。
井戸の近く。
ダリオは笑う。
「難しいことは分からん」
「でもさ」
「謝れる奴は嫌いじゃない」
黒斗は言う。
「許されないこともある」
ダリオは頷く。
「あるな」
そして言う。
「でも生きるしかない」
⸻
四人目。
エリナ。
花壇の近く。
エリナは優しい声で言う。
「人って」
「やり直せると思うんです」
黒斗は黙る。
「時間はかかりますけど」
「きっと」
⸻
最後。
アリシア。
静かな裏庭。
アリシアは言う。
「全部聞きました」
黒斗は言う。
「隠す意味がない」
アリシアは微笑む。
「私たちは」
「過去で人を決めません」
「見るのは――今です」
黒斗は黙る。
胸の奥がわずかに揺れる。
⸻
その時。
声が響く。
「いた」
レイだった。
黒い猫を抱えている。
暴れる黒猫。
レイが言う。
「クエスト終わり」
ダリオが笑う。
「早いな」
レイは黒斗を見る。
「言っとくけど」
「俺は信用してない」
黒斗は何も言わない。
レイは続けた。
「この人たち」
後ろを見る。
「全員受け入れるんだよ」
小さく舌打ち。
「甘い」
沈黙。
アリシアは微笑む。
「それでいいんです」
レイは呆れる。
「ほんと」
空を見上げる。
「強くなれないパーティだよ」
誰も怒らない。
黒斗はその光景を見ていた。
理解できない。
だが否定もしない。
胸の奥で何かが動く。
黒斗は小さく呟く。
「……変われるのか」
誰にも聞こえない声だった。
⸻
灯火の街リュミエール。
黒猫を探すだけの小さなクエスト。
だが。
その日。
黒斗は、奇妙な感覚を覚えていた。
理解はできない。
だが――
否定もできなかった。
弱いはずのパーティ。
それでも。
その背中は、不思議と前に進んでいた。
黒斗は黙って歩く。
灯火の街リュミエールの朝の中を。
七人の足音が、静かに重なっていく。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回は黒斗が新しいパーティと出会う回でした。
この六人は、黒斗がこれまで関わってきたプレイヤーとはまったく違うタイプの人間たちです。
そしてその空気は、黒斗にとって決して居心地のいいものではありません。
それでも彼らと過ごす時間の中で、少しずつ黒斗の中に変化が生まれていきます。
このパーティが黒斗に何を与えるのか。
そして黒斗が彼らに何をもたらすのか。
その関係は、ここからゆっくりと動いていきます。




