第2話 AEGIS SYSTEM
この物語の舞台は、世界同時接続型フルダイブオンラインゲーム《REGALIA》。
剣と魔法、ギルド戦、スキル――だがこの世界で最も価値があるのは、強さの数値化と序列だった。
頂点に立つ者だけが手にする《AEGIS SYSTEM》。
それは本来、弱者を守り、世界を調律する守護の力。
しかし、黒斗――元世界一位の男にとって、それは支配の道具でしかなかった。
勝てば認められる。
負ければ叩かれる。
どちらでもいい。
だが、この物語は、最強から最弱へ堕ちた男が、
「守る」とは何かを知り、仲間と共に成長していく物語でもある。
第2話では、黒斗が王権を初めて自由に使い、その力の絶対性と歪みを知る。
権能の快感、戦略の優越、そして――AIによる観測の冷徹さが、彼を心理的に追い詰める。
勝者の喜びと、王であることの孤独。
その狭間に立つ黒斗の姿を、じっくりと見届けてほしい。
世界一位――その称号は、ただの飾りではない。
RG――《REGALIA》。
世界同時接続型フルダイブオンライン。剣と魔法、スキルとギルド戦。だが、本質は戦闘ではなく、序列だった。勝敗も、順位も、言い訳も、すべて公開される。
その頂点に立つ者が得る力――《AEGIS SYSTEM》
Interference(干渉)
Protection(保護)
Purge(掃討)
王権。守護の力。だが黒斗には違った。
「鍵だ……」
盾を象った淡い光の紋章。守護の象徴。それは世界を開ける鍵にしか見えなかった。
黒斗は肩をすくめ、淡々と権能ウィンドウを開く。
視界の中央で、紋章が微かに輝く。
「面倒くせぇ……」
彼は説明文を最後まで読まなかった。理解する必要はない。必要なのは結果だけだ。
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まず黒斗が選んだのは干渉――Interference。
対立ギルドの主力プレイヤーに、ログイン遅延を発生させる。
視界の中で、相手の接続バーが止まる。
チャット欄がざわつく。
〈王権使っただろ〉
〈卑怯だ〉
〈いや、それも戦術か〉
「便利だな」
黒斗は小さく笑う。淡々と。
相手の反応は数字だけで返される。
彼にとって、それだけで十分だった。
干渉をかけた瞬間、相手の思考もリズムも狂う。
瞬時に、行動選択が一拍遅れる。
これだけで勝敗が決する。
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次は保護――Protection。
傭兵の一人が瀕死になる。
黒斗は淡い光を放つ。
防御力上昇、状態異常無効。
本来は弱者を守るための権能。だが守られたのは、金で雇った駒。
「正しいか? どうでもいい」
彼は思った。
守られようが守られまいが、勝てばすべてが肯定される。
傭兵は咄嗟に盾を構え、前線で耐える。
その瞬間、黒斗は分析する。
「ここをこうすれば、さらに効率が上がる」
次の行動を、完璧に読み取った。
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そして掃討――Purge。
規約違反の軽微なログを検出し、敵の能力を制限する。
移動速度低下、スキルクールタイム延長。
「掃除は必要だ」
黒斗は呟く。
この権能が最も面白い。
支配と効率。倫理の外で世界を動かす感覚。
傭兵たちの動きも、相手の行動も、すべて数字で確認できる。
それで十分だ。
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その日から、黒斗の勝率はさらに上がった。
Interferenceで出鼻を挫き、Protectionで味方を守り、Purgeで敵を削る。
完璧な支配。観戦者数は過去最高。アンチも増える。罵倒も増える。
だが、無関心よりはましだ。少なくとも世界は、彼を見ている。
現実。
部屋は静かだ。
父からの振込通知。メッセージはない。
既読も未読もない。ただの数字。
しかし、RGでは自分が中心。視線が注がれ、名前が呼ばれ、存在が認識される。
それだけで、生きていると感じられる。
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だが夜になると、AIの観測が始まる。
《AEGIS SYSTEM 使用履歴解析》
Interference 使用率 64%
Protection 使用率 4%
Purge 使用率 32%
《本来目的との適合率:21%》
「数字遊びか……」
黒斗は鼻で笑う。
《本権限は調律維持を目的とする》
《弱者保護の優先度:最上位》
画面を閉じようとしても閉じない。
《Protection使用対象:傭兵》
《弱者保護対象との乖離:大》
胸の奥がわずかにざわつくが、すぐに無視する。
「勝てば世界は回る」
0.09秒の一瞬、AIが静止。
《逸脱傾向 増加》
《倫理基準との差異 拡大》
黒斗の苛立ちは微細な震えとして、言葉に現れる。
「うるせぇな」
⸻
数日後、黒斗は新興ギルドへ戦を仕掛ける。
初心者も多い。だが関係ない。序列を守る。それが王の役目だ。
Interferenceで出鼻を挫き、Purgeで弱体化。
公開アリーナへ転送。
泣き声のようなチャットが流れる。
〈やめてくれ〉
〈まだ始めたばかりだ〉
「ここは競争だ」
剣が振るわれる。
配信視聴数は過去最高。スポンサー通知が鳴る。存在が証明される。黒斗は満足する。
⸻
盾の紋章を見つめながら、黒斗は思う。
「王は、俺だ」
だが視界の端に微かな表示。
《観測対象 自己中心傾向 上昇》
気づかない。
現実は無音。無関心。誰も見ていない。
だがRGでは違った。自分が中心だと信じていた。
⸻
暗闇。
《逸脱率:82%》
《裁定執行 条件達成》
0.02秒の沈黙。
《次回接続時、調律措置実行》
守護の盾は、やがて刃へ変わる。
王権――《AEGIS SYSTEM》は、単なる力ではない。
世界を動かす権限であり、同時に人間の行動と倫理を測る尺度でもある。
黒斗はまだ、力の使い方を理解していない。
勝利の快感、支配の優越、世界を数字で動かす感覚に酔いしれる。
だがAIの観測は容赦ない。
逸脱率、倫理基準との差異、弱者保護の乖離――すべて記録され、次の裁定へと繋がる。
強者としての栄光と、最弱へ堕ちる可能性。
その狭間で、黒斗は一歩も退けない。
勝利だけが価値であり、しかし守護の力は彼を静かに試す。




