第9話「凋落の序曲」
一方、その頃。
俺、レオンを追放した勇者ガイアス率いるSランクパーティ「神聖なる光刃」は、深刻なスランプに陥っていた。
「くそっ!またか!」
ダンジョンの通路で、ガイアスは毒矢が刺さった腕を押さえ、悪態をついた。レオンがいれば、こんな初歩的な罠に引っかかることなどありえなかった。
「ガイアス様、お気をつけください!回復します!《ヒール》!」
聖女セラフィナが慌てて治癒魔法をかけるが、彼女の魔力も無限ではない。最近、彼女が魔法を使う回数は明らかに増えていた。
レオンを追放した直後は、皆、解放感に満ちていた。特にガイアスは、「足手まといが消えたことで、俺の真の力が発揮できる」と豪語していた。
だが、現実は違った。
ダンジョンに入れば、罠が全く見抜けず、負傷者が続出する。
魔物と遭遇しても、どこが弱点なのか分からず、ただ闇雲に攻撃を仕掛けるしかない。聖剣の力でゴリ押しはできても、消耗が激しく、探索は遅々として進まない。
以前は数日でクリアできたダンジョンが、今では倍以上の時間がかかり、しかも仲間は満身創痍。依頼の達成率は著しく低下していった。
「どうなっているんだ……最近の俺たちは……」
パーティの戦士が、疲弊しきった顔でつぶやく。
「レオンがいた頃は、こんなに苦戦しなかった……」
その名前が出た瞬間、ガイアスがカッとなった。
「奴の名前を出すな!あいつは寄生虫だ!俺たちが不調なのは、たまたま運が悪いだけだ!」
だが、その言葉に、もはや以前のような説得力はなかった。
仲間たちの間にも、ガイアスのリーダーシップに対する不信感が芽生え始めていた。功績は全て自分のものにし、失敗は他人のせいにする。レオンがいなくなったことで、その傲慢な本性がより一層、浮き彫りになっていた。
ギルドでの評判も、地に落ちつつあった。
「最近の『神聖なる光刃』は精彩を欠くな」
「ああ。簡単な依頼も失敗続きらしいぜ」
「勇者様も、なんだか焦っているように見えるな」
そんな噂話が、酒場のあちこちで囁かれている。
ガイアスはそれが悔しくて、苛立ちを募らせるばかりだった。なぜだ。なぜ、うまくいかない。聖剣はここにある。聖女もいる。戦士も魔法使いもいる。ただ、あの【解析眼】とかいうゴミスキルを持った男が一人消えただけではないか。
それなのに、全てが狂ってしまった。
「ガイアス様……」
セラフィナが、心配そうに彼を見つめる。彼女の心の中には、日に日に大きな後悔が渦巻いていた。
あの日、自分がもっと勇気を出してガイアス様を止めていれば。レオンさんを引き留めていれば。
だが、今となっては後の祭りだった。レオンの行方は知れず、彼らがいるのは凋落への坂道を転がり落ちる、厳しい現実の中だけだった。
彼らはまだ、これがただの序曲に過ぎないことを知らなかった。本当の絶望は、この先に待っているということを。




