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第6話「森の訳あり天才エルフ」

 アティス村は豊かになった。食料問題は解決したが、次なる課題は生活の質の向上だった。農具、調理器具、家屋――より良いものがあれば、暮らしはもっと快適になる。


 村長に相談すると、この近くの森の奥に、腕の良い魔道具技師が一人で暮らしているという話を聞いた。しかし、変わり者で、めったに人と会わないらしい。


 それでも、俺は会ってみる価値があると思った。最高の素材は【解析眼】で見つけられる。あとは、それを形にしてくれる最高の技術者さえいれば、鬼に金棒だ。


 俺はルナを肩に乗せ、森の奥深くへと向かった。


 数時間歩くと、木々の間にひっそりと佇む、蔦の絡まった奇妙な形の工房が見えてきた。


 扉を叩くと、中から不機嫌そうな声がした。


「何の用だ。うちは今、客は取ってない」


「アティス村の者です。どうしても作ってほしいものがあって来ました」


 しばらくの沈黙の後、ぎぃ、と音を立てて扉が少しだけ開いた。隙間から覗いたのは、尖った耳と、警戒心に満ちた翠色の瞳。美しいが、どこか世を拗ねたような表情をしたエルフの女性だった。


「……人間が何の用だ。私の作るものは、誰にも理解できない。時間の無駄だ、帰れ」


 彼女はそう言って扉を閉めようとする。その瞬間、俺は工房の中にあった設計図の山に【解析眼】を向けた。


 そこに描かれていたのは、常識外れの発想の数々だった。


【対象:自動水汲み上げ装置の設計図】

【構造:魔力回路を利用し、半永久的に水を汲み上げる革新的な設計。ただし、エネルギー効率の計算に微細なミスがあり、現状では安定稼働しない。修正には『ミスリル銀』を回路の一部に組み込む必要がある。】

【評価:時代を100年先取りした、まさに天才の発想。】


 他にも、作物の鮮度を長期間保つ魔力冷蔵庫、少ない魔力で高熱を生み出す調理器など、どれもが画期的なものばかりだった。だが、どれも完成まであと一歩のところで、致命的な欠陥を抱えていた。


 彼女は天才だ。だが、その発想に時代が、そして彼女自身の知識が追いついていない。


「待ってください!」


 俺は閉まりかけた扉を押しとどめ、一気にまくし立てた。


「あなたの作っている自動水汲み上げ装置、エネルギー効率の計算が合わないのは、魔力伝導率が足りないからです。回路の接合部に、ほんの少し『ミスリル銀』を使えば、安定して稼働するはずだ!」


 エルフの女性――シルヴィアは、目を見開いて固まった。


「な……なぜ、それを……?その設計図は、誰にも見せたことはない……」


「あなたの工房にある他の設計図も見させてもらった。どれも素晴らしい。でも、あと一歩足りない。魔力冷蔵庫は断熱材の選定ミス。調理器は魔力変換率の最適化ができていない。でも、それも全て解決できる」


 俺は【解析眼】で視た解決策を、次々と口にした。


 シルヴィアは最初、呆然としていたが、やがてその表情は驚愕に、そして歓喜へと変わっていった。


「すごい……すごいわ!私の理論の欠点を、どうしてあなたが……!?」


「俺には、物の本質が見えるんです」


 彼女は、シルヴィアと名乗った。


 話を聞けば、彼女は革新的すぎる発想がエルフの一族の伝統と相容れず、異端者として扱われ、半ば追放される形でこの森に引きこもっていたらしい。


 誰にも理解されない孤独の中で、彼女は一人、研究を続けていたのだ。


「レオン……あなた、神様なの?」


 シルヴィアは、潤んだ瞳で俺を見つめていた。


「俺はただの人間だよ。でも、あなたの力になりたい。シルヴィア、俺たちの村に来て、あなたのための工房を建てないか?必要な素材は俺が集める。あなたの作りたいものを、自由に作ってほしい」


 俺の言葉に、シルヴィアはこくりと頷き、そして大粒の涙をこぼした。


「……私の力を、必要としてくれるの……?」


「ああ。世界一の魔道具技師の力を、ぜひ貸してほしい」


 その日以来、シルヴィアは人が変わったように明るくなった。アティス村に移り住んだ彼女は、俺が提供する最高の素材と、俺の的確な助言を得て、その才能を爆発させた。


 村には次々と便利な魔道具が生まれ、人々の生活は飛躍的に向上した。


 そしてシルヴィアは、自分の才能を唯一理解してくれた俺に、絶対的な信頼と、それ以上の熱い感情を寄せるようになっていた。訳ありの天才エルフは、こうして俺たちの楽園の重要な一員となったのだ。

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