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第4話「運命のもふもふ」

 アティス村での暮らしは、穏やかだった。村人たちに感謝され、リリアの家族に世話になりながら、俺は村の復興を手伝っていた。【解析眼】を使えば、痩せた土地を肥沃にするための最適な堆肥の作り方や、効率的な作物の育て方まで分かる。村は日に日に活気を取り戻していった。


 そんなある日、俺は気分転換に村の裏山を散策していた。豊かな自然を解析しながら歩くのは、純粋に楽しかった。


 その時、不意にかすかな呻き声が耳に届いた。獣のような、苦しげな声だ。


 声のする方へ向かうと、茂みの中に古びた狩猟用の罠が仕掛けられており、そこに一匹の子狐が挟まっていた。


 その子狐は、ただの子狐ではなかった。雪のように真っ白な毛並みは月光を浴びたかのように輝き、額には小さな三日月の模様がある。その美しさは、神聖さすら感じさせた。


 しかし、その体は罠によって深く傷つき、ぐったりとしている。


 俺はすぐに駆け寄り、そっと【解析眼】を発動させた。


【対象:神獣・月光狐げっこうこの幼体】

【状態:重傷。罠による物理的ダメージに加え、生命の危機により体内の魔力が暴走寸前。放置すれば魔力爆発を起こし、半径500メートルを消し飛ばして自壊する。】

【対処法:まず、体内の魔力循環を安定させる必要がある。首筋の『静脈点』と腹部の『魔力核』を同時に圧迫し、暴走する魔力を外部に逃がす。その後、傷口に『清浄苔』を塗り込み、止血と治癒を促進させること。】


「神獣……!?」


 伝説上の存在が、こんなところで瀕死になっているとは。しかも魔力爆発の危険まである。一刻の猶予もなかった。


 俺は慎重に子狐に近づき、解析で示された二つのポイント――首筋と腹部――を、寸分たがわぬ力加減で圧迫した。


「クゥ……ン」


 子狐が苦しげに鳴く。だが、その体から荒れ狂っていた魔力のオーラが、ふっと霧散していくのが分かった。


 第一段階は成功だ。


 次に、近くの岩場に生えていた「清浄苔」を採取し、傷口に優しく塗り込んでいく。すると、あれほど酷かった出血が、見る見るうちに止まっていった。


 子狐はぐったりとしながらも、俺の顔をじっと見つめている。その黄金色の瞳には、警戒心よりも、安堵の色が浮かんでいた。


 俺は子狐を慎重に腕に抱き、村の自分の寝床へと連れ帰った。リリアは神々しい子狐の姿に驚いていたが、事情を話すと、献身的に看病を手伝ってくれた。


 数日間、俺たちはつきっきりで子狐の世話をした。俺が【解析眼】で子狐の状態に最適な薬草を調合し、リリアがそれを優しく与える。


 子狐は驚異的な回復力で、みるみるうちに元気を取り戻していった。


 そして五日目の朝。俺が目を覚ますと、腕の中で眠っていた子狐がもぞもぞと動き出し、ぺろり、と俺の頬を舐めた。


 その仕草は、完全な信頼と親愛を示していた。


「もう大丈夫そうだな、お前」


 俺がそう言って頭を撫でると、子狐は気持ちよさそうに目を細め、「きゅん!」と嬉しそうに鳴いた。


 その瞬間、俺の頭の中に、直接声が響いた。


 《ありがとう、ニンゲンの子。我を救ってくれたこと、感謝する》


「……喋った!?」


 《念話だ。我が主と認めた者にしか使わぬ。我が名はまだない。主に名付けてほしい》


 まさか、言葉まで通じるとは。俺は驚きながらも、その美しい白銀の毛並みと、神秘的な雰囲気から、一つの名前を思いついた。


「そうだな……月の光みたいに綺麗だから、『ルナ』はどうだ?」


 《ルナ……良い名だ。今日から我はルナ。そして、お主は我が主、レオンだ》


 ルナはそう言うと、俺の膝の上で丸くなった。そのもふもふとした毛並みは、極上の毛布よりも心地よかった。


 こうして俺は、伝説の神獣「月光狐」を、新たな相棒(兼、もふもふ要員)として迎えることになった。


 この小さな出会いが、俺と、そしてこの世界の運命を大きく動かしていくことになるなど、この時の俺はまだ知る由もなかった。

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